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エピソード19  放課後、一緒に帰ろう


 待ちに待った文化祭当日。


 私立桜ヶ丘学園は、朝早くから多くの来場者で賑わっていた。


 校門には色鮮やかなアーチが飾られ、吹奏楽部の演奏が来場者を迎えている。


「いらっしゃいませ!」


「こちらへどうぞ!」


 校舎中に元気な声が響き、学校全体がお祭り一色になっていた。


 春風ひまりも、一年一組のお化け屋敷の衣装に身を包み、笑顔で来場者を案内していた。


「こちらでーす!」


「びっくりしないでくださいね!」


 怖がる子どもたちや笑いながら歩く家族連れを見て、ひまりも自然と笑顔になる。


「ひまり、お客さんいっぱいだよ!」


 友達の奈々が駆け寄ってくる。


「すごいね!」


「準備頑張ったかいがあった!」


 二人は顔を見合わせて喜び合った。



 午後になり、交代で休憩時間がやってきた。


「少し見て回ってきてもいいよ。」


 担任の山下先生が声を掛ける。


「ありがとうございます!」


 ひまりは文化祭のパンフレットを片手に校舎を歩き始めた。


 焼きそばの香り。


 クレープの甘い匂い。


 中庭では軽音楽部のライブが始まり、大きな拍手が響いている。


「高校の文化祭って、本当にすごいなぁ。」


 ひまりは目を輝かせながら歩いていた。


 その時だった。


「春風さん。」


 聞き慣れた優しい声。


 振り返ると、そこには朝倉陽向が立っていた。


「あっ!」


「朝倉先輩!」


 陽向はエプロン姿だった。


「模擬店、少し休憩なんだ。」


「春風さんも?」


「はい!」


「今、お化け屋敷の休憩中です。」


「そうなんだ。」


 二人は自然と笑顔になった。



「約束、覚えてる?」


 陽向が尋ねる。


「もちろん!」


「先輩のお店へ行く約束ですよね。」


「そう。」


「よかったら今から来ない?」


「行きます!」


 二人は中庭へ向かった。


 陽向たち二年生のクラスは、手作りのホットサンドとレモネードを販売していた。


「いらっしゃい!」


「朝倉の知り合い?」


「一年生?」


 クラスメイトたちが笑顔で迎える。


「紹介します。」


「一年生の春風ひまりさん。」


「よろしくお願いします!」


 ひまりは少し緊張しながら頭を下げた。


「可愛い後輩だね。」


 そんな声に、ひまりは少し照れてしまう。



「はい。」


 陽向は出来たてのホットサンドを差し出した。


「ありがとう!」


 一口食べる。


「おいしい!」


「本当です!」


「パンがサクサク!」


「それは良かった。」


 陽向も嬉しそうに笑った。


 二人はベンチに腰掛け、文化祭の景色を眺めながら食事を楽しむ。


「一年生はどう?」


「楽しいです!」


「友達も優しいし。」


「先輩も優しいし。」


 最後の言葉に、陽向は少し照れ笑いを浮かべた。


「ありがとう。」



 文化祭終了後。


 校舎では片付けが始まる。


 クラス全員で協力し、教室は元の姿へ戻っていった。


 すべてが終わった頃には、外は夕焼けに染まっていた。


 昇降口で靴を履き替えていると、陽向がやって来る。


「お疲れさま。」


「お疲れさまでした!」


 ひまりも笑顔で答える。


「今日は楽しかった?」


「はい!」


「高校へ入って一番楽しい一日でした!」


「それなら良かった。」


 少しだけ沈黙が流れる。


 陽向は少し照れながら口を開いた。


「あのさ。」


「はい?」


「駅まで、一緒に帰らない?」


 一瞬だけ、ひまりは目を丸くした。


 すぐに満面の笑みになる。


「はい!」


「ぜひ!」



 二人は夕焼け色の通学路を並んで歩く。


 文化祭を終えた学校からは、生徒たちの笑い声がまだ聞こえていた。


「今日はありがとう。」


 陽向が言う。


「お化け屋敷、楽しかったよ。」


「本当ですか?」


「うん。」


「少し怖かったけど。」


「えっ?」


「先輩でも怖いんですか?」


「実はね。」


 二人は笑い合う。


 歩きながら、文化祭の出来事を話す。


 友達のこと。


 クラスのこと。


 高校生活のこと。


 話は尽きなかった。



 駅へ着く。


「今日はありがとうございました。」


 ひまりが頭を下げる。


「こちらこそ。」


 陽向は少しだけ空を見上げた。


「また一緒に帰れたらいいね。」


 その一言に、ひまりの胸は温かくなる。


「はい!」


「私もです!」


 二人は笑顔で手を振り合い、それぞれのホームへ向かって歩き始めた。



 帰宅したひまりは、自分の部屋の窓から夕焼けの空を眺めていた。


 文化祭。


 友達との思い出。


 そして、朝倉陽向と初めて一緒に帰った放課後。


 どれも今日だけの特別な時間だった。


 まだ恋という言葉にするには早い。


 けれど、「また一緒に帰りたい」と思う気持ちは、昨日よりもずっと大きくなっていた。


 夕焼け色に染まる通学路。


 その帰り道は、ひまりにとって忘れられない青春の思い出となる。


 そして、その何気ない放課後は、二人の心をゆっくりと結び始める、大切な一歩になっていた。



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