粒子の転移
翌朝。
零がベッドで体を起こすと、粒子の能力のステータス画面が現れた。
無限分散は継続中で新しい能力【転移】が加わった。
「転移かぁ、この能力はメジャーだからわかる。」
零はベッドから降りた。
『粒子、ドアの前に転移。』
零はドアの前まで転移した。
「なるほど、離れた粒子同士がつながるって感じになるんだ。」
『探索の能力と連動するか試すか。粒子、迅鹿を探して。』
粒子画面が出て迅鹿が映し出された。
『粒子、迅鹿の5メートル前に転移。』
零は迅鹿の5メートル前に転移した。
零が突然目の前に現れたので、迅鹿は驚いて逃げて行った。
『なるほど、こんな感じになるのか。粒子、ログハウスに戻して。』
零はログハウスの自室に戻った。
朝食を終えて零は粒子画面の地図を観ていた。
魔物の森から一番近い人の村か町を探した。
ここから約3000キロ東に村があるようだ。
「人の村に行ってみようかと思う。」
零が言った。
「人族の村ですか。昔王都に住んでいた事もありますが…」
リラが不思議そうに言った。
「我も昔修行で暫く王都で暮らした事はありますが、あのような下等な者共に何の用があるのですか。」
フェスが言った。
「ははは…僕も人なんだけど。」
零が苦笑いで言った。
「あっ!あああ〜!申し訳ありません。主は別です!」
フェスが慌てて言った。
「バイコーンの素材や塩とかを売りに行ってみようかなと。」
零が言った。
「一番近い人族の村でも魔豹の足で3か月程かかりますが、零様の飛行魔法なら3日あれば行けるでしょう。」
リラは肯定的に言った。
「うん、まぁ。」
粒子の転移の能力が加わったので、零は言葉を濁した。
「行きましょうー!人族を食うのも良いやもしれませぬ。」
フェスが少しご機嫌に言った。
「いや、食べたらダメだから。」
零が苦笑いした。
「行く前に、2人と念話出来るようにするね。」
『粒子、僕とリラとフェスが念話出来るように脳内の信号を粒子で互いの脳に転移させて。』
3人の脳の中のナノサイズの粒子が脳内の信号に反応して、転移の能力を応用し、相手の脳内の粒子に脳の信号を転移させて意思疎通が出来るようにした。
『主、フェスです。聞こえますか?』
フェスから念話がきた。
『はいはい、聞こえてますよ。』
零が念話で返した。
「凄いです!主。我が牙狼族の念話より、よく聞こえます。」
フェスが驚いて言った。
『零様、リラです。』
リラから念話がきた。
『はいはい、聞こえてるよ。』
零が返した。
「零様、本当に鮮明に聞こえます。」
リラが驚きながら言った。
「フェスとリラも念話できるよ。」
零が言った。
「本当ですか。」
フェスは驚いて言った。
異種族同士では魔力の波動が違うので念話は出来ない。
『おい、リラ、聞こえるか。』
フェスがリラに念話した。
『フェスか、聞こえるぞ。』
リラが念話で返した。
「フェスとの念話も出来ました。」
リラが驚きながら零に言った。
「これで周りに聞かれたくない事でも念話できるね。」
零が笑顔で2人に言った。
「それと2人が牙狼族と魔豹族ってバレない方が良いから、耳と尻尾は隠すね。」
零が言って2人の耳と尻尾を粒子の光学迷彩で見えなくして、転移の能力で他人が触れてもすり抜けるようにした。
「おー、見えなくなりました。」
「きれいに隠れてます。」
フェスとリラは感心して言った。
「それと2人には防御の力と治癒のリカバリーの力をつけとくね。」
零は粒子で2人を粒子で囲み、その中に粒子の治癒をリカバリーとして付けた。
これで2人はAランクの攻撃力を持ち、粒子の完全防御と治癒による無尽蔵の体力を持つ、謂わば無敵の戦士になった。
