エピソード8 体育館に響く声
県大会予選まで、あと二週間。
私立桜ヶ丘学園女子バスケットボール部では、最後の追い込みが続いていた。
朝七時。
体育館には、まだ数人しか集まっていない。
その中に、春風葵の姿があった。
ドリブル。
シュート。
レイアップ。
一本一本を確かめるように練習を続けている。
体育館へ朝日が差し込み、汗がきらりと光った。
「おはようございます!」
元気な声が入口から響く。
神崎蒼真だった。
両手にはボールバッグと給水用のタンクを抱えている。
「おはよう。」
葵は笑顔で応えた。
「今日も早いね。」
「先輩こそ。」
蒼真はバッグを置く。
「もう練習してたんですね。」
「朝は集中できるから。」
そう言って再びシュートを放つ。
ネットだけを揺らす綺麗なシュート。
「すごい……。」
蒼真は思わず見入ってしまう。
◇
朝練が始まる。
部員たちが集まり、いつものメニューが始まった。
「速攻!」
「戻る!」
キャプテンの声が飛ぶ。
全員が全力でコートを駆け回る。
蒼真はタイムを計り、給水の準備をしながら練習を見守っていた。
「春風先輩!」
パス。
葵が受け取り、そのままドライブ。
シュート成功。
その瞬間だった。
「ナイスシュート!」
蒼真が思わず大きな声で叫んだ。
一瞬、体育館が静かになる。
部員たちは顔を見合わせた。
次の瞬間――
「ありがとう!」
葵が笑顔で返した。
その一言で、体育館全体の空気が変わる。
「ナイス!」
「もう一本!」
自然と全員の声が大きくなった。
◇
休憩時間。
「蒼真くん。」
葵がスポーツドリンクを受け取りながら笑う。
「さっきの応援。」
「すごく嬉しかった。」
蒼真は照れくさそうに頭をかく。
「すみません。」
「つい声が出ちゃって。」
「謝らなくていいよ。」
葵は首を振る。
「ああいう声があると、もっと頑張ろうって思える。」
その言葉に蒼真はほっとしたように笑った。
「本当ですか?」
「本当。」
「これからも応援して。」
「もちろんです!」
◇
午後。
実戦形式の練習が始まる。
葵のチームは劣勢だった。
何度も相手に得点を許す。
焦りが見え始めた、その時。
「春風先輩!」
蒼真の声が体育館に響く。
「落ち着いてください!」
「いつもの先輩なら大丈夫です!」
その声は、不思議なくらい真っ直ぐだった。
葵は一度深呼吸する。
「そうだ。」
「焦らない。」
ボールを受け取る。
仲間を信じる。
パス。
スクリーン。
再びパス。
最後は自らゴール下へ飛び込む。
シュート成功。
「ナイス!」
チーム全員が笑顔になる。
◇
練習終了後。
顧問の森田先生が部員を集めた。
「今日、一番良かったことは何だと思う?」
誰も答えられない。
先生は微笑んだ。
「声だ。」
「良いチームほど、お互いを励ます声がある。」
「今日の体育館は、今までで一番声が出ていた。」
部員たちは頷く。
「試合は技術だけじゃ勝てない。」
「仲間を信じる気持ちが勝敗を左右する。」
先生は最後に蒼真を見る。
「神崎。」
「はい!」
「いい応援だった。」
「ありがとうございます!」
蒼真は嬉しそうに頭を下げた。
◇
夕方。
体育館の片付けを終えた二人は、自動販売機の前で少し休憩していた。
「はい。」
葵はスポーツドリンクを一本差し出す。
「え?」
「今日は応援のお礼。」
「ありがとうございます!」
二人はベンチへ腰を下ろした。
「蒼真くん。」
「はい。」
「これからも、たくさん応援してね。」
蒼真は力強く頷く。
「もちろんです。」
「誰よりも応援します。」
その返事に、葵は思わず笑顔になる。
「心強いな。」
風が優しく吹き抜ける。
体育館からは、後輩たちが自主練習をする音が聞こえてくる。
その音を聞きながら、二人は静かに空を見上げた。
バスケットボールがつないだ出会い。
仲間として過ごす時間。
応援する声と、それに応える笑顔。
まだ恋という言葉には届かない。
それでも、体育館に響くその声は、二人の心の距離を少しずつ近づけていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




