王都からの使者
ボルターの説明では、王都はこのバルセバル領の領主だったセドリック男爵が死亡したため、暫くは王国の直轄領として、ボルターを領主代行とする事を決めた。
先日王都から、その通達があった。
「近いうちに王都からその決定の書状を持った使者が来ることになっています。」
執政長官ボルダーが言った。
零をバルセバル領に留めておくために考えたのが、零を執政長官ボルターの養子にして、ボルターが領主代行になった後、ボルターは引退し、零に領主代行からゆくゆくは領主になってもらおうと言う策だ。
「領主なんてできません。せっかくのお話ですが、お断りします!」
零は慌てながら強い口調で断った。
「零様、今お断りされなくても、暫く考えていただけないでしょうか。」
執政長官ボルターは少し戸惑って言った。
領主と言えば、領内では絶対権力者である。
富も名声も思うがままである。
断る人間がいるわけないと執政長官ボルターは思っていた。
「いやいや、本当に領主なんてありえませんから。お断りします。」
零がきっぱり答えた。
執政長官ボルターはまだ納得しない様子で零にすがっている。
零は誤魔化して何とか応接室を出た。
『主、なぜ領主にならないのですか?主の力なら国王でもなれるのではないですか。』
零達が何とかボルターの屋敷を出て、フェスが念話で零に伝えた。
『ならないよ!領主になったらバルトロみたいな、欲の皮の突っ張った人達の相手を、毎日しなきゃいけないから。』
零が念話で強調した。
『あ〜なるほど。あの種と毎日はちょっと嫌ですなぁ。』
リラが少し笑いながら念話で応えた。
『あんなのは喰ってしまえばいいではないですか。』
フェスが念話で伝えた。
『相当まずいだろうけど。』
リラが念話で伝えた。
零とフェスが思わず笑った。
『僕は森や村で魚や肉を焼いて食べて、皆と楽しく暮らすのが好きなんだ。』
零が念話で2人に伝えた。
フェスとリラは笑顔になった。
零達が領都を歩いていると前から3台の馬車と20人程の騎士が向かって来た。
王都から領都に来た使者とその護衛の騎士団である。
零は嫌な予感がしたので路地に入ろうとした。
「そこの者達、待て。」
騎士の1人が零達にむかって叫んだ。
5人の騎士が零達に走り寄ってきた。
『残念、逃げ遅れた。路地に入って粒子で転移しようと思ったのに。』
と零が思いながら立ち止まった。
先頭の騎士が零達を見ている。
『どういう事だ、鑑定魔法に何も表れない。』
先頭の騎士は思った。
零が粒子で鑑定すると先頭の騎士は騎士団の隊長のオーエンという。
「もしや、貴様が零か?」
隊長オーエンが零を見て言った。
「…はい。」
零が答えた。
「後の2人が貴様の従者か?」
隊長オーエンはフェスとリラを見て言った。
「従者というか、僕の仲間です。」
零が答えた。
「従者はもう1人、魔導士がいると聞いたが。」
隊長オーエンが言った。
「…はぁ。すいませんが、そろそろ名乗っていただいてもよろしいですか?」
零は鑑定で既に騎士団隊長オーエンと知っていたが、知っているとおかしいので聞いた。
「私は王国騎士団隊長オーエン。貴様達を王都に連れて来る様に命令を受けている。貴様達は王国の民か?」
隊長オーエンが聞いた。
「いいえ。」
零が言った。
「ではどこの国の者だ。」
隊長オーエンが聞いた。
「…私は物心ついた頃には2人と旅をしていました。」
零が言った。
「どこの国の者なのか、わからぬとでもいうのか。」
隊長オーエンが聞いた。
「はい。」
零は答える気もないし、異世界から来たとも言えないので、しらをきった。
隊長オーエンはムッとした。
「ではそちらの2人なら知っておろう。」
隊長オーエンがフェスとリラに言った。
「私達は戦士だ。戦士が主様と誓った方の秘密を喋る事はない。零様の事は誰にも言わぬ。」
リラが言った。
「何!我らは王都からの命令で来ているのだ。逆らうのか!」
隊長オーエンの後にいる騎士団の騎士が叫んだ。
「ああ?だったらお前ら騎士団は王様の秘密をべらべら喋るのか?」
フェスが口元を笑わせて言った。
「なっ、何!愚弄しおって。」
騎士の1人が剣を抜いてフェスに襲いかかった。
フェスは笑いながら紙一重でかわし、騎士の後頭部をつかみ、顔面から地面に叩きつけた。
「何だ、やるのか?」
フェスは笑いながら言ってゆっくり立ち上がった。
一瞬何が起こったか理解できなかった隊長オーエンが、我にかえって剣を抜いた。
「貴様!」
と言って剣を構えた隊長オーエンの背後にいつの間にかリラがいた。
「やめた方がいい。あいつも次は手加減せんぞ。」
隊長オーエンの背後でリラが言った。
オーエンは振り向きざまに背後のリラを鋭く横薙ぎにした。
リラの胴が斬られた、隊長オーエンや騎士達にはそう見えた。
「わからん奴だな。」
リラは又隊長オーエンの背後を取って、今度は首元に短剣をあてて、殺気のこもった静かな声で言った。
「うっ…」
隊長オーエンは言葉を詰まらせ動けなくなった。
「隊長さん、僕達は騎士団と敵対する気はありません。これ以上やってお互いにケガ人が出る事を王都は望んでいるのですか。」
と零は言いながら、フェスがケガさせた騎士を粒子の治癒で治した。
「ケガが一瞬で…女神の奇跡か!?噂は本当なのか。」
驚いた顔でリラから解放された隊長オーエンが言った。
気を失っていた騎士が目を覚ました。
立ち上がって、フェスに向かって剣を構えた。
「もういい、やめろ。」
馬車の中から鋭い声がした。
剣を構えた騎士は悔しそうに剣をおさめた。
「騎士団がご無礼をいたしました。」
馬車から女騎士が出て来て言った。
言葉とは反対に目はフェスとリラに対して殺気を放っている。
フェスとリラも口元から笑いが消えた。
2人はゆっくり零の前に立ちはだかった。
リラの目が鋭くなった。
『主、あいつは今迄の相手とは違います。』
フェスも目を細めて念話で伝えた。
【次回予告 】
騎士団との一触即発。
意外な人物の領都訪問と零の粒子の転移。
物語を読んでいただきありがとうございます。
これからも面白い物語に育てていきます。
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