異世界へ転移
一ノ瀬零、34歳、独身。
三流大学卒業後、投資会社の孫請会社に就職。
毎日深夜まで政治と経済のデータと格闘する激務。
趣味はキャンプ。
仕事の帰り道に自動車同士の事故に巻き込まれ死亡。
異世界に転生する事になった。
目覚めると零は上下左右に際限なく真白な場所に座っていた。
「あれ、俺は死んだはずでは⋯ここは何処だ?」
零は左右を見渡しながら言った。
「お目覚めですか。ここは貴方にとっては異世界の神界です。そして私は天使です。」
零の背後にいつの間にか白い服の天使と名乗る男が立っていた。
「えっ、ええ〜異世界?神界?」
零が驚きながら言った。
「一ノ瀬零様は日本で死亡し、こちらの世界に異世界転生しました。」
事務的に天使が言った。
「異世界転生?」
「時間がありませんので説明に入ります。」
言いながら天使はステータス画面を開いた。
同時に零の前にもステータス画面が現れた。
「え〜と、一ノ瀬零様、転生後は12歳男性、能力は…魔力ゼロ、剣技ゼロ、それと粒子を操る力?何これ?」
天使が動揺しながら言った。
「何これって、何で魔力や剣技がゼロなの?それに粒子って何ですか。異世界アニメでも観た事ないですけど。」
零も動揺しながら言った。
「知りませんよ、粒子なんて。千年以上この仕事してる私も初めて見たんですから。」
少し投げやりに天使が言った。
天使のステータス画面には零の転生先も書いてある。
『魔物の森の深域に転生?何でこんな物騒な所に。魔力と剣技ゼロだと又すぐ死んでしまうのでは。まぁいいか、女神様が決めた事だし。』
と思い、天使は自分を納得させた。
「では地上に転生させます。」
気を取り直して天使が言った。
天使の両手から光が発生した。
零の体がその光に包まれた。
しかし零を包んだ天使からの光は弾かれてしまった。
「あれ、どうしたんだ?」
天使が驚いて自らの両手を見返した。
『なぜ私の転移魔法が効かない?』
と思いながら天使は動揺した。
『これを使いなさい。』
天使の頭の中で女性の声がして、右手に短い杖が現れた。
「めっ、女神様。」
天使の言葉に零は周りを見渡したが誰もいない。
「未熟な私めの為に、ありがとうございます。」
天使は天を見上げて涙を流しながら言った。
「では仕切り直し。地上に転生。」
天使がまた事務的な口調に戻り、杖を振ると、先程とは違い青白い光が零をつつみ込み、零の姿が消えた。
「転生完了。」
天使は杖に頬釣りしながら呟いた。
『その杖は大切な方からの預かり物なので返してもらいます。』
又天使の頭の中で女神の声がして、右手の杖が消えた。
「えっええ〜」
又天使は天を仰いで泣いた。
零が次に目を覚ますと森の中で寝かされていた。
『ここは何処だ?異世界転生って言われて、12歳の子供になるって言われたけど、本当に少年になってる。』
自身のステータス画面を開くと天使の言った通り、本当に魔力と剣技はゼロになっている。
ここは人間の知らない多くの最強の魔物が生息する魔物の森の深域。
その人知を超えた魔物の森の深域に12歳の子供が1人でいる。
異常事態である。
魔物の森の深域を知らない零にその異常さは分かるはずもない。
零は辺りを見回した。
森だから木々が生い茂っている。
太陽が頭上にあるので多分昼頃なのだろう。
突然、零の全身が熱くなってきた。
『なんだろう、全身が凄く熱い。カゼか?』
不快なものではなかったが、全身の熱さがしばらく続き、それがだんだん右手に、手の平に集まってきた。
手の平を広げていると小さな虹色の玉が現れた。
『手の平から玉が生まれた?』
玉を見ていると眼前に【粒子の能力】と書かれたステータス画面が現れた。
『えっ、粒子の能力?何これ。』
天使の言葉を思い出した。
『粒子を操る能力か!』
ステータス画面の【粒子の能力】の下の項目に【移動】【拡大縮小】【変形】【変色】と現れた。
『この能力を俺が操れるのか?移動ってこの玉は俺の命令で動くのか?』
『試してみるか、浮け。』
ふわりと玉が浮いた。
『おっ〜浮いた!凄い。じゃ今度は右へ移動。』
玉が右へ移動した。
『おっ〜、今度は左。』
玉が左へ移動した。
『おっ〜⋯って、何だこれ?俺は玉を操るマジシャンという事なのか。こんなのでどうやって異世界で生きていくんだろ。』
零は小さなため息をついた。
『気を取り直して、とりあえず拡大縮小を試すか、拡大。』
玉が大きくなって12歳の零と同じ大きさになった。
『おっ〜これは本当に凄い!まだ大きくなるのか?倍の大きさになれ。』
玉が木を倒しながら倍の大きさになった。
「ひぇ〜、木を倒すなんて。半分の大きさに縮小。」
零は転倒して思わず叫んだ。
玉が12歳の零の大きさに縮小した。
