筆頭秘書官の正体
「あわあわ…」
ネビルは恐怖で言葉にならない。
フェスは躓いて倒れたまま起き上がれないネビルの前で止まった。
「たっ、助け…」
最期にそれだけ言ってネビルの首は地面に落ちた。
「だいぶ怒っているなぁ。」
いつの間にかフェスの背後にリラが現れて、少し笑いながら言った。
「怒ってなどおらん。」
無愛想にフェスが言った。
「村長の娘達を狙われたからなぁ。」
独り言の様にリラが言った。
「関係ない。我は主の命令に従ったまで。」
フェスが強く言った。
「零様の命令は私達2人であ奴らを始末せよとの事だったが。」
リラが少し笑いながら言った。
「うるさい!」
フェスが怒って言って、リラの横を通り過ぎて町に向かって歩き出した。
リラが笑顔で後に続いた。
同じ頃、零は孤児院の周辺の土地に、粒子で冒険者の訓練施設を作っていた。
訓練施設を作るのは、銭湯や宿泊施設の客として冒険者を狙える事。
子供達や貧困者の中で冒険者になりたいと希望した時にその訓練が出来る事。
一般に開放するので商人や農民も遊びで冒険者の訓練の体験が出来る事。
これらを売りにしようと考えた。
筆頭財務官バルトロに冒険者ギルドの出張所の設置も依頼した。
夜になってフェスとリラが帰って来た。
「2人ともありがとう。」
零が言った。
「私は何もしてませんが。」
リラが少し笑いながら言った。
フェスの戦う様子を粒子画面に映しながら、冒険者施設を作っていた零も少し笑った。
「あ、主、ご命令通り、賊は全て始末しました。」
フェスがリラを遮るように慌てて言った。
「うん、ご苦労様。夕食を用意してるから食べて。」
零が言った。
この日の夕食はクリームシチューだ。
孤児院の食堂で零達とマリアと2百人の子供達と一緒に食べた。
孤児院は子供達の数が増えたので4階建にし、建築面積も増やし、増築した。
「この奇跡の料理も使徒様のお力。」
マリアが祈りながら言った。
「ただのクリームシチューですから。それに使徒様じゃないです。」
零が苦笑いで言った。
子供達は嬉しそうに食べた。
「どういう事だ?」
筆頭秘書官のエレノアが言った。
領主セドリック男爵の屋敷の筆頭秘書官エレノアの執務室で部下の秘書官がエレノアに報告している。
「路地にいるような貧困者をバルトロが集めて食料や住む所を与えているようです。噂を聞いた貧困者達もバルトロの屋敷に集まっているので、そんな者達を拐うこともできず…」
筆頭秘書官エレノアの部下が言った。
「バルトロは貧困者など毛嫌いしていたではないか。貧困者を集めて何をしている?」
筆頭秘書官エレノアは声を荒げて部下に聞いた。
「貧困者を集めて領地の南東を開発しているようです。」
部下が言った。
「南東?あのような荒廃した土地を開発?そんな事できるはずはないではないか。」
筆頭秘書官エレノアが驚いて言った。
「しかし既に大きな建物が3棟あり、土地を農地にする為に区画整理も出来ていて、貧困者達も500人以上集まってます。」
部下が言った。
「500人!?一体いつからそんな事業を?予算は?…いや、バルトロをすぐ呼べ。」
筆頭秘書官エレノアが言った。
筆頭財務官バルトロが零達を連れて領主の屋敷に来た。
応接室に入ると、セドリック男爵と筆頭秘書官エレノアと3人の秘書官が待っていた。
「これは、零殿も一緒であったか、座ってくれ。」
セドリック男爵が声をかけた。
「バルトロ、秘書官から報告を聞いたが、貧困者を集めて南東の土地を開発しているとか。」
セドリック男爵が筆頭財務官バルトロを見て言った。
「はっ。」
筆頭財務官バルトロは言って、零の考えや白銀の塩や排水を使った農地化の事を詳しく話した。
「まさか、零殿が来てからまだ二日しか経っていないのに、建物を建てて、農地の区画整理も行って、その上白銀の塩を作るだと、そんな事ができるのか?」
セドリック男爵が筆頭財務官バルトロの話を聞いて驚いて言った。
「零殿は女神の奇跡をお使いになる大賢者様ではないかと思われます。」
筆頭財務官バルトロは言った。
『大賢者!?』
筆頭秘書官エレノアが顔色を変えた。
「違いますって。」
零が笑いながら言った。
「零殿が大賢者…で、では明日にでも視察に行こう。」
セドリック男爵が動揺しながら言った。
「その必要はない。貧困者達と男爵を会わせる事は出来ない。」
零が強い口調で言った。
セドリック男爵と筆頭秘書官エレノアが、零の豹変を驚いた目で見た。
誰よりも筆頭財務官バルトロが目を丸くして驚いている。
「魔王軍大隊長エレクトラ、正体を現せ。」
零がエレノアを見ながら怒りの声で言った。
「なっ!?」
筆頭秘書官エレノアがたじろいた。
「そこに並んでる秘書官もエレクトラの配下の魔族兵だな。」
零が言った。
秘書官達も顔色が変わった。
「な、何の事ですか?」
追い詰められた顔で筆頭秘書官エレノアが言った。
「そうか。」
零が言いながら、しらを切る筆頭秘書官エレノアの方に手をかざした。
『粒子、エレノアの人型擬態を本体から分離させて。』
零が頭の中で命じると筆頭秘書官エレノアの擬態が溶けるように消えて魔族エレクトラが現れた。
「なぜ!?貴様何をした?」
魔族エレクトラが叫んだ。
秘書官達の擬態も解除され、魔族兵の姿が現れた。
「お前達は許せない。」
零が言うと同時に、いつ飛び出したのか、フェスがエレクトラの首を落とした。
配下の兵士達の首も同時に落ちて、倒れた背後にリラが立っていた。
【次回予告 】
セドリック男爵の問題が決着。
物語を読んでいただきありがとうございます。
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