エピソード19 放課後、一緒に帰ろう
待ちに待った文化祭当日。
私立桜ヶ丘学園は、朝早くから多くの来場者で賑わっていた。
校門には色鮮やかなアーチが飾られ、吹奏楽部の演奏が来場者を迎えている。
「いらっしゃいませ!」
「こちらへどうぞ!」
校舎中に元気な声が響き、学校全体がお祭り一色になっていた。
春風ひまりも、一年一組のお化け屋敷の衣装に身を包み、笑顔で来場者を案内していた。
「こちらでーす!」
「びっくりしないでくださいね!」
怖がる子どもたちや笑いながら歩く家族連れを見て、ひまりも自然と笑顔になる。
「ひまり、お客さんいっぱいだよ!」
友達の奈々が駆け寄ってくる。
「すごいね!」
「準備頑張ったかいがあった!」
二人は顔を見合わせて喜び合った。
◇
午後になり、交代で休憩時間がやってきた。
「少し見て回ってきてもいいよ。」
担任の山下先生が声を掛ける。
「ありがとうございます!」
ひまりは文化祭のパンフレットを片手に校舎を歩き始めた。
焼きそばの香り。
クレープの甘い匂い。
中庭では軽音楽部のライブが始まり、大きな拍手が響いている。
「高校の文化祭って、本当にすごいなぁ。」
ひまりは目を輝かせながら歩いていた。
その時だった。
「春風さん。」
聞き慣れた優しい声。
振り返ると、そこには朝倉陽向が立っていた。
「あっ!」
「朝倉先輩!」
陽向はエプロン姿だった。
「模擬店、少し休憩なんだ。」
「春風さんも?」
「はい!」
「今、お化け屋敷の休憩中です。」
「そうなんだ。」
二人は自然と笑顔になった。
◇
「約束、覚えてる?」
陽向が尋ねる。
「もちろん!」
「先輩のお店へ行く約束ですよね。」
「そう。」
「よかったら今から来ない?」
「行きます!」
二人は中庭へ向かった。
陽向たち二年生のクラスは、手作りのホットサンドとレモネードを販売していた。
「いらっしゃい!」
「朝倉の知り合い?」
「一年生?」
クラスメイトたちが笑顔で迎える。
「紹介します。」
「一年生の春風ひまりさん。」
「よろしくお願いします!」
ひまりは少し緊張しながら頭を下げた。
「可愛い後輩だね。」
そんな声に、ひまりは少し照れてしまう。
◇
「はい。」
陽向は出来たてのホットサンドを差し出した。
「ありがとう!」
一口食べる。
「おいしい!」
「本当です!」
「パンがサクサク!」
「それは良かった。」
陽向も嬉しそうに笑った。
二人はベンチに腰掛け、文化祭の景色を眺めながら食事を楽しむ。
「一年生はどう?」
「楽しいです!」
「友達も優しいし。」
「先輩も優しいし。」
最後の言葉に、陽向は少し照れ笑いを浮かべた。
「ありがとう。」
◇
文化祭終了後。
校舎では片付けが始まる。
クラス全員で協力し、教室は元の姿へ戻っていった。
すべてが終わった頃には、外は夕焼けに染まっていた。
昇降口で靴を履き替えていると、陽向がやって来る。
「お疲れさま。」
「お疲れさまでした!」
ひまりも笑顔で答える。
「今日は楽しかった?」
「はい!」
「高校へ入って一番楽しい一日でした!」
「それなら良かった。」
少しだけ沈黙が流れる。
陽向は少し照れながら口を開いた。
「あのさ。」
「はい?」
「駅まで、一緒に帰らない?」
一瞬だけ、ひまりは目を丸くした。
すぐに満面の笑みになる。
「はい!」
「ぜひ!」
◇
二人は夕焼け色の通学路を並んで歩く。
文化祭を終えた学校からは、生徒たちの笑い声がまだ聞こえていた。
「今日はありがとう。」
陽向が言う。
「お化け屋敷、楽しかったよ。」
「本当ですか?」
「うん。」
「少し怖かったけど。」
「えっ?」
「先輩でも怖いんですか?」
「実はね。」
二人は笑い合う。
歩きながら、文化祭の出来事を話す。
友達のこと。
クラスのこと。
高校生活のこと。
話は尽きなかった。
◇
駅へ着く。
「今日はありがとうございました。」
ひまりが頭を下げる。
「こちらこそ。」
陽向は少しだけ空を見上げた。
「また一緒に帰れたらいいね。」
その一言に、ひまりの胸は温かくなる。
「はい!」
「私もです!」
二人は笑顔で手を振り合い、それぞれのホームへ向かって歩き始めた。
◇
帰宅したひまりは、自分の部屋の窓から夕焼けの空を眺めていた。
文化祭。
友達との思い出。
そして、朝倉陽向と初めて一緒に帰った放課後。
どれも今日だけの特別な時間だった。
まだ恋という言葉にするには早い。
けれど、「また一緒に帰りたい」と思う気持ちは、昨日よりもずっと大きくなっていた。
夕焼け色に染まる通学路。
その帰り道は、ひまりにとって忘れられない青春の思い出となる。
そして、その何気ない放課後は、二人の心をゆっくりと結び始める、大切な一歩になっていた。
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