「木を倒すって事はこの玉は硬いのか?」
零が言いながら玉をノックしてみるとコンコンと音がする。
「どうやらそれなりに硬いようだ。変形と変色も試そう。細長くて黒くなれ。」
零が言うと丸い玉が円柱になって、虹色が黒くなった。
「本当に自由自在に操れるのか。元の玉に戻れ。」
零が言うと粒子が元の虹色の玉に戻った。
すると又ステータス画面が現れ、能力の項目に【無限分散】が追加された。
「項目が追加された。無限分散?なんだろう?試そう。無限分散。」
ステータス画面の【無限分散】の文字が光り、虹色の玉が宙に浮いて、2つに、その2つが4つに、8つに、小さくなりながら無数に分散し、玉が目に見えないナノ粒子となって拡散していった。
零が操るナノサイズの無数の粒子が誕生した。
キラキラ光りながら拡散する粒子は零の目だけには見えている。
「⋯綺麗だな〜」
零は空を見上げながら呟いた。
「あれ、俺の玉、なくなったけど⋯」
粒子の能力のステータス画面を開くと【無限分散】は光ったままで、その下の項目に【治癒】が追加された。
「治癒ってケガとか治す事ができるのか?」
さっき粒子の玉が拡大して木を倒した時、零は転倒して左膝に浅い擦り傷ができていた。
「このキズを治してみるか。粒子、治癒。」
零が言うと大気中に分散していったナノ粒子が傷口に集まってきた。
「さっき空に消えた小さな見えない玉が集まってきた。なるほど、見えないくらい小さいから粒子なのか。」
零が呟いている間に傷が治った。
「キズが治った!これも凄い!マジシャンと医者で暮らしていけるぞ。」
と零は言うが、魔力のあるこの異世界でマジシャンという職業はない。
『これからこの異世界でどうやって生きていこうか⋯まずは今日寝るキャンプ地を探すか。』
零が森の中を歩きながら考えていると、草むらから仔犬がひょっこり現れた。
「おっ可愛い仔犬。癒される〜」
零がしゃがんで子犬を呼ぶ。
「こっちおいで〜」
はしゃぐように走り寄ってくる仔犬。
しかし仔犬には小さな角がある。
それに気づいていないのか、笑顔で仔犬を迎える零。
「あはは、可愛い〜」
しゃがんで角のある子犬を撫でていると、周りの草むらがガサガサと動く。
零がそれに気づいて見ていると、草むらの中や木の陰から頭に角のある複数の巨大な狼がゆっくり姿を現した。
魔物の森の深域の住人で、鉄をも噛み砕く最強種の牙狼族だ。
零の顔から血の気がひいていく。
「大きな狼…」
真っ青な顔で呟くように零が言った。
牙狼達は用心しながら一歩一歩ゆっくり零に近づいて来る。
零もそれにあわせてゆっくり立ち上がる。
「こっちに来るなぁ⋯」
小さな声で祈るように呟く零。
零が立ち上がったのが合図かのように、牙狼達は一斉に襲いかかった。
相手は狼だ、逃げ切れるはずもないのだが、逃げるしかない。
『又死ぬのか〜』
逃げようとしたが最初の狼が零に飛びかかった。
肩に噛みつかれる寸前で、零は粒子の能力を思い出す。
『粒子、俺を囲め〜』
粒子が一瞬で拡大変形して、肩を噛みかけていた牙狼の牙をへし折って、人の形で零をつつみ込んだ。
「痛っ」
肩を少し噛まれて声を上げ、零はそのまま転倒した。
そこに後続の牙狼の群れが殺到した。
「ギャー」
零は叫び声を上げた。
しかし牙狼達も「キャン」と悲鳴を上げながら零から飛び退いた。
勢いよく噛みついた牙狼達の牙は折れてしまった。
「なっ何何!?」
転倒した零は身体を起こして、飛び退いた牙狼達を見回した。
牙狼達は折られた牙の痛みに耐えながら、零を遠巻きに威嚇している。
「肩が痛い、やばい⋯じゅ重傷だ。」
最初の牙狼に少し噛まれた肩から少し出血している。
「治癒」
零が叫ぶと粒子が肩に集まって傷は一瞬で治った。
「治った〜痛くない、本当に凄い。でもこの狼をどうすれば⋯」
傷が完治しても牙狼に囲まれている状況は変わらない。
牙狼達も鉄をも砕く自分達の牙が砕かれた事で用心して攻撃出来ない。
『そうだ、粒子は俺を囲んで守ってくれた、狼を囲む事も出来るのでは⋯粒子よ狼を囲んで動けなくして。』
零を取り囲んでいた牙狼達1頭1頭を粒子が囲んだ。
牙狼達は動けなくなった。
「お〜成功した!!」
零が歓喜しながら言った。
『又噛まれたら嫌だから口も塞いでおこう。』
狼達の口を粒子で塞いだ。
「これでもう大丈夫だ。助かった〜」
零はほっとした声で言って座ったまま天を仰いだ。
「それにしても粒子の力は凄いなぁ。異世界の魔物の狼の攻撃も防いで、動けなくもできるのかぁ。この能力は人にバレないようにしないと。」
安心して一呼吸おいたら何かを思いついた。
『粒子の移動を使えば狼達を動かせるのか?』
