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エピソード3 文化祭実行委員


 五月初旬。


 私立桜ヶ丘学園では、創立五十周年記念文化祭に向けた準備が本格的に始まっていた。


 朝の職員会議を終えた校長が、全校放送で告げる。


「今年の文化祭実行委員を発表します。」


 校内が少しざわつく。


 文化祭実行委員は、生徒会と各クラス、各部活動をつなぐ重要な役目だった。


 放課後。


 視聴覚室には、選ばれた実行委員たちが集まっていた。


 最前列には、生徒会長・春風美咲と副会長・一ノ瀬蓮。


 美咲は出席名簿を確認しながら、一人ひとりに声を掛けていた。


「今日は忙しい中、集まってくれてありがとうございます。」


 静かだった教室が、その一言で落ち着きを取り戻す。


「今年は創立五十周年という節目の文化祭です。」


「来校者の皆さんだけでなく、生徒全員が『最高だった』と思える二日間にしたいと思っています。」


 美咲は深く一礼した。


「どうぞよろしくお願いします。」


 自然と拍手が起こる。


 その様子を見た蓮は、小さく微笑んだ。


「さすが会長だな……。」



 自己紹介が始まった。


「三年A組の坂本です。」


「吹奏楽部の佐藤です。」


「演劇部の西村です。」


 次々と名前が呼ばれていく。


 全員が終わると、美咲は黒板に大きく役割を書いた。


・会場設営班


・装飾班


・広報班


・ステージ班


・模擬店管理班


・安全管理班


「希望があれば教えてください。」


 すると、蓮が一歩前へ出る。


「安全管理班について、一つ提案があります。」


 全員の視線が集まる。


「校内案内図を紙だけでなく、校舎入口にも大きく掲示した方が迷う人が減ります。」


「それと、来場者専用の案内係を配置した方が安全だと思います。」


 教室がざわついた。


「確かに。」


「そこまで考えてなかった。」


 美咲も頷く。


「その案、採用しましょう。」


 蓮は少し驚いた。


「すぐ決めるんですね。」


「良い案はすぐ取り入れたいから。」


 美咲は笑った。



 会議終了後。


 生徒会室。


「今日は助かりました。」


 美咲がお茶を差し出す。


「ありがとうございます。」


「一ノ瀬くんって、本当に周りをよく見てるね。」


「前の学校で失敗した経験があるんです。」


「失敗?」


「文化祭の日に案内不足で混雑してしまって。」


 少し苦笑する蓮。


「だから今回は同じ失敗をしたくない。」


 その言葉を聞いた美咲は静かに頷いた。


「その経験を話してくれてありがとう。」


「失敗も、次につながれば意味がありますよね。」


「うん。」


 二人は顔を見合わせ、自然と笑った。



 その日の放課後。


 校内を歩きながら、文化祭で使う場所を確認する。


「ここがステージ。」


「ここは模擬店。」


「体育館は展示会場。」


 広い校内を歩き回り、何度も図面と見比べる。


 夕方になり、校庭へ出ると、空は茜色に染まっていた。


「少し休憩しませんか。」


 蓮がベンチを指差す。


「そうだね。」


 二人は並んで腰を下ろした。


 風が吹く。


 木々が揺れる。


 静かな時間だった。


「生徒会長って、大変じゃない?」


 蓮が尋ねる。


「うん。」


 美咲は少し考えてから答えた。


「正直、大変。」


「毎日悩むこともある。」


「でも。」


 空を見上げる。


「みんなが笑ってくれる瞬間を見ると、『やって良かった』って思える。」


 蓮はその横顔を見つめていた。


「春風会長は、本当に学校が好きなんですね。」


 美咲は照れくさそうに笑う。


「うん、大好き。」


「だから最後の文化祭は絶対に成功させたい。」


 蓮も力強く頷いた。


「僕も全力で支えます。」


 その一言は、短かった。


 だが、美咲には何より心強く感じられた。



 帰り道。


 二人は校門まで並んで歩いた。


 夕焼けの中、長く伸びる二つの影。


「今日はありがとうございました。」


「こちらこそ。」


「また明日。」


「はい。また明日。」


 二人は別々の方向へ歩き始める。


 しかし、お互いに一度だけ振り返った。


 目が合う。


 小さく手を振る。


 その何気ない仕草だけで、美咲の胸は少し温かくなった。


 文化祭まで、あと三か月。


 大きな行事へ向けた準備とともに、生徒会長と副会長の距離も、少しずつ縮まり始めていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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