エピソード18 文化祭の準備
六月。
校庭の木々は鮮やかな緑に染まり、桜ヶ丘学園では文化祭の準備が本格的に始まっていた。
校舎のあちらこちらから金づちの音や笑い声が聞こえ、学校全体がどこかお祭りのような雰囲気に包まれている。
一年一組の教室でも、ホームルームが始まっていた。
「今年の文化祭は、一年一組は『お化け屋敷』に決まりました。」
担任の山下先生が黒板に大きく書く。
教室中から歓声が上がった。
「やったー!」
「楽しそう!」
「衣装も作ろう!」
ひまりも目を輝かせる。
「絶対楽しい!」
クラスメイトたちは早速役割分担を始めた。
「大道具係!」
「受付係!」
「衣装係!」
すると、クラス委員の奈々が手を挙げる。
「ひまりは飾り付けが得意そうだから、美術担当どう?」
「えっ?」
「私?」
「うん!」
「絵も上手だったし!」
ひまりは少し驚いたが、笑顔で頷いた。
「よし、頑張る!」
◇
放課後。
教室には多くの生徒が残り、文化祭の準備が始まる。
段ボールを切る人。
ペンキを塗る人。
小道具を作る人。
ひまりは大きな模造紙へ、お化け屋敷の看板を描いていた。
「ここをもう少し怖く……。」
「でも可愛さも欲しいな。」
一生懸命に色を塗っていると――。
「あれ?」
絵の具を取ろうとして手が滑る。
「あっ!」
パレットが机から落ちそうになる。
その瞬間。
「危ない!」
誰かが素早く受け止めた。
「大丈夫?」
見上げると、朝倉陽向だった。
「あっ!」
「朝倉先輩!」
ひまりはほっと胸をなで下ろす。
「ありがとうございます。」
「間に合ってよかった。」
陽向は笑顔でパレットを渡した。
◇
「朝倉先輩も文化祭の準備ですか?」
「うん。」
「二年生は中庭で模擬店。」
「ちょっと材料を取りに来たところ。」
「そうだったんですね。」
陽向はひまりの描いている看板を見る。
「すごい。」
「上手だね。」
「本当ですか?」
「うん。」
「これならお客さんがたくさん来そう。」
その言葉に、ひまりの表情がぱっと明るくなる。
「嬉しい!」
「もっと頑張ります!」
◇
その後も準備は続いた。
クラス全員で協力しながら少しずつ完成へ近付いていく。
「段ボール持って!」
「ガムテープお願い!」
「ひまり、その文字すごくいい!」
教室中に笑顔があふれていた。
夕方になり、一年一組のお化け屋敷は形になり始めていた。
◇
帰ろうとした時だった。
廊下で再び陽向と出会う。
「あっ。」
「今日も会いましたね。」
ひまりが笑う。
「本当によく会うね。」
陽向も笑った。
「準備、お疲れさま。」
「先輩もお疲れさまです!」
二人は並んで昇降口まで歩く。
「文化祭、楽しみ?」
「すごく楽しみです!」
「初めてだから全部新鮮で。」
「朝倉先輩のお店にも行っていいですか?」
「もちろん。」
「待ってるよ。」
「約束ですね!」
「約束。」
二人は笑顔で頷き合った。
◇
翌日。
昼休み。
ひまりは文化祭のポスターを掲示板へ貼っていた。
すると美咲が通りかかる。
「ひまりが描いたの?」
「うん!」
「どう?」
美咲はじっくり眺める。
「すごく上手。」
「一年生とは思えない。」
「本当に?」
「自信を持っていいよ。」
姉に褒められたひまりは、少し照れながらも嬉しそうに笑った。
◇
放課後。
文化祭まであと数日。
校舎は完成へ向けてさらに賑わいを見せていた。
ひまりは教室の窓から校庭を眺める。
二年生の模擬店準備をしている陽向の姿が見えた。
楽しそうに仲間と笑い合っている。
その姿を見ているだけで、不思議と自分も笑顔になる。
「文化祭、早く来ないかな。」
初めての高校文化祭。
クラスのみんなと力を合わせて作る思い出。
そして、約束した朝倉陽向との再会。
期待で胸がいっぱいだった。
文化祭は、ただのお祭りではない。
仲間との絆を深め、新しい出会いや思い出を育む特別な時間。
その準備期間もまた、青春という名の大切な一ページだった。
ひまりの高校生活は、笑顔とともに少しずつ色鮮やかになっていく。
そして文化祭当日、二人の距離は今よりもう少しだけ近づくことになるのだった。
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