教師の野望(6)
だが、一向に見つからなかった。屋根から屋根へ。壁から壁へ。足音を殺しながら、夜空に紛れ跳躍し続けているが、黒いアウディーターは見つからない。まあ、そう簡単に見つかるわけはないと思っていたが、いざとなるとやっぱり色々思うところはある。
大体、黒いアウディーターの正体も知らないのだ。まさか、普段からアウディーターの姿でいる訳でも無いし、むしろ見つかる方が奇跡に近いのかもしれない。
だとすれば、騒ぎでも起こしておびき寄せるしかないのか……だがそうすれば、赤い奴も呼び出しかねない。そうなれば話し合いすら……。やはり、こちらから探すしかない。
気が付けば既に日が昇り始めていた。ある屋根に飛び乗った所で停止し、朝日を細めた目で見る。今日はもう一旦引くしかないだろう。
ちょうど目にした人気のなさそうな路地裏を見つけ降り立つ。エボリューター姿を解除しようと、体中の力を一気に抜くような意識を始めたのだが、後ろから物音がした。
それは何か袋ががさつく音。そして今、自分がキマイラの姿であることにしくじったと思った。こんな姿を一般人に見られれば騒がれる。だが、心配は無用だった。
「……キマイラ……」
後ろから聞こえてきた声は悲鳴では無く、そんな一言。それを聞いて、ゆっくりと声の方に顔を合わせた。そこにいたのは、全体的に黒を基調とした服、さらに右手に音の正体でもあるポテチの袋。建物の陰に隠れ顔はよく見えないが、とても一般人ほどのリアクションが取られるわけではなかった。
「……あなたはアウディーターですね? 黒い方ですか? それとも赤い方?」
男は顔を見せないようにしているのか俯いたまましばらくじっとしていた。だがやがて、男の体が輝きだす。その光の中から今度は闇があふれ始め、全体が闇に包まれる。そしてその中から現れたのはあの黒いアウディーターだった。
何と言う幸運! いや、これは神が味方している。人類は進化しろと言っているのだ。
「話があったので探していたのですよ。いやいや、よかったです」
最高の笑顔を作りながらアウディーターに近づいたつもりだったが、やはり向こうは戸惑っていた。両手に黒い影を纏わせ始めている。攻撃準備は万端って訳らしい。
「戦いませんよ。是非、お話ししましょう」
首を横に振ると両手を前に差し出す。すると奴も少しは警戒を緩めたのか、纏わせていた闇を少しずつ小さくしていく。それを確認したのち、手を下げた。
「先日、赤いアウディーターを助けましたよね。あなた方は組んだと言う事でしょうか?」
「いや、俺ぁそう願いたいが、向こうどうも納得してくれない。まあ、はっきり言って仲間になってほしいって願望あるかな」
以外にも素直に答えてくれた。この雰囲気と流れを崩さないように話を続ける。
「仲間、確かに彼と組むことは大きな飛躍になるでしょう。ですが、そうなるとわたしたちとはほぼ確実に敵同士になると思いませんか?」
「……むしろ、それぁ狙い……かもしれない」
……なるほど。やはり、共通の敵で組んでいる訳か……。
「でしたら、それは間違った選択だと思います。あなた方二人が手を組んだところで、わたしたちも二人。それに時が経てばさらに増えていきますよ。そう、あなた方に勝ち目など無いと思われますが? わたし一人にさえ、追いつくことが出来るでしょうか?」
黒いアウディーターからはまるで何が言いたいと訴える目線だけがこっちに向けられてくる。むしろそれにすぐ答えてやろうと一歩前に出た。
「もう一度いいます。我々と組みませんか? はっきり言って、赤いのとも意見は合わないのでしょう? わたしと組む方が確実に勝ちを得られますし、これからにも繋がる」
「いや、俺ぁおめを仲間にするか、消し去るかの二択しかない。奴と組んで強大な敵を叩く。全員俺の理想に共感してくれるならこれ以上に素晴らしい事はないがな」
「だから、言っているじゃないですか。共に組みましょうと。それはあなたにとっての仲間はないのですか? 」
「おめは仲間舐めすぎてる。仲間ってのぁそんなもんじゃねえ。共通の目標に向かって互いに手を取り合っていく仲だ。おめの言っているのぁただ人の支配だ!」
「そうですか。まるでわたしが悪人のような言い方ですね。言っておきますが、あなたこそ悪同然ですよ。力のない物は消す。そんな不平等、まさに悪と言う言葉がふさわしい」
つい昨日、龍巳とした正義と悪の話を思い出すが、心の奥へと押しやる。今はこいつを手の内に引き込むことが何よりも最優先だ。




