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花道闊歩 -異世界の光る球に転生した最弱生物は、死ぬ運命の女の子二人を絶対!老衰エンドに歩ませます!-  作者: ガリガリワン
第一幕 第一章 貧乏少女編

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第八話 貧乏脱出確定ルート


 ケルエタはユユジュのジュースを一つ売り上げた。


「銅貨二枚ってのも、良心的な価格だよね〜。もっと高くするべきだとは思うけど……ま、早速頂くね」


 エルメットという男は腰に剣を差しながらも、見るからに貴族の護衛という印象。そんな彼は今、ケルエタの前で瓶を開ける。


「兄貴! オレッちが先に毒見を……ォォオ〜!?」


 ピドッドがそう提案した矢先、エルメットは飲み口にそっと口をつけて、ユユジュのジュースを飲み始めた。


「兄貴ィ! 死んじまうよォ〜!!」


 ピドッドが慌てた様にエルメットの周りをうろちょろし始めれば、彼は止まることなく瓶の中身を一気飲みし終える。


「っは……はぁはぁ……なんだこれ」


 ケルエタとフリィアはエルメットの顔を見つめた。


「も、もう一本買わせてくれ」


「……え、あ、はい!」


 エルメットは銅貨を二枚机に置き、瓶を一本とってピドッドの手に無理矢理握らせる。


「飲め!」


「えェァ〜!? なんでェっすかァ!」


「いいから飲んでみろって!」


「……わーりましたァヨぉ!」


 飲むことを強要されたピドッドは、恐る恐る瓶を開けて飲み口を歯で噛み、豪快にゴクゴクと飲み始めた。


「ケルエタさん……味は大丈夫かな?」


「フリィアちゃん……多分これは──」


 次の瞬間、ケルエタの声を遮ってピドッドが叫ぶ。


「うんまァアアアアア!! んだヨぉコレェ!!」


 飲み終わってピドッドは瓶を口から離し、青空に向かって顔を上げた。


「だろう!? 美味すぎる……なんなんだこれは」


 商売は大成功。相当な高評価である。


「お気に召しましたか?」


 ケルエタがそう聞くと、エルメットとピドッドはこちらに顔を向けて頷く。そんな様子を見たフリィアは、とても嬉しそうだった。


「君たち名前は?」


 すると、エルメットが名を尋ねてくる。


「私はケルエタです」


「えっと、わたしはフリィア・サタニルドです」


 そして、エルメットはピドッドへ耳打ちした。


「了解っすゥ兄貴ィ!」


「頼んだよ」


 何を話したのだろうか、ケルエタがそんなことを気にしていると、エルメットは走り出す。すでに代金は貰ってるので何も咎めることはないが、走り出したことに妙に興味が湧く。


「はっや……えぇ、速すぎません?」


「多分、剣士の人ですよ。お強い人ですね!」


 ケルエタはドン引きだった。エルメットの速度は車並みだったのだ。あんなバケモノが剣士にはうじゃうじゃいるのだろうか。


「兄貴はちょ〜強ェんだヨぉ! なんせエルメットの兄貴は上級でさァ。自慢の兄貴だぜェ!」


 ピドッドはケルエタたちの会話を聞いて満足しているようで、彼がいかにエルメットを慕っているか知れた。


「そうなんですね……その、聞いてもいいんですかね。そのエルメットさんは……何をしに?」


「ん? あァ、驚かせたいから秘密にしろって言われたんだァ、言えねェなァ〜〜」


 質問には答えないピドッド。チャランポランな見た目だが、意外にも口は硬いようである。


「……そうですか」


「気になる……」


 ケルエタとフリィアは、自身らが驚かされることはなんだろうと、深く悩み始めた。しかし、それに対して結論が出る前に、多くの足音が聞こえてきた。


「お、兄貴ィ帰ってきたァ!」


(……え? そんな時間経ったの!?)


 数十分、エルメットはある三人を連れてくる。

 そして、その顔ぶれには見覚えがあった。


「……え」


「ボ、ボボ、“ボルワール”家の人たちですよ……ケっ、ケルエタさん!」


 フリィアがケルエタにそう言えば、桜の髪色を見せる少女が大きく声を上げる。


「目が飛び出すほど美味しい飲み物があるって聞いたけど!! どこなの!! 早く出してよ!!」


「まあまあ、リルメスお嬢様落ち着いてぇ……」


 リルメス・レクセト・ボルワール。

 ケルエタが老衰させるべきもう一人の女の子。


(マジか……いや、エルメットって人が貴族っぽいのはわかってたけど、マジかよ……マジか、マジ?)


