11話
ハードディスクは砕けない
ローズマリーの裏の路地。
クランの面々は、俺とマリアを取り囲んでわいわい言っていた。
「……流れに、身を任せろ」
「まあ、ドカーンと来てカッキーンって感じかな」
「無よ! 無になるのですわ!」
魔法ははじめて使うまでが大変らしい。
一部の世界出身者は最初から魔法が使えるようだが、そうでもなければ生まれてはじめての感覚だ。
しかも最初に発動した魔法の属性が、その人の得意属性である可能性が高いらしいので、重要なのだ。
「落ち着いて、リラックスしてから」
「そこや! そこ……、ああ〜いい感じやったのに」
「ラザロさん」
「なんだい?」
「アドバイスがうるさいです」
しかも全部感覚的で、まともなアドバイスがほとんどない。
「はっはっは」
ラザロは笑ってみせると、
「こう考えたらいい。戦場はもっと騒音だらけだと」
アドバイスを騒音扱いしてるよ、この人。
「あっやばいやばいやばいやばい」
「来てる、今来てる!」
何事かと思ったら、座禅を組んで目をつむっているマリアの胸のあたりから、水色の光が放たれていた。
「ラザロさん、これは?」
「エーテル、魔法の前段階だね。これが形になると魔法になる」
ラザロは無造作に光に触れた。
「どうやら、『水属性』の力のようだ」
神秘的な光はゆっくりと輝きを失っていき、やがて普通の昼間の明かりにもどった。
「今の、うまく行ってなかった?」
マリアがパッと目を開けて言った。
「行ってた」
お前はやるやつだと思ってたぜ。
「水属性はいいよ〜。回復も使えるし便利だし」
見るからに水属性というか人魚のリディアが、珍しくテンションを上げた。
「誰かさんは『魔力覚醒』まで、まるまる一週間かかったな」
ケトラがスザンナの耳元で言った。
ちなみに、俺たちが魔法の練習を始めてから今のところ3日だ。
「わたくしは大器晩成型ですの」
スザンナは強気を崩さない。
「それに、あくまで主力は弓! ですわ」
それからしばらく、マリアの魔法をどう戦略に組み込むかについて、話し合った。というか、みんなが好き勝手に喋った。
「水属性は回復の魔法に秀でておりますの。
ヒーラーはうちの手薄な部分。
マリアにはヒーラーとして育っていただくのがよろしいかと」
マリア=ヒーラー派の代表がスザンナだ。
「回復役かあ。ちょっとイメージに近いかも」
本人も乗り気になっている。
「水属性には防御の力を高める魔法があんねんな」
ケトラにはまた別な活用法があるようだ。
「うちやバーソロミューを強化して、前衛ゴリ押し!
安全を取るなら回復よりむしろ防御やで」
「ロマンが足りないです!」
ロマン派がマルコだ。子供はロマンが好きだからな。
「リディアとマリア、二人の魔法使いが並んで二大氷砲塔!
これは圧倒的火力ですよ!」
「もしも……、氷耐性の敵なら?」
バーソロミューが密やかに突っ込みを入れた。
「火力役を同じ属性で揃える意味、ロマンしかないよね〜」
リディアもロマン案には否定的だ。
「セトくんはどう思う?」
ラザロが急に俺に振ってきた。
「そうっすね……。
マリアに向いた役割なら、なんでもいいです。
今のところ、ヒーラーかもって思うけど」
「うん」
ラザロはうなずくと、立ち上がって手を挙げた。
「結論を言おう」
「ヒーラー」
スザンナが小さくつぶやいた。
「防御バフ!」
ケトラが拳を握りしめる。
「ロマンは……」
マルコもまだ諦めていない。
「結論は……、保留!」




