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第1話 MESCALIBUR

「おいおい見ろよ、あいつ。まだマイ・バディを持ってねえのかよ」


「だっせー! 今の時代、マッグのハッピーオペセットでもバディがついてくるってのにさ!」


 放課後の校門前。


 クラスメイトたちの冷たい視線と笑い声が、切札零きりふだ・れいの背中に突き刺さる。


 世はまさに、大医療時代。


 子どもたちのステータスは、持っている『患者バディ』の性能と、それを執刀する『オペギア』の性能で決まる。


 だが、小学五年生のゼロのポケットにあるのは、家からこっそり持ち出した錆びかけの裁縫用ハサミと、絆創膏が三枚だけ。


「うるさい! 俺だって、いつか最高のバディを見つけて、世界一のオペラーになるんだ!」


「それ、昨日も言ってたぞ」


「口だけだ、口だけ。さすが『ゼロ』は違うねー」


 ゼロ。バディもオペギアもない。

 何も持っていないから、ゼロ。

 そんなあだ名をつけられていた零は、悔しさのあまり反論した。


「じゃ、じゃあ明日! 明日、オペギアとバディを持ってくるから勝負だ!」


「え、マジかよ!」


「へぇ、そんじゃアタイがやってやるよ」


 クラス一の乱暴オペラー、赤城ミナが歯を見せて笑った。


「明日は土曜日だし、昼メシ食ってからじゃないと家を出られねえから……一時にセキクロス公園で待ち合わせだ」


「あ、ああ! やってやる!」


「こいつは楽しみだな。負けたり、来なかったりしたら罰ゲームだからな!」


「わかってるよ!!」



 やばい。やってしまった。


 誰もいない河川敷の帰り道。零は途方に暮れていた。


「母さん、許してくれるかな……?」


 オペバディ・バトル。


 それは患者――バディを使って、様々な競技で勝敗を競うゲームだ。


 母は、命を軽々しく扱ってはいけないと言って、零をオペバディ・バトルから遠ざけている。


 なんとか交渉するか。いや、貯金を崩して買うか。バディは家の外の段ボールに隠しておけば、いけるだろうか?


「……いや、無理だろ。母さん、絶対気づくし」


 零は頭を抱えた。それでも、言ってしまったものは仕方がない。


「……へっ。見てろよ。俺だって、最高のバディを手に入れて、世界一のオペラーになってやるんだからな……!」


 零は夕日に向かって、悔しさを紛らわせるように拳を突き上げた。

 そのときだった。


「――見つけたぞ。君が、切札零くんだね?」


 草むらから突然、ボロボロの白衣を着たペストマスクの男が飛び出してきた。


 男の肩口には、何らかのレーザー執刀を受けたような焦げ跡があり、そこから激しく血が流れている。


 明らかに、何かに追われていた。


「うわっ!? だ、誰だよおじさん! っていうか大怪我じゃん!」


「時間がない。これを受け取ってくれ。……君のお父さんからの、届け物だ」


「親父から……!?」


 男が差し出してきたのは、鈍く銀色に輝く、重厚な腕時計のようなメカだった。


 次の瞬間、男がそのメカを零の手首へと押し付ける。


 ガチィィィン!!


 腕時計のような輪が、零の手首に巻きついた。


 その中央に刻まれた文字は――『MESCALIBURメス・カリバー』。


 直後、手首のギアから網目状の青い光が走り、周囲の空間をスキャンした。


 ウィィィィィン……ッ!


 次の瞬間、足元のアスファルトが光り、白い手術台と、銀色の器具トレイが展開される。


 ナノマシンが高密度で結合し、一瞬にしてストリートを「完璧な無菌室」へと変貌させたのだ。


「な、なんだこれ……!」


 零の驚愕をよそに、男は口元の血を拭いながら満足そうに笑った。


「携帯展開式オペギア。……君のお父さんが、最後に残したものだ。悪の医療組織に渡すわけにはいかない。君が、それを使って――」


「おい、待てよおじさん! 親父ってどういうこと――」


 問い詰めるより早く、男はナノマシンの光に紛れるようにして、再び闇の中へと走り去ってしまった。


 あとに残されたのは、近未来の手術台と、零の手首に鈍く輝く『オペギア』だけだった。


「親父……生きてたのか……?」


 零は胸の高鳴りを抑えきれないまま、展開された手術台を大急ぎでギアに格納し、家へと走った。



 その夜。自分の部屋のベッドの下に、厳重にオペギアを隠した零は、泥のように眠りについた。


 そして、夜が更けた頃。静かに部屋のドアが開き、一人の女性が入ってくる。


 零の母親だ。母親は、ベッドからはみ出ていた銀色のギアを見つけると、そっとそれを手に取った。


 月光に照らされる『MESCALIBUR』の刻印。


 母親の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


「……やっぱり、あなたの子なのね。あの人の、血には抗えないというの……」


 我が子の寝顔を見つめながら、母親は静かに覚悟を決めた。



 翌朝。朝食の席で、母親はトーストを口に運ぶ零を見つめ、静かに切り出した。


「零。今日、バディを買いに行きなさい」


「ぶっ!!」


 零は牛乳を吹き出しそうになった。


「えっ……いいのかよ、母さん!? ウチ、お金ないからって、ずっとダメだって言ってたじゃん!」


「ええ。でも約束して」


 母親の目が、いつになく真剣だった。


「約束?」


「あなたは――命を、道具にしないで」


 その言葉の重みに、零は一瞬だけ息を呑んだ。だが、手首に隠した『MESCALIBUR』の重みが、零の背中を押す。


「分かってるよ、母さん。俺は、患者を傷つけるためにオペラーになるんじゃない。……みんなを救って、最強になるんだ!」


 零のまっすぐな瞳を見て、母親は優しく微笑んだ。


「いってらっしゃい、零」


「応! 行ってきます!」


 零はダッシュで家を飛び出した。


 目的地は、ありとあらゆる最新医療人間が揃う夢の国――大型医療ホビーショップ『トイザめス』。


 バディが大量に売買されている……夢の国だ。


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