牙狼族フェス
翌朝。
零はふかふかのベッドで目覚めた。
「おはよう。粒子のおかげでぐっすり眠れた。」
伸びをしながら独り言を言って零がログハウスから出ると、昨夜の魔豹の襲撃の後が。
「えっ〜何だこれは!?」
零が驚いて言った。
辺りは無惨に斬り裂かれ、大木がログハウスの左右で数本倒れている。
「何でこんな事になってるんだ、寝てて何の音もしなかったけど⋯まさか昨日の狼が復讐しに来たのか?」
と言って目を丸くして動揺する零。
「あー、昨日の狼の粒子の解除し忘れた〜やばい。」
零が言った。
『粒子、飛ぶよ。』
零は粒子に命じて川辺から飛び上がった。
少し探したが牙狼達の場所はすぐ見つかった。
上空から見ると、昨日襲われた場所に多くの牙狼達が集まっている。
「昨日より狼が多いなぁ」
零は憂鬱そうに呟いた。
フェスは昨夜魔豹族が去った後、周辺を捜索していたら、折れた牙狼の牙を数本見つけた。
『牙を折られたのか?牙狼の牙を折るとは、一体どんな魔法を使った。』
フェスは思った。
剣で牙狼の牙を折る事など出来るはずもない。
剣を振るうスピードより牙狼の方が早く動けるし、剣をわざわざ口で受ける牙狼はいない。
牙狼の口を狙って斬りつける剣士もいない。
鉄をも砕く牙狼の牙が少年を噛んで折れる道理もなく、考えられるのは何かの強力な魔法で折られたという事である。
しかし倒れている牙狼達にも周辺にも魔力の残滓はない。
明るくなってから何かをつかむべく捜索を続けていた。
零は牙狼達がいる所から少し離れた所に着陸した。
最初に歩いてくる零に気づいたのはフェスだった。
「本当に人間の子供か。」
フェスは歩いて来る零の姿を見て驚いて言った。
「そこで止まれ。」
約10メートル手前まで来た所でフェスが零を止めた。
『魔力を全く感じない。剣技も全身隙だらけだ。こんなのがなぜ魔物の森の深域で生きている。』
フェスは思った。
零の目はランランと輝いている。
『おー、これは異世界の獣人では?感動〜』
零の顔は少しニヤけた。
そんな零にフェスは戸惑った。
「お前が我が牙狼族に呪いをかけたのか。」
フェスが聞いた。
「えっ?呪い?いやいや呪いじゃないよ。」
零は驚いたように答えた。
「ではこれは何だ。」
フェスは言いながら、立った姿勢のまま倒れている牙狼達を指した。
「あ、これは、故郷の秘伝の魔法のような⋯」
零が戸惑いながら言った。
「秘伝だと、我が配下は今どうなっているのだ、説明しろ。」
フェスが強い口調で言った。
「秘伝だから説明は出来ないよ。誰にも言えないから。今動けるようにするよ。」
零が言った。
『粒子、解除。』
零は頭の中で粒子に命じた。
牙狼達を囲んでいた粒子が小さくナノサイズまで縮小して、牙狼達が自由に動き出した。
フェスは目の前で魔力が使われたのに、察知する事が出来なかった。
「なっ何だ、今何があったのだ?なぜ急に動き出した?」
フェスは冷静さを失って言った。
異世界の戦士にとって目の前で使われた魔力を察知できないなど、それは敗北を意味する。
牙狼族の長が人族の子供に敗北したのである。
『フェス様その者と闘ってはなりませぬ。得体のしれぬ魔法を持っております。』
粒子の拘束から解放された牙狼の1頭が念話でフェスに伝えた。
『わかっている。』
フェスが念話で答えた。
「昨日の内に狼達を動けるようにしようと思ってたんだけど、忘れてしまって。すみませんでした。お詫びに狼の歯が折れてるみたいなので治そうか?」
零がすまなさそうに言った。
「狼ではない!誇り高き牙狼だ!歯ではなく牙だ!」
フェスが苦虫を噛み潰したような顔で言った。
「あっ、そうなの、知らなかったから、ごめん。」
零は苦笑いでまた謝罪した。
零に牙を治させれば、フェスにとって危険を冒さず、再び零の魔法を見る絶好の機会だ。
「なっ、治せるなら治してみよ、但し我が配下にキズの一つでもつけたらただではおかん。」
フェスが戸惑いながら零を睨んで言った。
「キズなんか付けないよ。」
零が少し笑って言った
零が牙の折れた牙狼達の近くに寄って『粒子、牙の治癒』と念じると折れた牙が元に戻った。
『フェス様、牙が元に戻りました。』
牙が元に戻った牙狼が念話でフェスに伝えた。
「なっ、何、もう治ったのか。」
フェスが驚いて言った。
フェスは又、零の魔力を感じる事が出来なかった。
詠唱もなく手をかざす事もなく、ただ牙狼達のそばに立っただけで零は治癒魔法を行使したのである。
「はい、終わり。」
零は笑って言いながらフェスを振り返った。
フェスは自身の顔から血の気が引いていくのを感じた。
「じゃ、僕はこれで。帰るね。」
零はフェスの横を何もなかったように歩いて通り抜けながら言った。
「待て、お前、名は、名乗れ!」
フェスが言った。
「えっ、そう言えば名乗ってなかったね、零だよ。…君は?」
零は振り返って笑顔で言った。
「我が名はフェス、牙狼族のフェスだ。」
フェスは目に悔しさを浮かべて言った。
零は笑顔で応えてまた歩き出した。
『あの者の居所を探れ。決して気取られるな、気取られたら全力で逃げよ。絶対に戦うな。』
フェスが念話で配下の牙狼に命じた。
『はっ。』
命令を受けた3頭の牙狼が念話で答え、左右の草むらに散った。
「零、その名、忘れぬぞ。」
零の後ろ姿を見送りながらフェスが呟いた。
【次回予告 】
粒子の能力が増える。
物語を読んでいただきありがとうございます。
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