 驚きしかない。一世一代の大チャンス。ケルエタは一ヶ月にも満たない異世界生活で、難関であるリルメスとの接触を果たしたのだ。


「ケルエタさん、三本買ってもいいかな?」


 エルメットが机に近づいてきて、銅貨を六枚置いた。なので、ケルエタは「もちろんです……」と言って、瓶を三本売り上げる。


「お嬢様、これですこれ! 飲んでみてください!」


 エルメットは嬉々としてリルメスに一本瓶を渡すと、彼女はそれを手に取って瓶を開けた。


「美味しくなかったら許さないんだから!」


「任せてください。俺の舌は確かです」


 そう言って彼は、残る二人にも瓶を渡す。


「エルメットさん……ユユジュと聞きましたが」


「グラバさん、これ……マジで美味しいです」


「エルメットの舌は確かだからねぇ……」


 ケルエタは机越しにフリィアとリルメスを見つめ、彼女が中身を口に含んだ瞬間を目にする。思わず息を呑んでしまう緊張感、ここで運命が変わる。


「ケルエタさん……」


「大丈夫……味は絶対大丈夫です」


 二人の不安。それを踏み躙るが如く、リルメスは瓶の中身を一気飲みした──勝ちが確定した。


「美味しい……っ! 美味しい美味しい!!」


 リルメスはとび跳ねながらキャッキャと喜び、頬を赤らめて非常に美味だと評価している。絶賛である。


「よっし……!」


「やった……!」


 ケルエタとフリィアは安堵しながら喜ぶ。貴族のお嬢様が絶賛する商品つまり、爆売れ必至だ。


「っは……美味しいですね。これ」


「美味しいぃ、若返りそうじゃのう」


 他二人からも高評価、ケルエタは段々とこの状況が気持ち良く思えてくる。


(……こんな美味い美味い言われたの初めてだな。そもそも、居酒屋店員だし料理人じゃないから……美味いだとか言われても言われなくてもって感じだけど、言われるとやっぱ……嬉しいな。気分が良い)


 ケルエタはふと、フリィアに視線を向けた。


(フリィアちゃんも……嬉しそうだ。よかった)


 彼女もニコニコと喜びを噛み締めている様で、日本にいた頃、彼は味わったことのない気分に浸る。


「グラバ! これ全部買うわよ!!」


 リルメスはアホ毛をぴょこぴょこと揺れさせながら、並ぶ瓶を指さして高らかに宣言した。


「え、えぇ? 全部というのは……」


「なによ!! お金払うんだからいいでしょ!」


(わがままお嬢様……だが、俺はここで「はい全部売りますよ」なんて言わない。貴族だろうが商品の価値は下げない。需要と供給……俺は三流じゃないんだ)


「すみません……他のお客様もいますし……」


「はぁ!? 買えないってこと!?」


「すみません〜……」


 いくら貴族と言えど、商人を乱暴に扱うことはない。これに関しては、リルメスがどれだけわがままを言おうと意味がない。


「グラバ〜っ! なんとかしてよ!」


「リルメスお嬢様……どうしようもできませんよ」


 ケルエタは彼女から強く睨まれた。腕を組んでジッとこちらを見るリルメスは、少しすると大股で机に近づいてくる。


(え……え、なになに、え? 待ってなに怖い!)


 リルメスは両手で机をダンっと叩き、その場にいる者らが驚愕することを口にした。



「じゃああなた達、雇うわ! ボルワール家だけの商人になりなさい! 屋敷に住んで良いわよ!!」


 ?


「?」


(?)


 全員が困惑する。


「え……っと? え? それは……?」


(屋敷に住む……? ん? どういうことだ?)


 ケルエタは頭が混乱していた。


「屋敷に住んで……作って渡すってこと……?」


 フリィアはゆっくりと言われたことを理解する。


「だから言ってるでしょ! 屋敷に住んで作ってよ! お金もいっぱい払うし……いいでしょ! ね、お願い! あたしこれ気に入ったの!」


 リルメスはケルエタとフリィアを交互に見ながら、そう必死になってお願いする。よっぽど気に入ったのだろう。


「リルメスお嬢様……こちらの方々は貴族ではっ」


「あたしが良いって言うんだから良いの!!」


「……マジかヨぉ〜すんげェな」


(いや俺が一番そう思ってるよ……マジなの?)



 ◇ ◇ ◇



(マジだ……)


 ケルエタとフリィアは、リルメスらに連れられて屋敷へと来ていた。


 ケルエタはなんの運命か、たった一日でフリィアを貧困生活から抜け出すことに、一発で成功。しかも、リルメスというもう一人の対象と接触した上でだ。あまりにも上手くいった事柄に、ケルエタは現実を夢だと疑う。


(さすがに……これ、いいよな? めちゃくちゃに喜んでいいよな?)


 ケルエタはこの日、異世界における大きな課題を二つクリアした。



 だが──まだまだ課題は多く残る。


 このわがままお嬢様とどう関わるかが、今後のケルエタにとっての、一つの課題である。

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