15. 一斉捜査
王弟殿下は急ぎ席を立つと、そのまま騎士たちを引き連れ、ウェルツ伯爵邸へ向かった。
騎士たちが一斉に邸を取り囲む。
「誰もここから動くな。」
王弟殿下の声が響いた。
執事のマルクスが、毅然とした態度で前へ出る。
「如何に王弟殿下であらせましても、これは越権行為ですぞ。」
王弟殿下は懐から一枚の書状を取り出した。
陛下の署名が入った捜索令状。
そして、もう一枚。
「マルクス。お前には逮捕状も出ている。動くな。」
マルクスの顔が強張った。
すぐさま騎士たちが両腕を取り、縄を掛ける。
そのままウェルツ伯爵邸の一斉捜索が始まった。
引き出しという引き出し。
クローゼットの中。
棚の奥。
ありとあらゆる場所がひっくり返されていく。
侍従たちは玄関へ集められ、震えながら騎士たちが行き交うのを見守るしかなかった。
王弟殿下が向かったのは、エマの父――前ウェルツ伯爵の寝室だった。
ここは、前伯爵が最後まで過ごした場所。
主を失ってから時が止まったかのように、静まり返っている。
王弟殿下は部屋を見渡した。
特に変わったところはない。
引き出しを開け、ベッドの下まで探す。
そして、ふと目に入った。
ベッドの向かいに掛けられた、一枚の絵画。
王弟殿下は絵を外した。
その裏に、小さな隠し金庫が現れる。
中に入っていたのは、人身売買の取引記録。
金額。
人の名前。
外国へ繋がる経路。
そして、前ウェルツ伯爵の名を使った書類まで残されていた。
王弟殿下は奥歯を噛み締める。
(マルクスめ……。)
前伯爵に全ての罪を擦り付けるつもりだったのだ。
死んだ後まで利用するつもりだったのか。
王弟殿下は怒りに身を震わせた。
✥✥✥✥✥
以前にも、人身売買の裏取引へ捜査の手は伸びていた。
捕らえられた男は、当時のウェルツ伯爵――エマの父の名を口にした直後、自害した。
一時は、ウェルツ伯爵の単独犯とも考えられた。
だが、そこで捜査を終わらせるには不自然な点が多すぎた。
背後には、オルブライト公爵の影が見え隠れしていたのである。
ウェルツ伯爵を逮捕して終われば、蜥蜴の尻尾切りになるかもしれない。
本当に繋がっている者が、別にいる。
慎重に捜査が続けられている最中、前ウェルツ伯爵は命を落とした。
同時に、人身売買もぱたりと止んだ。
事件は、そのまま暗礁に乗り上げたのである。
ところが最近になり、再び人身売買が動き始めた。
手口こそ以前とは変えていたが、外国へ人を流す経路を持つ者など、そう多くはない。
捜査を進めるうち、再びオルブライト公爵へ繋がる線が浮かび上がった。
そこへ――。
園遊会でのアデルのあの一言である。
王弟殿下は、好機を逃さなかった。
そして、マルクスの寝室からも次々と証拠が見つかった。
人身売買の取引記録。
裏帳簿。
横領の証拠。
出るわ、出るわ。
セドリックが学園の寮へ入り、屋敷に目を光らせる者がいなくなったことで、マルクスは完全に油断していた。
長い間好き放題してきた、そのツケが。
今、一気に姿を現したのである。




