第三話 死のリスト
坂田はフリィアの住むボロ家にて。
「おばば、お水汲んでくるね」
「気を付けるんだよぉ」
相変わらず透明でありながら観察中、異世界に転生して今日で二日目。結局今は何もできないため、色々と情報を取り込むことが出来た坂田であった。
(……この青い画面、なんて呼ぶべきか)
彼は一つの疑問を抱いている。
(二人の死ぬタイミングが映されてるリスト……ご丁寧に危険度まで書かれてるし、低・中・上・超・極って、ほんっとゲームみたいなシステムだな)
青い画面。自身が出てきてほしい時や出てほしくない時、勝手に空気を読んで消えたりしてくれる存在。
(死ぬタイミングが書かれてるし、“死のリスト”でいっか)
改めて、死のリスト。坂田は目覚めてからそれを眺めていた。
「うん、気を付けるね……!」
(……にしても、バカじゃねぇのw? 何回死ぬタイミングあるんだよw……!)
[1/3893]
大体1ページに40個ほどの死が記されている。それが3893ページ。坂田はあまりのクソゲーにもはや笑ってしまう。
その間にも、自身が守るべきフリィアという少女は、今日を生きるために家から出かけてしまった。彼もそれに合わせて動き出す。
(リルメスの方も、3897ページ……どっちも多すぎるって感じだな。なんだこれ)
青い画面はフリィアともう一人の守る対象、リルメスで分かれていた。どちらもとんでもない量の死が待ち構えており、冗談を疑いたくなる。
(……やめだやめ! 今は他のことを考えよう)
仄かに暖かさを感じる季節、おそらく今ここは春を迎えている。坂田はフリィアの後ろを浮きながら尾行し、彼女の容姿などについて考え始めた。
(しっかしまあ……めちゃくそに美形だな! 子供の頃からこの顔立ちはとんでもねぇだろ! 異世界じゃ顔面偏差値が桁違いなのはマジだったのか)
フリィアは七歳という若さながら、非常に整った顔立ちをしている。いわゆるイケメン女子、髪も短いため余計イケメン度が高い女の子である。
(この世界じゃ俺の顔は不細工扱いだな。案外人外で正解かもな……)
坂田はそう思いながらふわふわと飛んでいると、彼女が右手に持つ小さな袋が気になった。
[全知脳が発動します]
(やっぱ気になった時に自動発動なのか……)
[貯水袋:便利アイテム
この世界で流通する携帯型のタンク。
特殊な固有魔法が施されており、
一般の物では100Lほど中に水が入る。
尚、水は袋に入れば重さを持たなくなる]
そんなことを知った坂田は、明らかに一般の物ではないボロッボロなそれを見て、同情するように乾いた笑いを漏らす。
(はは……絶対買い替えるべきでしょ。でも家があれだし……うーん、どうしようも出来ないよな)
自身が守るべき対象はどうやらかなりの貧乏人。想像を優に超えてくるその貧乏度に、これからかなり苦労するんだなと、薄々思い始める坂田であった。
◇ ◇ ◇
坂田は異世界に来て四日目を迎える。
死のリストを眺めていて二つ気がついたことがあった。それは今後、最も意識するべきこと──
(大体危険度に合わせて色がついてるが……危険度も書かれてないこの“黒文字”……説明されなくてもわかる。絶対にやばいやつだ……)
[十二歳、戦争に巻き込まれ死亡]
坂田はフリィアの家の中で、その黒い文字を見続ける。この文字はフリィアとリルメスどちらにも存在しており、不穏な未来を予見させる。
(5年後か……それまでにどうにか対策しなきゃゲームオーバー。俺の第一目標はとりあえず……リルメスって女の子と関わりを持つこと……)
異世界に来て六日目。
坂田は外で薪を割るフリィアを、家の屋根から眺め、意外にも危機が訪れないことに安堵していた。
(種族が死ぬほどいることを知れたぞ……それに、全知脳じゃ知れないことについてもある程度わかったな)
