教師の野望(7)
「本当に不平等か? 力がある物ぁ勝つ。もし馬鹿と天才が競い合って引き分けだった、それこそが平等だとでも? 馬鹿ぁ馬鹿。天才ぁ天才。その差が無くてぁそれこそ、天才にとって最悪の不平等だと思うがな」
「ふっ、言いようですね。でもわたしがやろうとしていることもまた、平等なのではないでしょうか。全てに等しく力を与える、その中でも力の優れた物は天才になる。結局は今と変わらない。ただレベルが上がるだけ。なら、この進化は間違いなく平等なのですよ」
「くだらん。平等などどでもいい。ただ俺ぁ仲間ば手に入れこの力で弱者ば消すだけだ!」
明らかに急に話をそらしたな。どうやら、曲げられない立派な信念は持っているが、こういう闘論は嫌いらしい。尤も、短気そうな彼としてみれば当然か。
この感じでは引き込む隙はいくらでもありそうだ。だが、自分の意思はそう簡単には曲げない頑固な一面もあると見た。簡単ではないのかもしれない。ならば、力づくに従わせてみるか? 軽く、足蹴り連打を食らわせてみれば果たしてどうなるだろうか。
いや、それはダメだ。力でねじ伏せる、それはすなわち弱者を従わせると言う事。平等全てに力を与える人がやる事では無い。例え、立場が弱い人だろうと、そして強い人だろうと、すべからくすべて平等に手を差し伸べることに意義がある。
立場が弱いからと言って誰にも相手にされず、腐っていく人はたくさん見てきた。仕事が出来ない奴はダメ、出来る人には最大限のサポートをする、そんな世界など最悪極まりない。出来ないには何かしらある。そんな人たちにも手を伸ばすために教師をやるのだ。
エボリューターと言う存在もしかり。全てに力を与えるべく、ここに自分がいる。だからこそ、目の前の彼にもそのことを敗北感以外の方法で教えたい。
弱い者は見放される。なら格差は広がるばかりじゃないか!? どうもこの世界の支配している資本主義という社会は片方の人間の欲望を叶えるには最高な社会だが、もう片方の人間からすれば闇でしかない。
無論、全ての人間が最高の幸せを手に出来るようなユートピアが実現できるとは思えない。社会はある程度の格差がなくては動かない、進化しない。社会主義国家は技術発展しにくいのと同じように。でも、だからといって立場の弱きものを見捨てるのは違う。
だからこそ、平等に手を差し伸べるのだ。全てに進化の価値が有る。
だが、それを黒い奴に説く事よりもさっきから聞こえる音が気になっていた。何か音がする方向に五感を働かせる。人の話し声。さらにこの匂い……一般人がそこの角まで来ているのか……よし、ならば。
「そこにいるのは誰です!?」
「なに!?」
急に荒らげた声に目の前の黒いアウディーターでさえ驚く。どうやら角にいた一般人も逃げたみたいだ。姿が見られたか……まあ仕方ない。だが、ここに長居するメリットはもうないみたいだ。人が集まっては困る。おまけに、出勤時間も迫ってきていると来た。
「誰かに聞かれていたのか?」
そう告げてくるアウディーター。それに対し、返事の代わりに無言で視線を送る。と、アウディーターも面倒だと思ったのかため息をつき、首を横に振った。
「まあ。この話はまた今度にしましょうか。お互い、手を取り合いたいものですね」
「互いに手取り合いたいのに、意見合わねえ。言っておくがいくら力見せつけようと俺の意見ぁ変わらない。対立するなら倒す」
「……そうですか」
いらだちからか地面を蹴るアウディーターを見て、少し心を強張らせた。奴の考えには理屈、理論ではない芯が通っている。しばらくは奴の心が動くこともないのかもしれない。今の自分の立場を改めて考え始めると、そのまま地面を蹴りあげ、この姿を解くことが出来る場所を探し始めた。
そして、今はスーツ姿でも無く、何の準備もしていないことに気づき、マンションへと戻る頃には残念ながら遅刻が確定していた。
「やれやれ。本当に生徒に対して示しがつきませんね」




