14. そろそろおふざけは終わりです。
その後もアデルの武勇伝は積み上がり、作戦が功を奏したのか(?)王家から招待状が届いた。
王家から正式な招待を受けた者だけが参加を許される、年に一度の祝賀園遊会。
アデルはその招待状を胸に抱いた。
(ようやくね。)
今回の標的は、オルブライト公爵。
今までとは違う。
彼こそが、本命であり最後の標的である。
オルブライト公爵には、昔から仄暗い噂が絶えなかった。
領民が忽然と姿を消す。
人身売買に手を染めている。
幼い子どもを好み、嗜虐趣味まであると囁かれている。
それでも、誰も公爵には手を出せない。
王家から臣籍降下した者を祖に持つ名門であり、公爵に歯向かった者は容赦なく消されると言われていたからだ。
(……ちょうどいいわ。)
アデルは、純白のドレスに袖を通した。
(潔く散る。これは私の死装束よ。)
ルーカスも。
リゼットも。
マルクスも。
そして、その二人の娘として生まれた私自身も。
全てを道連れにする。
鏡に映る幼い自分を見つめ、アデルは静かに息を吐いた。
(私は、ここで終わる。)
(さぁ、最後の仕事よ。エマ。公爵に一太刀浴びせるのよ。)
✥✥✥✥✥
ルーカスとリゼットに連れられ、アデルは王宮の庭園を訪れた。
美しく整えられた庭には、白いクロスの掛かったテーブルが並び、王族や高位貴族たちが談笑している。
今まで参加した会とは、明らかに空気が違った。
王族。
公爵。
侯爵。
そして、王国に大きな功績を挙げた者たち。
アデルは小さく息を呑んだ。
その中に、オルブライト公爵を見つけた。
公爵は王族たちと同じテーブルに腰掛け、穏やかに雑談を楽しんでいる。
(……いる。)
アデルは目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
心臓が嫌になるほど大きく鳴っている。
(私は、ここで終わる。)
そう言い聞かせ、オルブライト公爵へ向かって歩き出した。
そして――。
何食わぬ顔で、公爵の膝へちょこんと腰を下ろした。
周囲の貴族たちが、一斉に目を見開く。
「アデル!」
リゼットが慌てて駆け寄り、アデルを引き離した。
「申し訳ございません、オルブライト公爵様。アデルが大変失礼を――」
アデルは不思議そうに首を傾げた。
「リゼットが公爵様に会ったら、お膝に乗るんだよって言ったじゃない。」
「そんなこと――」
リゼットが言葉を遮ろうとしたが、アデルは気にせず続けた。
「ルーカスとリゼットとマルクスに、公爵様のお城へ連れて行かれた時、お膝に乗って、色々触られても我慢しろって言うじゃない。」
アデルは不満げに唇を尖らせた。
完全に、空気が止まった。
誰も口を開かない。
王弟殿下が、静かに席を立った。
オルブライト公爵は、一瞬だけアデルを見つめると、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「お嬢ちゃん、何を言っているんだい。私とは今日が初めてだろう?」
優しい声だった。
けれど、その目は全く笑っていなかった。
「ああ。最近お騒がせのアデル嬢だったかな。大人をからかうものではないよ。」
「でも――」
「アデル!」
今度はルーカスまでやって来た。
アデルは二人に腕を掴まれ、そのままずるずると別の席へ連れて行かれた。
振り返れば、オルブライト公爵は既に何事もなかったように会話へ戻っている。
周囲の貴族たちも、少しずつ談笑を再開した。
園遊会は、そのまま何事もなかったかのように続いていった。
(さすがに王族や高位貴族ね。全く意に介さないわね。一矢報いることなく私は消される…)
アデルは項垂れるのであった。