零の近くで動けなくなっている牙狼に目をやって『粒子、上に移動』と命じるとその牙狼は木の上まで浮き上がった。
「こんな事も出来るのか。他の狼にも試してみよう。」
零が粒子に命じると全ての牙狼が木の上まで浮き上がった。
「こんな使い方も出来るんだ。」
浮かしていた牙狼を地上に戻し綺麗に整列させた。
『粒子を解除すると又襲われるから、ここを離れるまでこのままにしておこう。』
牙狼族を粒子で動けなくして、前世の趣味のキャンプのノリで、キャンプ地を探して森の中を歩いていると、そろそろ夕暮れになってきた。
零自身の体を囲んでいる粒子も安全の為そのままにしてある。
「腹が減った。そろそろ晩飯の時間か。川でも探すか。」
確実ではないが、川を探す方法はいくつかある。
森の緑が濃い方向に行くとか、断崖のある方へ行くとか。
牙狼達に襲われた時、粒子で動けなくして粒子の移動で宙に浮かせる事ができた。
つまり零自身も粒子で囲まれているのだから、粒子の移動を使えば空を飛べるはずである。
零は粒子の力で飛んでみる事にした。
『粒子、ゆっくり上昇。』
零の体はゆっくり森を抜け上昇した。
「おー飛べた〜凄いなぁ。」
森の上空で辺りを見回すと、魔物の森は広大で森の終わりは見えず、見渡す限り森だった。
「広い森だなぁ。さてさて川は何処だ。」
零が飛んでいる位置から西の方に川が見えた。
「川を発見。」
そこを夕食の地に決めた。
零には前世で趣味だったキャンプの経験と知識がある。
川には魚等の食材と水がある。
川辺に降りるとうまい具合に魚が泳いでいるのが見える。
どれにするか品定めして、20センチ程の活きのいい魚に決めた。
『粒子、あの魚を捕らえて。』
と命令するとその魚は水中で動かなくなった。
『粒子、魚をこっちへ。』
魚が水中から浮き上がって宙に浮き、零の方に来た。
『バーベキューグリルを作ろうか。粒子、バーベキューグリルに変形変色。』
粒子が変形変色してキャンプ用のバーベキューグリルになった。
周りを見回して手頃な枯れ葉と枯れ木を粒子で集め、バーベキュウグリルに入れた。
粒子で捕まえた川魚を絞めたあと、粒子でテーブルとまな板と包丁を作り、川魚の内臓を取って調理の用意をした。
『さて、火をおこすか。粒子、バーベキューグリルの落ち葉の上で高速回転して摩擦で火を起こして。』
バーベキューグリルの中で粒子が高速回転し摩擦で落ち葉に火がついた。
『粒子、川魚を薄くくるんでバーベキューグリルの上に置いて、火の熱をゆっくり通して。』
魚がグリルの上に置かれ、しばらくすると音をたてて焼けだした。
魚を包んでいる粒子は透明なので焼け具合もよくわかる。
「よし、いい具合に焼けた。」
零が笑顔で言った。
『粒子、皿と箸とコップを作って。』
零が命じるとテーブルに皿と箸とコップが現れた。
『粒子、川の水から水以外の不純物を散り除いて、コップに注いで。』
零が命じるとコップに水が注がれた。
粒子に命じて皿の上に焼けた魚を置かせた。
「粒子のおかげで異世界初日にまずまずの夕食が整った。いただきます。」
と零は言いながら、魚を箸でつまみ一口食べた。
「う〜ん、思った通り塩気がない。焼きたてだからまずくはないが⋯塩か醤油がほしいなぁ。」
零が言った。
今度は水を飲んだ。
「水は完璧。川の水がおいしい飲料水になってる。」
等と言いながら12歳の少年の零は魔物の森の深域の川辺で1人優雅に夕食を済ませた。
食後に粒子で焚き火台を作り食後のひととき。
「やっぱり異世界でもキャンプは良いなぁ。」
零は趣味のキャンプを満喫している。
辺りも暗くなってきたので次は寝床を作る。
粒子で1人が寝れる大きさのログハウスを作った。
テントでは室内が真っ暗になるので、ログハウスの屋根や壁に窓を作り、星と月の明かりが入るようにした。
室内には粒子でベッドと布団を作った。
布団は粒子を変形させて布状の柔らかさにした。
「うん、寝心地は良い。ちょっと早いけど今日は色々あったからもう寝るか。」
零がベッドに横になりながら言った。
森の中にも闇が広がっている。
その闇の中で零のログハウスを見つめる光る目。
その光る目が静かに増えていく。
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【次回予告 】
魔物の森の深域の新たな最強種が零を襲う。
最強種対最強種。
物語を読んでいただきありがとうございます。
これからも面白い物語に育てていきます。
「面白い!!」「続きが読みたい!!」と思っていただけたら、
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また読んでくれることを楽しみにしています。




