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エピソード4 放課後の生徒会室


 文化祭まで残り二か月半。


 私立桜ヶ丘学園の生徒会室では、放課後になると毎日のように会議が開かれていた。


 チャイムが鳴ると同時に、美咲は教室から足早に生徒会室へ向かう。


「失礼します。」


 ドアを開けると、すでに一ノ瀬蓮が机の上へ資料を並べていた。


「春風会長、お疲れさまです。」


「一ノ瀬くん、お疲れさま。」


 最近では、この何気ない挨拶も二人の日課になっていた。


 やがて書記の佐々木優奈、会計の藤原悠斗、庶務の森川彩花も集まり、生徒会役員全員が揃う。


「それでは会議を始めます。」


 美咲の一言で、生徒会室の空気が引き締まった。



 この日の議題は、文化祭当日のスケジュール確認だった。


「各クラスの出し物はほぼ決まりました。」


 優奈が資料を配る。


「模擬店は二十クラス、展示は十五団体、体育館ステージは吹奏楽部、軽音楽部、演劇部、ダンス部が出演予定です。」


 会計担当の悠斗が続ける。


「予算にも大きな問題はありません。」


 美咲は満足そうに頷いた。


「順調ですね。」


 しかし、蓮だけは資料をじっと見つめていた。


「……。」


「一ノ瀬くん?」


「少し気になることがあります。」


 全員が蓮を見る。


「昼食時間帯です。」


「模擬店へ人が集中すると、校舎中央がかなり混雑する可能性があります。」


 静まり返る生徒会室。


 美咲は資料を見直した。


「本当だ……。」


 これまで誰も気付かなかった問題だった。


「一ノ瀬くん、どうしたらいいと思う?」


「時間を区切りましょう。」


 蓮は校内図を広げる。


「三年生は十一時三十分から。」


「二年生は十二時。」


「一年生は十二時三十分。」


「一般来場者は別の導線を作れば、かなり混雑が減ると思います。」


 役員たちは驚いた表情を浮かべる。


「すごい……。」


「そこまで考えてたんだ。」


 美咲は笑顔で頷いた。


「この案で進めましょう。」



 会議は予定より一時間早く終わった。


 役員たちは次々と帰宅していく。


「失礼します。」


「お疲れさまでした!」


 ドアが閉まり、生徒会室には美咲と蓮だけが残った。


 静かな部屋。


 夕日が窓から差し込み、机の上をオレンジ色に染めている。


「今日はありがとう。」


 美咲がペットボトルのお茶を二本取り出した。


「どうぞ。」


「ありがとうございます。」


 二人は窓際の席へ移動した。


 校庭では野球部やサッカー部の掛け声が聞こえる。


「放課後って、こうして学校を眺めるの好きなんです。」


 蓮がぽつりと言った。


「私も。」


 美咲は笑う。


「みんな頑張ってる姿を見ると元気をもらえる。」


 しばらく沈黙が流れた。


 気まずさではなく、心地よい静けさだった。



「春風会長。」


「ん?」


「どうして生徒会長になろうと思ったんですか?」


 突然の質問だった。


 美咲は少し考え、ゆっくりと話し始める。


「一年生の時ね。」


「当時の生徒会長が、とても素敵な人だったの。」


「文化祭も体育祭も、全部楽しそうにまとめていて。」


「その姿を見て、『私もあんな先輩になりたい』って思った。」


 蓮は静かに耳を傾ける。


「だから立候補したんだ。」


「そうだったんですね。」


「一ノ瀬くんは?」


 今度は美咲が尋ねた。


「僕は……。」


 少し照れ笑いを浮かべる。


「人前に立つのは苦手でした。」


「えっ?」


「意外?」


「すごく。」


 二人は笑った。


「でも、中学の先生に『誰かを支える役は向いてる』と言われたんです。」


「それで副会長になりました。」


「今でも、その言葉を大切にしています。」


 美咲はその話を聞き、優しく微笑んだ。


「その先生、見る目があるね。」


「そう思います。」



 時計を見ると午後六時を回っていた。


「もうこんな時間。」


「帰りましょうか。」


 二人は生徒会室を片付け、戸締まりを済ませる。


 昇降口まで並んで歩く。


 夕暮れの廊下には、二人の足音だけが静かに響いていた。


「最近。」


 美咲が口を開く。


「一ノ瀬くんが来てくれて、本当に助かってる。」


 蓮は少し驚いた表情を見せる。


「僕もです。」


「転校したばかりで不安だったけど。」


「春風会長がいてくれたから安心できました。」


 二人は顔を見合わせる。


 自然と笑顔になった。


 校門へ着くと、桜の葉が風に揺れていた。


「また明日。」


「はい。また明日。」


 別々の道を歩き始める二人。


 振り返ることはなかった。


 けれど、お互いの心には同じ気持ちが芽生え始めていた。


 それはまだ恋とは呼べない、小さな信頼。


 しかし、その信頼は放課後の生徒会室で過ごす時間とともに、ゆっくりと特別な想いへ変わろうとしていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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