零が村の周辺を粒子画面で見ると、村の手前で複数の薄い赤い点が点滅していて、複数の青い点がある。
映像を観ると人がゴブリンに襲われている。
「ちょっと急いで行こうか。」
零がフェスとリラに言った。
「はい。」
2人が言った。
『粒子、転移。』
村の近辺の森の中で、人がゴブリンの群に襲われていて、馬車は壊され、4人の護衛の冒険者は、1人は倒れていて、3人はケガを負いながら応戦している。
零達は見つからないように少し離れた木陰に粒子で転移した。
「主、これは転移魔法では?!」
フェスが驚いて言った。
「零様、転移魔法を初めて体験しました。感激です。」
リラは感動しながら言った。
「あぁ、2人とも転移は初めてだったの。」
零が2人を見て言った。
「しかし、まずいなぁ、ケガをしてる。フェス、リラ助けてあげて。」
馬車の方を見ながら零が言った。
「はっ!」
と言って行こうとしたが、そのまま2人とも動かない。
「…で、どちらを助けるのです?」
フェスが零を振り返って聞いた。
リラも零を振り返った。
「いや、人の方を助けてあげてよ。」
零が少し呆れて言った。
「はっ!」
言って2人は飛び出した。
20体以上のゴブリンの群が馬車を囲もうとしている。
「ゴブリンの数が多すぎる。囲まれたら全滅するぞ。」
冒険者が言った。
その時草むらからフェスが狼牙剣を右手にダラリと下げて、ゴブリンと冒険者の間に、ゆっくりと歩きながら現れた。
狼牙剣は牙狼族族長に代々受け継がれる魔剣である。
フェスの目は鋭く殺気を帯びているが、口元は笑っている。
「えっ、何だ?」
冒険者がフェスを見て言った。
フェスの姿を見てゴブリン達は動きを止めた。
フェスの威圧でゴブリン達は動けなくなった。
かろうじて動けるゴブリンは森の奥へ逃げようとした。
そこに音もなくリラが立っていた。
リラの周辺で大気が揺らぎ、逃げようとしたゴブリンの首が、体から離れて次々と宙に浮いて落ちていく。
フェスは歩きながら、恐怖で動けないゴブリンを、見えない速さの太刀さばきで二つ胴にしていった。
冒険者達は呆気に取られた。
たった2人で20体以上のゴブリンをあっという間に全滅させた。
「何なんだあの2人。」
冒険者カイトは驚きながら言った。
「大丈夫ですか?」
零が冒険者達に近づきながら言った。
「えっ、君、子供がどうして森の中に?」
冒険者ガルスが言った。
「キズを治しますね。」
零が冒険者ガルスのキズ口に手をかざした。
『粒子、治癒。』
冒険者ガルスのキズが一瞬で治った。
「えっ?君、治癒魔法士なの?しかも無詠唱で。」
冒険者ガルスが驚いて言った。
「はぁ…まぁ。他の人も治しますね。」
零はあやふやに返事しながら倒れている冒険者サラに近づいた。
冒険者サラは瀕死の重傷で、もはや虫の息だった。
「このままでは死んでしまう。」
倒れた冒険者サラの横で仲間の冒険者ミラが泣き叫んだ。
零が手をかざすと倒れた冒険者サラは一瞬で完治し、意識を取り戻した。
「…痛みがなくなった。」
倒れている冒険者サラが驚いて言った。
「凄い、あんな重症だったのに、一瞬で。」
横の冒険者ミラが言った。
「主、全て片付けました。」
フェスが言いながら零の方に歩いてきた。
「主様、終わりました。」
リラも零の側まで来て言った。
「ありがとう。2人とも。助かったよ。」
零が2人に言った。
フェスは明るい顔で喜んだ。
リラは満足そうに零に頭を下げた。
【次回予告 】
村の主要な人たちと対面。
物語を読んでいただきありがとうございます。
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