魔導士クノスバ
「何だ、あれは。」
冒険者ボルグが言った。
「これは…炎虎ですか。」
リラが懐かしそうに少し笑って零に言った。
「え、炎虎だと!」
冒険者ジェイスが目を丸くして言った。
人族にとって炎虎は神話の魔獣で、存在すら確認出来ていない。
使者バルトロと護衛の冒険者達は炎虎の強い魔素に圧倒され怯えている。
「お、お前達、あの魔獣を何とかしろ!」
使者バルトロは後退りしながらフェスに言った。
「自分でやれ。あいつは手強いぞ〜」
笑いながらフェスが言った。
炎虎は威圧しながら使者一行に一歩一歩近づいて来る。
使者一行は炎虎の威圧で動けない。
炎虎の攻撃射程距離に入ったその時、フェスとリラが何かに気づいて身構えた。
炎虎は飛び退がった。
使者一行と炎虎の間の地面に黒い穴が開いた。
そこから紺のローブを着た老人が地面から浮かび上がって来た。
「なっ何だお前は!?」
使者バルトロが炎虎に怯えながら、ローブの老人に言った。
「我が名は魔導士クノスバ。零様の忠実な下僕。」
クノスバを名乗る魔導士が言った。
「零様、あの者は?」
リラが零の顔を見て言った。
「後で説明するよ。」
零が笑って言った。
炎虎は獲物の気配や魔力などを感知して仕留める。
しかし魔導士クノスバにはそれがない。
フェスやリラもそれを感じていた。
実体はあるのに存在を感じさせない。
「クノスバ、炎虎を倒して。」
零が言った。
「はっ、主様。」
魔導士クノスバは言いながら右手に炎の玉を作った。
炎虎は身構えた。
魔導士クノスバが右手を前にやると炎の玉が炎虎に向かって飛んで行った。
炎虎は口から炎を吐いて応戦したが、魔導士クノスバの炎の玉の方が強く、炎虎の炎は押し戻された。
炎虎は炎の玉を右に避けたが、炎の玉は炎虎を追って来た。
炎虎は左に右に避けたが、やはり炎の玉はついて来る。
炎虎を追いかけていた炎の玉は、途中で細く長く形を変え、まるで縄のように炎虎をぐるぐる巻きに捕らえ、そのまま炎で包み、跡形もなく焼き尽くした。
使者一行は恐怖の目で魔導士クノスバと炎虎の戦いを見ていた。
炎虎の威圧からは開放されたが、腰を抜かして動けない。
魔導士クノスバは炎虎が消えた事を確認して、零の所に歩いて来た。
零の前にフェスとリラが立ちはだかった。
「お2人とも、いつも我が主様を守って頂き、ありがとう存じます。」
魔導士クノスバが2人に片膝をついた。
2人は、はっとして零を振り返った。
「魔導士クノスバ、ご苦労様。」
と零が言うと地面の中に消えて行った。
『あの者、主と同じ、魔力も気配も感じませんでした。』
フェスが念話で伝えた。
『直感ですが、あの者は零様と同じ感じがするのです。』
リラも念話で伝えた。
『正解。2人ともさすがだね。あれは僕が作った傀儡だよ。』
念話で零が応えた。
『あれは傀儡なのですか!?』
フェスが念話で聞き返した。
『ゴーレムの様なものですか?』
リラが念話で零に聞いた。
『ゴーレムとは少し違うなぁ。ゴーレムは相手を倒せ、と命令するとゴーレム自身の判断で相手と戦うでしょ、でも僕が作る傀儡は、手を動かせ、足を動かせ、と細い命令を与えないと動かないんだ。』
零が念話で2人に説明した。
『なるほど。あの者は主様が作った傀儡でしたか。』
リラが念話で零に伝えた。
フェスは今一つわかってないような顔をしている。
『あいつらに見せておこうと思って。領都に行ったら使うだろうから。』
零が念話で伝えた。
『あいつらなら炎虎に喰わせてよかったのでは。』
フェスが念話で伝えた。
零とリラが笑った。
『主は火魔法も使うのですね。』
リラが念話で伝えた。
『ははは…まぁ。』
零は念話で答えたが、実際魔法等使えない。
火魔法に見えたのは、粒子の能力で地中のマグマを粒子の玉の中に転移させて飛ばしているものだ。
『それにしてもさすがは主、あの炎虎をああもあっさり倒すとは。』
フェスが念話で伝えた。
『炎虎は殺してないよ。炎で包む時に炎虎を防御して転移させて森の深域に帰した。』
零が2人に念話で伝えた。
『なぜですか?』
フェスとリラは少し驚いて念話で聞いた。
『なぜって…殺す理由もないから。』
零が念話で答えた。
『しかし、あ奴らは我ら牙狼族を襲う事もあります…』
フェスが念話で伝えた。
『その時は殺すよ。』
間髪入れず零が念話で答えた。
フェスとリラは暫く真顔で零を見つめたが、笑顔になった。
『ありがたき幸せ。』
目礼しながらフェスが念話で伝えた。
使者一行は炎虎の一件以来大人しくなった。
それどころか零達に対する態度に畏怖の念が感じられる様になった。
態度が改まったので、零は零達と同じ様に肉を焼いて分けてあげた。
さすがにワイバーンの肉という訳にはいかないので、オークの肉を粒子で大型の鉄板を作ってオリーブオイルと塩でステーキにして焼いた。
「これは美味い!」
使者一行は絶賛した。
「零様、あの白い粉はまさか塩ではないのですか?」
使者バルトロが言った。
「はい、そうです。」
零が答えた。
「白銀の塩、やはり出処は零様でしたか。」
使者バルトロはバルドー村で白銀の塩を手に入れていた。
「ははは…」
零は笑ってごまかした。
零達にとって快適に数日が過ぎ、馬車は領都バルセーヌに到着した。
【次回予告 】
領都に到着して領主と対面。
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