魔豹族リラ
粒子の探索能力に零の興奮は収まらない。
風呂からあがって川辺に椅子を置いて、夕食そっちのけで、粒子で森の中を探索し、魔物を見つけては色んな角度から魔物をみたり、その生態を観察したりしている。
気がつけば辺りは暗くなっていた。
「暗くなってしまったなぁ。今日は焚き火じゃなく、明かりを作るか。」
零は粒子に、透明の球体の中でぶつかり合って摩擦で光を作り出す様に命じた。
粒子の明かりの球体は零の周辺を照らした。
「うん、いい感じ。」
明かりの球体を常に零の周辺に浮かせる様にし、ログハウスに入った。
ログハウスは寝る目的で作ったので、ベッドがひとつ置けるだけの広さだ。
「う〜ん、ちょっと狭いなぁ。」
再び外に出てログハウスの周辺を見渡す。
魔豹族が左右の大木を数本切り倒してくれたのでスペースが広かった。
「よしログハウスを増築しよう。」
粒子に命じて切り倒された大木の切り株を取った。
空いた穴は粒子を拡大変形させて埋めた。
できたスペースにログハウスを拡大させた。
「よし、広くなった。」
ログハウスの中も、壁と屋根の窓を大きくし、ベッドを壁際に移動させ、ベッドの前にソファを置き、ソファの向かいの壁に50インチの粒子画面を設置し、明かりの球体を天井に設置した。
零はソファにどっかり座った。
「よし、これでゆっくり異世界の動物の生態が見れる。」
『粒子、さっきの続きを大型画面に映して。』
大型画面に魔物が映し出された。
それから零は時間を忘れ、夢中で魔物の生態を観続けた。
深夜。
ログハウスの周辺の闇の中に複数の目が光った。
また魔豹族が現れた。
ログハウスは周辺を含め昨夜とは大きく変化していた。
『様子がおかしい。』
斥候の魔豹が頭の中で呟いた。
『リラ様、何か変です。』
斥候の魔豹が念話でリラに伝えた。
リラは闇の中で目を凝らしてログハウスの周辺を見た。
『何だこれは、昨夜より家が大きくなっている。それに私が斬り倒した大木が全てなくなっている。⋯あの山のような薪は私が倒した大木か?』
リラが独り言の様に配下に念話で伝えた。
数本の大木を薪に切り刻み、切り株を取り除き埋め、家を増築する。
1日でできる事ではない。
『リラ様どうなさります。』
斥候の魔豹が念話で聞いた。
二晩連続でしかも戦わぬまま撤退するのは魔豹族の誇りが許さない。
『⋯魔豹族の誇りにかけて、今宵は何としてもあの獲物を持ち帰る。かかれ!』
リラの念話での号令と同時に昨夜よりも多勢の魔豹達は一斉にログハウスに真空の爪で切り込んだ。
昨夜と同様に魔豹の爪ではキズひとつつかない。
『やはりキズひとつつけられないか。それなら、やれガダン!』
リラが念話で命じると大きな斧を持った大型の人型の魔豹ガダンが現れた。
「うぉー」
ガダンは叫び声と共にログハウスの上に飛び上がって大斧を振り下ろした。
ガシッと鈍い音がしてログハウスが少し揺れた。
ベッドで寝ていた零が目を覚ました。
「あれ?揺れた?」
零は起き上がって窓から外を見た。
外には魔豹達と大斧を持った大男の獣人と女の獣人がいた。
「えっ、豹がいる!何してんの?」
零は起きたばかりでまだ寝ぼけてベッドから出た。
ガダンがまた大斧を振り被った。
「えっえええ〜」
零はログハウスの中で後ずさった。
ガダンは狂いなく一振り目と同じ所に豪快な二振り目を叩き込んだ。
ログハウスは再び軽く振動した。
中で零は室内を見渡した。
「大丈夫だよなぁ?」
言いながら零は室内を見回した。
ひび割れ等の被害はない。
三度ガダンが振り被ったその時零が窓際から粒子に命じた。
『粒子、あいつを動けなくして。』
ガダンは大斧を振り被った姿勢のまま固まった。
ガダンの異変にリラが気づいた。
『ガダンどうした。ガダン?』
念話が通じなくなった。
ガダンはやはり振り被ったまま動かない。
『ガダン答えろ!』
リラは事態の異変を確信し、
『いかん、皆一旦引け!』
と念話で命じた。
しかし他の魔豹達も既に固められていた。
『お前達どうした!答えよ!』
念話で言い終わらぬうちに、リラ自身も固められた。
『なっ何だこれは!体が動かない。魔力は感じなかった。呪いか?呪いにしては苦痛を感じない。』
ログハウスから明かりの球体と共に零が出てきた。
リラは零の上に浮いている明かりの球体を見た。
『何だあの光は?光魔法か?いやあれにも魔力は感じない。ではあの光は一体何なのだ。』
リラは動揺しながら思った。
零がガダンの横を通り過ぎる時、
「おい!いきなりこんな大きな斧で斬りつけるなんて、普通の家なら倒壊してるぞ。」
歩きながら言って、魔豹の1頭に近づいた。
「貴様、我らに何をした!」
リラが零に言った。
『本当に人間か、しかも子供?』
リラは思った。
偵察からここに人間がいるとの報告を受けていた。
零はリラの方を振り返って、
「何って、お前達が家を壊そうとしてるから、ちょっと動けなくした。」
