第十一話 他者からの無償の恵み
「フリィ! 好きな剣を選びなさい!」
ケルエタが一ヶ月前に、リルメスを中級魔法使いにすると宣言した翌日。彼はフリィアとリルメスに、護衛としてグラバを連れて町の武器屋にやって来た。
(フリィアちゃんが剣士の夢を持ってるって言って良かった。リルメスはそんなこと言われたら絶対剣を買いに行くからな)
この日は、フリィアが初めて扱う剣を購入する日。
「リルメスお嬢様……!?」
ガタイが良くイカついスキンヘッドの店主は、リルメスを見てかなり驚いた様子を見せた。
(そりゃ驚くよな。だって……いきなりなんの連絡もなしに、ボルワール家のお嬢様が来るんだから)
店内は中々に広く、色んな武器が置いてあった。ケルエタは、こんな光景見たことがないので、少しワクワクもする。
「店主様、お聞きしたいのですが初めての剣と言えば、やはり短剣がいいですかね」
「グラバさんの言う通りですぜ。女性にも扱いやすいし、天級に短剣使いはいますからな」
(全知脳で色々と知識は得たが……まだまだ欠けてるところも多いな。短剣が流行りなのは初耳だ)
剣士。戦士の半数ほどを占める人気職。
「となると……竜系の剣はありますかね?」
「もちろんありますぜ!」
店主が歩き出して、竜の素材を使った短剣を渡そうとする直前、店内を一緒に歩き回るフリィアとリルメスが、先に声を上げた。
「わたしこれにします!」
「そうよ! これを買うわ!」
グラバと店主の会話は無意味となる。
二人が指さす剣とは──
「星殲竜の……大剣?」
ケルエタは思わずその剣の名を声に出した。
[全知脳が発動します]
[星殲竜:魔獣科
ルサナン大陸南部、ダウラ砂漠のフォルステッド山に生息する、王級魔獣。光属性を扱う竜で最強である]
ルサナン大陸。北部は緑地、南部は砂漠、現在ケルエタが滞在する緑峰大陸の、右下に位置する大陸だ。
「大金貨400枚……?」
グラバが値段に目を丸くさせる。
「買うわよグラバ!!」
リルメスは胸を張ってそう言うが、グラバの顔は青ざめており、店主に関しては口をポカンと開けていた。
「フ、フリ、フリィアちゃん。大剣はまた今度にして、短剣とか買ってみない……?」
大金貨400枚、加えて大剣。買うメリットはない。
(大剣……女性剣士で大剣使いが、上級になったのなんて歴史上で一、二回だ。絶対に不利になる……どうにか短剣に気を向けてくれ……!!)
「ダメですか……?」
フリィアの身長よりも大きな大剣、それを背にして彼女は、無意識ながら愛おしい上目遣いをしてくる。
「ヴっ…………」
ケルエタは心を射抜かれるが、流石にこればかりは金銭面でどうにかなるとは思えない。
なにせ大金貨400枚。この世界の大金貨は一枚10万円ほど、日本円換算で4000万円である。
「リルメスお嬢様さすがにお金が……」
「なによ。じゃああたしのお金も使って良いわよ!」
「それでも足りません……」
「じゃあお父様に連絡して!!」
「いやしかしですね……」
グラバに詰め寄るリルメス、すごく困った様子の彼を横目に、ケルエタはフリィアに近づく店主に目をやった。
「なあお嬢ちゃん」
「は、はい……」
二人は目を合わせる。
「お嬢ちゃんは、なんで大剣が良いんだ?」
「……お父さんが使ってて」
「そうか。憧れってわけだな」
「はい……」
グラバとリルメスが激しく口論、主にリルメスが声を大にする中、二人は店外へと出ていく。
「これはな、俺が冒険者だった頃に貯めた金、全部使って買った。まあ、一回も使ったことねぇんだけどよ」
店主はしゃがみ、フリィアと顔を合わせた。
「お嬢ちゃん、大剣はめちゃくちゃ重い」
「わかってます……」
「逃げないか?」
「逃げません……!」
「諦めねぇか?」
「諦めません!」
店主はそれを聞き、軽くフリィアの頭をわしゃわしゃと撫でると、重い腰を上げて大剣の持ち手を掴む。
「タダでやるよ」
「え?」
フリィアは店主を見上げながら驚いた。ケルエタも、彼のしていることに度肝を抜かれた。
「あの……なぜ?」
ケルエタは咄嗟に聞いてしまう。何故かと。
「もうな。使う奴がいねぇんだ。息子にやるつもりだったが、魔獣に喰われちまった」
乾いた笑いを見せる店主、ケルエタはその言葉を聞いて強くショックを受けた。
「そ、そんな……息子さんが」
「あぁ、まだ立ち直れてねぇ。この大剣は息子にやろうと思ってたんだ。あいつ強くてよ、首都レクセトじゃ、一級ギルド所属……自慢だった」
店主は大剣を見ながら話す。
「でも、死んじまった。もう使う予定の奴も、この村で買う奴もいねぇだろうさ。だからもう価値はない」
意図はわかる。だが、ケルエタは納得できなかった。何故、だからと言って無料であげることになるのだろうか。
「……お嬢ちゃん。名を教えてくれ」
「フリィア……サタニルドです」
店主は名を聞いてニコッと笑った。
「価値のない剣で金は取らない。だけどよお嬢ちゃん。その剣に価値を付けられるのはお嬢ちゃんだけだ。立派になれよ。すげぇ強い大剣使いにな」
店主は大剣の値札を取る。
「絶対……絶対なります!」
フリィアは、大きな声で心に誓った。
(……買い手がいない商品は確かに高いだけで無価値。だとしても、その大剣を売りに行けばいいのに、なんでこの人は、見ず知らずのフリィアちゃんに……)
「あの……店主さん」
「なんだ」
ケルエタは大剣を手にしながら、傷がないか確認する店主に向け、質問する。
「……フリィアちゃんに何を感じたんですか?」
店主の動きが止まった。
「……強い剣士はたくさん見てきた。強い奴らはな、全員目の輝きが違うんだ。あとは言わなくてもわかるだろ? 妖精族様」
そうして、フリィアに大剣を渡す店主。それを彼女は身体で支えながら抱える。
「っははは! もっとデカくなれよお嬢ちゃん!」
「はっはいぃっ……」
(……大剣、か。不安しかないが……まあ、どうにかなるか? いや……なってくれよ。頼むぞ……!)
ケルエタは二人を眺めていると、背後からリルメスのうるさい声が聞こえてきた。しかし、フリィアが大剣を抱えてる姿を見て、その声は喜びに変わった。
「買えたのフリィ!?」
「う、うん……タダでくれたよ」
「へぇー! 店主! 良い行いよ!」
「ははは、そりゃありがたい言葉ですぜ」
グラバは疲れた様子を見せているが、何故こうなったかをケルエタが伝えれば、少しだけ柔らかい微笑みを見せる。
[*通知:死の運命が変化します]
(この前のッ!?)
[フリィア・サタニルド
危険度:極──危険度:中
十五歳、大剣使いに敗北して死亡]
(……え? あ、逆パターンもあるの?)
死のリスト。ケルエタは定期的に確認はしているが、今回はかなり先の運命が変わったようだ。
(商品購入でも変わるのか……)
最近は危険度が中を超えるものは無い。比較的初めに比べると安全な生活を築けている。
(……一挙手一投足が運命を変えるんだな。)
だが、ケルエタは死のリストのことを熟知していない。このリストが、どれほど厄介かを理解するのは、およそ一ヶ月後であった。




