魔物の森の最強種たち
零は異世界初日の疲れもあってかベッドで横になるとすぐに眠りについた。
ログハウスを取り囲んでいた光る目の正体は魔物の森の深域の最強種、魔豹族だった。
夜の活動を得意とし、その鋭い爪は、切り裂いた後に空気が断裂される「真空の爪」といわれている。
その魔豹達が夜陰に紛れて音もなく一歩一歩零のログハウスに近づいて来る。
一定の距離で魔豹達は同時に止まった。
そこで身を低くし気配を殺したかと思った瞬間、一斉にログハウスに飛びかかった。
魔豹達の鋭い爪がログハウスを破壊するかと思われたか、ガリッと乾いた音を残して何頭かの魔豹の爪が折れた。
ログハウスの屋根や壁に何度も爪で攻撃を試みるが変化はない。
鋼鉄もバターのように切り裂く魔豹族の爪が、ログハウスにキズひとつつけられない。
困惑する魔豹達。
攻撃を続けていた魔豹達が急に止まった。
闇の中から魔豹の女獣人が現れた。
「皆下がれ。」
女獣人の命令で魔豹達はログハウスから離れ、闇の中に消えた。
女獣人は音もなく歩き、ログハウスの前で止まった。
女獣人の体の周りにオーラが漂いはじめ、両手に短剣が現れた。
「レゾナンスエッジ」
肉眼で捕らえられない早さで女獣人の両手の短剣がクロスした。
闇の中に閃光が走った。
空間がズレたように見えた。
しかしログハウスにはキズひとつ付いてない。
「ちっ、我が秘剣でも壊せぬか。」
魔豹の女獣人が言った。
女獣人の両手が少し痺れている。
「今宵の所は引くぞ」
魔豹の女獣人は言って、ログハウスを見ながら音もなく一歩一歩退って闇の中に消えていった。
その後ログハウスの左右の大木数本がゆっくり倒れた。
零が異世界転生した初日の昼に、粒子で動けなくした牙狼達は、深夜の森で整列したまま、まだ動けないでいた。
零はその事をすっかり忘れて、優雅に夕食し、ぐっすり寝ていた。
零の寝込みを襲った魔豹達は、襲撃失敗の後、動けない牙狼の集団と出くわした。
騎士団のように綺麗に整列し、ピクリとも動かない牙狼達に魔豹達は逆に用心した。
牙狼達からは匂い、魔力、気配、何も感じない。
『お前達、私の合図があるまで動くんじゃないよ。』
魔豹の女獣人は念話で配下に命令し、充分な間合いをとって、牙狼達の前に音もなく姿を現した。
牙狼達はピクリともしない。
『なぜだ、私が姿を現したのに、なぜ牙狼どもは襲ってこない。』
女獣人は周りの気配に集中した。
女獣人と牙狼達の睨み合いは続いた。
ピクリともしない牙狼達に魔豹の女獣人は痺れを切らした。
「牙狼ども、そこで何をしている。」
女獣人が言った。
牙狼達は零の粒子で口も塞がれているので何も答えられない。
『何かの罠か』
女獣人は慎重に罠の気配を探るがわからない。
「何の罠か知らぬが、牙狼が如き罠が私に通じるか。」
言い終わらぬうちに、女獣人は牙狼の整列した群れに正面から突っ込むと、同時に配下に『今だ皆かかれ!』と念話で命じた。
命令された魔豹達は左右の闇から、整列する全ての牙狼に鋭い爪で襲いかかった。
ガリッと鈍い音がして、牙狼達は無抵抗で立っていた姿勢のまま、左右に飛ばされながら倒れた。
「何だこれは?」
思わず女獣人は叫んだ。
足もとに無抵抗で倒れている牙狼は、魔豹の真空の爪で引き裂いたはずなのにキズひとつない。
女獣人は素早く離れて擬視しても、牙狼は立っていた姿勢を崩さないまま倒れている。
死んでいるわけではない、目の玉だけはコチラを睨んでいる。
他の全ての牙狼も同じだ。
『呪いで体を固められているのか?』
女獣人は周辺の呪いの気配を探った。
その時彼方から殺気を帯びた何かが物凄いスピードでコチラに向かってくるのを察した。
「皆散れ!」
女獣人の号令で全ての魔豹達は闇の中に飛び込んで気配を消した。
「大事ないかー」
叫びながら風のように牙狼の女獣人の姿が現れた。
「我が名は牙狼族のフェス、我が配下に手を出す者は誰であろうと噛み殺す!!」
フェスは牙狼達が四散している真ん中に仁王立ちして叫んだ。
フェスは辺りを見渡し気配を探った。
「魔豹族か!」
フェスの叫びに応えるように闇の中から霧のように魔豹の女獣人が現れた。
「リラか!!」
怒りの目で睨みなからフェスが言った。
この時フェスを追って配下の牙狼達が到着した。
それを見た闇の中の魔豹達もリラの後に姿を現した。
フェスはリラを睨見つけ、後の牙狼達は牙を剥き唸り声を上げている。
「フェス、その倒れている牙狼共は何だ。」
リラは冷静にフェスを見つめて言った。
「お前には関係ない。」
怒りに満ちた目でフェスが言った。
リラはフェスを見て、それから立った姿勢のまま倒れている牙狼達を見る。
「フェス何があった?」
語りかける様にリラが言った。
「うるさい!我ら牙狼族に傷ひとつでもつけていたら、ここから生きて帰さぬ。」
フェスが叫んだ。
「…我が魔豹族の真空の爪をもってしても、傷ひとつつけられなかった。牙狼に何があった。」
リラはまた冷静に言った。
フェスは言葉に詰まった。
昼間、零に襲いかかった牙狼達が返り討ちにあい、動けなくされてしまった事は、零が仔犬と間違えた子牙狼から報告を聞いていた。
いるはずのない人族の少年が魔物の森の深域で牙狼達を動けなくしたなど信じられなかった。
しかし夜になっても牙狼達が帰ってこないので、慌ててここに来たのだ。
現場を見て魔豹に襲われたのは察するが、牙狼達が倒れているのに、血の臭いがしない。
魔豹族の真空の爪で襲われたはずなのに、誰もケガをしていないのだ。
フェスもリラ同様訳がわからないのだ。
「リラ、我にもよくわからん。今日のところは引いてくれ。」
怒りをおさめて、今度は冷静にフェスが言った。
リラはそれでも暫くフェスを見ていたが、
「そうか、わかった。今宵は引こう。」
リラはそう言って魔豹族は闇の中に霧のように消えていった。
暫く闇の中の気配を探っていたフェスが牙狼達の方を振り返った。
「どうなっている?」
フェスは配下に聞いた。
『気を失っているものもいますが、皆キズひとつ負っておりません。』
配下の1頭が念話でフェスに伝えた。
本当は牙が折れている牙狼もいるのだが、口を塞がれているので見えない。
何度フェスが念話で呼びかけても応答がない。
粒子で固められた牙狼達は目をキョロキョロさせるだけだ。
【次回予告 】
零と牙狼族フェス。
物語を読んでいただきありがとうございます。
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