零が言った。
「動けなく⋯まさか昨日牙狼共を動けなくしたのは貴様か!」
リラが言った。
「牙狼⋯ああ、そうだよ。でも牙狼が噛んできたから、しょうがないでしょ。」
零が言った。
『牙狼を固めたのと同じ呪いか。それとも魔法なのか。』
リラは心の中で呟いた。
零は近づいた魔豹の方を見て、
「綺麗な毛並みだな〜」
キラキラした目で言った。
「なっ、貴様何を言っている。」
リラが焦って言った。
「こんな近くで豹の綺麗な毛並みを観れるなんて⋯ちょっと触っていい?」
零が嬉しそうに言った。
零が見ている魔豹の目がギョッとなった。
「私の配下に触るなー!それに我らは豹ではない!誇り高き魔豹族だ!」
リラが変な怒りの口調で言った。
「わかったよ。触らないから。」
と言いながら零は角度を変えて魔豹を見続ける。
「なっ何をしている!私の配下から離れろ!」
リラが言った。
「なんだよ見るくらいいいだろう。わかったよ。」
不満タラタラで零が言って、今度はリラの方に向って来た。
「もしかして昨夜ここを襲撃したのお前らか?」
零が少し怒った様に言った。
リラの目がかすかに動いた。
「知らぬ。そんな事よりこの魔法は何だ。魔力も感じず突然動けなくなった。呪いか?」
リラがとぼけてから聞いた。
「あぁ…あまり出回ってない特殊ものなんだ。」
零が白々しく言った。
「出回って⋯貴様バカにしてるのか。」
リラが怒って言った。
「そんな事より、もう俺の家を襲わないって約束してくれるかなぁ。」
零が言った。
約束するという事は、魔豹達を殺さないという事である。
『こいつ、我らを皆殺しにできるのに、その気はないのか。』
配下は全員固められて自らも動く事が出来ない。
自分達がどうなるのか、零の話に同調してみる事にした。
「わかった。約束しよう。」
リラが言った。
「じゃ、動けるようにする。」
零はそう言って、粒子に解除を命じた。
魔豹達は動けるようになった。
その刹那、ガダンが零の方を振り返りながら、その背後で大斧を振り被った。
「ガダンやめよ!」
リラは必死の声で制したが、ガダンの大斧は零の頭に振り下ろされた。
風圧で周りの草木が揺れた。
零は頭を割られた。
誰もがそのように見えたが、零に変化はなく、大地を割るといわれる魔豹の大斧にヒビが入った。
リラや魔豹達を含めガダン自身も驚愕の目でヒビの入った大斧と零を見た。
零はガダンを振り返りもしない。
次の瞬間、ガダンが物凄いスピードで空に打ち上げられた。
リラや魔豹達は突然真上に飛んで行ったガダンを驚いて見上げた。
ガダンは見る見る小さくなっていって夜空に消えた。
「⋯なっ、なんだこれは!!ガダンを何処へ!」
リラは動揺し叫んだ。
「もうすぐ落ちてくる。」
零も夜空を見上げながら言った。
「おっ、落ちて!?⋯」
リラが見上げると小さな粒が少しずつ大きくなってくる。
粒はガダンだ。
何処まで打ち上げられたのか、あの高さから地面に叩きつけられたら、ガダンはぺちゃんこになる。
「待ってくれ、このままではガダンは死んでしまう、ガダンは勘違いしたのだ、約束したのは家を襲わない事で、貴方を襲わないとは、言ってなかった、ガダンを助けてくれ、」
冷徹なリラのたどたどしい必死の訴えも虚しく、ガダンは打上げられた同じ場所に音もなく落ちた。
落ちた衝撃の風で草木が揺れ砂ぼこりが舞った。
「ガ、ガダン⋯」
リラが悲痛に呟いた。
あの高さから落ちたのだ、助かるはずがない。
砂ぼこりが収まった。
ガダンは地面にぺちゃんこにならずに倒れている。
「ガダン!」
リラが走り寄った。
他の魔豹達も走り寄った。
ガダンは泡を吹いている。
「生きているのか!?」
リラが零に聞いた。
零が頷いた。
「地面スレスレで止めたから。生きているよ。激しい重力がかかったから気を失ってるだけ。」
零が言った。
「じゅうりょく?それは魔法なのか?」
リラが聞いた。
零は苦笑いした。
「俺を襲わないっていうのも約束に入れてよ。」
零が言った。
リラは拍子抜けした顔で零を見た。
リラが言った、零を「襲わないとは、言ってなかった」など、ガダンを助けるための苦し紛れの咄嗟の屁理屈だ。
それを真に受けるとは。
「わかった、魔豹族のリラが約束しよう。今後貴方を襲わないし、貴方の家も襲わない。」
リラが言った。
零は笑顔になった。
「良かった。これで静かに眠れる。」
零はそう言ってリラ達に背を向けてログハウスの方に歩き出した。
「あ、貴方のお名前をお聞かせ下さい。」
リラが慌てて聞いた。
「名前?零だよ。じゃおやすみ。」
零はあくびをしながらログハウスに入っていった。
【次回予告 】
白銀の塩と金貨。
物語を読んでいただきありがとうございます。
これからも面白い物語に育てていきます。
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