開戦
「主、我が今行って全て始末してきましょうか?」
フェスが笑いながら言った。
「うん、…それも考えたんだけど、隠密に始末すると魔王軍本隊がどう思うかと思って。」
零が悩ましく言った。
「確かに。魔王軍の大隊が戦わずして消えた事になりますから、本隊が変に思ってこの町を意識するでしょう。」
リラが言った。
「だから攻めて来た魔王軍を領都兵が追い返したって形を作った方がいいのでは、って思って。」
零が言った。
フェスとリラは頷いた。
「ボルターさんに明日の魔族の総攻撃の事を報告に行こう。」
零が2人に言った。
翌日。
領都兵団は執政長官ボルダーの屋敷の手前にある堅牢な建物を本陣とした。
「魔王軍は500体います。その配下の魔物部隊が1000体、合計1500体が領都近郊の森に集結しています。」
零は本陣で執政長官ボルターに言った。
個の強さを考慮し、人間の兵士に換算すると魔王軍は5000人の規模になる。
「我が領都兵団は冒険者も合わせて1000人ほどです。」
執政長官ボルダーは沈痛な面持ちで言った。
領都側は圧倒的に不利だ。
「魔王軍は先方隊にオークを配置してます。」
零が粒子で魔王軍の様子を確認して言った。
「オークが先方隊ですか!先方にハイランクな魔物を配置するとは。」
『なんでオークがハイランクなんだ。こいつら大丈夫ですか。』
フェスが呆れた顔で零に念話した。
零が苦笑いした。
「では籠城して、城壁の上からオークを攻撃します。」
執政長官ボルダーが言った。
開戦。
先鋒隊のオークが雄叫びを上げて突撃してきた。
「オークが来たぞー!弓矢隊用意、放てー!」
領都兵団は城壁の上から弓矢で応戦した。
雨のように矢が先方隊のオークに降り注いだ。
「オークの突進が、止まらない…」
領都兵の一人が呟いた。
オークに4〜5本の矢が刺さったくらいでは突進を止められない。
領都兵団の必死の応戦虚しく、最初の梯子が城壁に掛かった。
「城壁に梯子がかかったー、岩を落とせー!」
領都兵は梯子の上から岩を落とした。
岩はオークに当たるのだが、怯まず梯子に集結してくる。
「だめだオークの勢いが止まらない。」
梯子は2本目、3本目が掛けられた。
城門も攻撃を受けていた。
「ありったけの弓矢を放てー!」
「岩を落とせー!城門は死守しろ!」
複数のオークが大木を縄で抱え持って、城門に当てて、破ろうとしている。
城門の上からも弓矢や岩で応戦するが、オークは怯むどころか、城門に集結し大木を抱えるオークが増えている。
「だめだ、倒しても倒してもオークは増えるばかりだ!」
城門の上の領都兵の一人が叫んだ。
城門の上からの攻撃で大木を抱えるオークを倒しても、次のオークが大木を抱え、城門を破ろうとする。
オークが大木で城門を破る勢いは収まらない。
城門は遂に破られた。
「城門が破られたー!」
破られた城門の中にはオークの侵入に対抗する200人の城門守備隊の領都兵が配置されていた。
その領都兵の前にフェスが1人立っていた。
「遅いじゃねーか。」
フェスは右肩に狼牙剣を担ぐ様に持ち、目は殺気に満ちて威圧を発しているが、口元は笑っている。
フェスの威圧にたじろいだオークだが、踏ん張って雄叫びを上げながら、城門の中のフェスに突進して行った。
フェスは見えない早さで狼牙剣を振るい、城門の中に飛び込んで来た数十体のオークを一瞬で斬った。
「何が起こったんだ。」
「あれだけのオークを一瞬で…」
「動きが見えなかった…」
城門の守備隊の領都兵の数人が口々に言った。
さすがのオークも突進を躊躇した。
その隙を狙ってフェスが城門の外に飛び出し、城門に集結していたオークを全て斬った。
フェスは城壁沿いを走り、オークが掛けた梯子を全て切り倒していった。
梯子を切り倒されたオーク達は落下した。
「さぁ、始めるか。」
全ての梯子を切り倒したフェスが城壁の周辺のオーク達に言った。
フェスは狼牙剣をダラリと下げてオーク達を威圧した。
フェスがいなくなった城門に再びオークが集まりだした。
「構えろ!」
城門を守る守備隊の領都兵が叫んだ。
城門の守備隊の前の地面に黒い穴が空き魔導士クノスバが現れた。
「我が名は魔導士クノスバ…」
とクノスバが名乗っている所にオークが殺到した。
『ちょっと、まだ名乗ってるのに…』
と思いながら零は殺到するオークを粒子で固めて城門の外に吹き飛ばした。
今回の魔導士クノスバの傀儡の中には零自身が入っている。
『粒子、城門を元に戻して。』
魔導士クノスバの中の零が粒子に命じた。
城門は元の状態に戻り、閉じられた。
「どうした!オーク共はまだ城門を破れぬのか。」
森の中に陣をはる小隊長ダロックが叫んだ。
小隊長ダロックの周りには20体程の班長クラスの魔族兵がいる。
「城門は破れぬぞ。」
小隊長ダロックの耳元でリラが言った。
「誰、」
小隊長ダロックが言って振り向こうとした勢いで、首が横に半回転しながら落ちた。
「ダロック様!」
魔族の兵が小隊長ダロックの骸の後にいるリラに襲いかかろうとして身構えたが、そのリラの幻影を見ながら次々と魔族の兵の首が落ちていった。
「他愛もない。さて、次の小隊へ行くか。」
リラは言いながら霧の様に消えた。
そこに首と胴が離れた20体程の魔族達が残った。
3体の小隊長と50体程の班長クラスの首を落としたリラは後方から魔王軍を倒しはじめた。
魔導士クノスバの中の零はゆっくり飛び上がった。
『フェス、リラ、今から矢を放つから気をつけてね。』
魔導士クノスバの中の零が念話で伝えた。
『はっ。』
2人は念話で返した。
フェスは城壁まで一気に下がった。
リラは戦っている魔族兵の前から幻影を残して姿を消した。
『粒子、1000本の矢を作ってここにいる1000体の魔王軍と魔物部隊を倒して。』
零が粒子に命じた。
上空に1000本の矢が現れた。
「何だあの矢は!?」
「空に無数の矢が現れた!」
「矢が空に浮いている。」
領都兵団は上空を見上げて口々に叫んだ。
「いけ!」
魔導士クノスバの中の零が命じると、矢は一斉に放たれ魔族や魔物の頭を正確に貫いた。
1000体の魔物が一斉に倒れた。
「矢が魔物に当たった!」
「ほとんどの魔物が倒れた!」
領都兵団の兵士達は驚嘆の声を上げた。
フェスとリラも目を丸くして言葉を失った。
魔王軍はこの一撃で壊滅した。
残った魔王軍は、上空からの矢に恐怖し、指揮官も失っていて、命令系統も混乱し、四散して逃げていった。
戦いは終わった。
圧倒的に不利と思われた領都兵団は勝利の雄叫びを上げた。
兵士は誰も命を失う事なく、魔王軍1500体を退けた。
【次回予告 】
領都と魔族の戦いの後の処理。
村に戻る。
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