それぞれの戦い(1)
時は警察が学校に訪問した昨日にさかのぼる。倉里市、倉里警察、特殊捜査本部。
丹山将平は百々宮加奈子を中心とし、集めたデータ資料に目を通す。麻布田市にある大型施設の利用者名簿、それに関するデータを片端からかき集めて来たものだ。
「しっかし、よくまあ、こんなに集めようとしますよね。先輩、強引すぎません?」
「口を動かすなら資料に目を通すスピードを上げなさい。これぐらい、強引に調べようとでもしない限り、あの化物にはたどり着けそうもないと言う事が分からないのか?」
その言葉に他の刑事たちは大量のデータをあさり、自分もしっかり資料と向き合う。
化物、確かに立神魁と言う劇的進歩は遂げたと思うが、それ以来の進歩がまるでなかったのだ。立神魁をとらえようにも目撃情報すらないのでは話にならないし、他の化物に関しても手の付け処が無かった。捜査も長引くだろうし、人々のパニックを抑えるためにも報道の規制は行われているが、やはり、なんとしてでも早急な解決が望まれている。
進展があったとすれば、あのキマイラという奴にライオンは恐らく同種でエボリューターとかいう存在。で、恐らく、レッドとブラックはそれとは別系統と言う事ぐらいだ。
もし、もう一つ言うとすれば前回の騒動でレッドが市民の避難誘導らしき行動を行い、警察に対し、敵意を向けている訳ではなさそうと言う事だが。
「レッドか……でも、危険生物であることに違いはないんだよな…………」
いくらレッドが正義だの言って行動していても警察側の人間としては危険な存在と認識するほかない。実際、この本部内でもそれが一貫している。あくまでもこの社会の正義は法律なのだよな。そして、法律の下にあり、従い動く警察。
改めて壁に貼られている地図に目を向けた。今や、管轄地域である立月、麻布田、理戸、倉里の四市の地図に広がっている。そして、麻布田市に二か所、理戸市に一か所、立月市に一回所、バツ印。化物が出現した場所だ。
これに対し、ここまで暴れ続けられては悠長な事は言っていられないと、百々宮が最初に三回も出現したとされる麻布田市を重点的に調べる方針を言い出したと言う訳だが。
「将平、いい度胸だな。この山のデータを前にぼさっとするとは。そこまでその一本のアホ毛を裂かれて二本にしたいのかな?」
「随分、微妙な脅しですね!? でも、二本はダメです。やっぱり一本がベストですって」
「下らんこだわりを語る暇があったら資料に目を通せと言ってるのよ!!」
「はい――――!!」
百々宮に叱られ、一応アホ毛が二本になっていないかチェックし再び資料に集中する。
しかし、この倉里市だけのはずなのにバカみたいな量にうんざりしかねない。しかも、これだけのデータをあさったとしても化物と繋がっている可能性なんてほとんどゼロに近いと言うのに、一体このデータの何に着目して見ろと言うのか。
なんて思いながら、今日手に入れた資料である麻布田高校のデータに手を伸ばす。この中には散々校長に無理言って手に入れた教師をはじめとする職員に大量の生徒のデータがある。しかも、欠席やら遅刻やらのデータまでびっしり書かれたもの。
百々宮はなりより、施設の定期的利用者の行動記録を欲しがっていた。それが高校の場合、欠席、遅刻、早退の記録。ここ数か月間だけの記録とはいえバカみたいに恐ろしい量になのは見るまでも無くわかる。一体、あの高校に何人の生徒がいると思っているのだ。
とにかく、次々と目を通していきながらどんどんパソコン画面をスクロール。遅刻理由、欠席理由などが明記されていたのでそれも見比べながら、遅刻、欠席等の日時、時間帯を化物の出現時と照らし合わせて調べていく。
遅刻しているやつは、一週間に一度は遅刻しているし、ひどい奴は遅刻していない日の方が少ない。引きこもりなのかずっと欠席の生徒もいる。そんなのを見ているとどうも罪悪感が湧いてきた。仮にも個人情報、しかもこれは成績にもかかわる事なのだ。
と、何度もスクロールしているとある生徒の遅刻理由に目が止まった。ほとんど、スルー仕かけた所を後戻りして確かめる。その欠席理由。
『登校時、麻布田市の銀行で化物の騒動に遭遇、それにより遅刻』
それに対し『報道されたニュースにより特例で正当な遅刻理由と認める』と記されている。その日付は間違いなく、一番初め、初めてレッドが出現した日。しかもこの生徒、基本真面目なのか、そのピンポイント以外、まったく遅刻も欠席も早退もない。
「先輩、これ見てください!」
直ぐに声を張り上げ、百々宮をデータに誘導する。
「なるほど、確かに面白い。しかし、よくまあこの生徒はたとえ事実であったとしてもこんな遅刻理由を提出し、剰え学校も実際に了承したものだ」
確かにその通りだ。他にもあの化物と遭遇した人物は存在するだろうが、大概の人はそんな理由など通じるはずも無いと適当な理由をこじつけたりするのが普通だろう。実際、今までの資料ではこんな遅刻理由など見た事なかった。
「素直な子なのか……アホな子なのか……それとも何か?」
「でも、所詮目撃情報ですよね。それだったら今までも何人か聞き込みしましたけど、大した成果は得られませんでしたよ」
この生徒だけじゃない。他にも見たと言う人はいた。だが、大半がやたらと興奮して化物は未知の生物だと語る人やら、恐怖におびえて話にならない人やら。または、関わりたくないと見なかったことにしている人。普通に話してくれる人でも、なんかすごい化物だ、何もわからないと言うのが、手に入った情報のすべてだった。
「それでいい。今はとにかく目撃情報を探るしか方法はない。将平はその生徒のデータをもう少しあさって頂戴。それから麻布田高校のデータの処理が終われば、彼に接触するわよ。そうだ、どうせ会うなら、もう一度、あの路地裏に行ってみようか。化物がいた可能性を見出してからまだ一度も行っていなかったからね」
麻布田高校のデータが終われば、ね。ハハッ、一体いつになる事やら。
苦笑いを浮かべながら、別途に分けた生徒の資料の名前『火野龍巳』を見た。