それ故に坂田は、この透明になった期間で、己が持つ三つの魔法を完全に理解しようとしていた。
(完全記憶と確絶魔法はもうバッチリ。全知脳もそろそろ使いこなせるようになってきたな。でも──)
全知脳の弱点。それは、何かに記されていない物や、最後にその情報が誰かの口から出て、一ヶ月以上経つと情報を得ることが出来なくなる。
(人物の情報が結局は関わって聞き出すしかない……万能っぽい魔法だったが、なんだかんだ癖ありの魔法だな……だけどまあ、ほんっとに便利だ)
定期的に死のリストも確認し、リルメスが死んでいる様子もない。
(……リルメスは貴族だ。そう死なんだろ)
油断大敵という言葉はあるが、今の坂田はそれを踏まえてもリルメスの心配をしない。なぜなら、全知脳で貴族が必ず護衛をつけることを知っているからだ。
(フリィアちゃんも危険度低いやつしかないし、溺死とか起きんだろ。てか、危険度低って書かれてるのは、超低確率な死って感じだな)
無理ゲーを押し付けられたように感じていたが、ここでほぼ一週間も過ごしていると、意外に快適だった。透明なので人目を気にすることなく、青空広がる天を眺め、夜は星空を見上げる。
良い生活だった。光る球になってからは食事はする必要がないようで、睡眠時間も4時間ほどで満足できる。元の生活を考えると、ここは天国だ。
(……なーんか。チート使って無双! とかよりも、こうやってのんびり過ごす方が、いいよな〜)
ポカポカした陽光を浴び、坂田は思う──
(スローライフサイコー!)
[*警告:死の運命が変化します]
(は?)
[フリィア・サタニルド
危険度:低──危険度:極
七歳、地竜族に捕食され死亡]
次の瞬間、フリィアの少し先に見える地面が盛り上がり、一気に地面が裂けて中から竜が現れた。
(オイオイオイオイ!! 嘘だろ嘘だろ……!!)
背筋もないのに背筋が凍りついた。竜、まさしくファンタジーらしい生物。しかし今回ばかりは引っ込んでおいてほしい。
(っ俺、魔法使えないって! どうすんだよ!)
「え……」
[全知脳が発動します]
[地竜族:魔獣科
多くの大陸に生息する竜。
地下深くに住まい、時折地上へ──]
(うるさいわァ! どうでもいいんだよ!!)
坂田はとりあえずフリィアへと飛んでいく。彼女をどうにかして助けなければならない。
(走れ走れ走れ! 逃げろフリィアちゃん!)
「あっ……おば、おばばぁ!」
フリィアは走り出す。しかし、家の方へと向かい、中にいるおばあちゃんを助けるためだった。
「おばばぁあ!!」
半泣きで走るフリィア。地竜は彼女からその険しい顔を背けない。
(なんで一人狙いなんだよ!! バカ竜がよ!!)
不運なことだ。フリィアは最初に地竜に見られたが故に、こうして一人狙いされているのだろう。
竜は賢い生物である。弱者を狩るのに全力を出す生物でもない。そのせいか、ゆっくりとフリィアへと迫っていく。
(マズいマズいマズい!! 俺って実体あるよな……? 体当たり? いや、弱すぎて意味ねーよ! どうする!? 俺に何ができる!?)
坂田は焦ったようにくるくると飛び回りながら、地竜へと再び視線を向けた。
「おばば! 外に地竜がき、来たぁ!!」
「……フリィア逃げなさい!」
「でもおばばがっ!」
「何言ってんの、おばばなんかより自分の心配しなさい……!」
家の中ではフリィアとその祖母らしき人物が言い争っている。もちろん、そんなことしている場合ではない。すぐそこまで迫ってきている。
(今言い争うなよ……!! クッソ……クッソなんか思いつけ……! なにか……なにか!)
坂田は二人と迫る地竜を交互に見ながら、必死に考える。そして、一つの策を思いつくに至った。
(……あれだ)
土壇場で思い出す、幼少の記憶。
それは異世界にて奇策になる──
坂田は地竜に向かって飛び出した。




