それぞれの戦い(2)
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立月市、火野家宅。風呂場にて。
火野龍巳は熱いシャワーを頭に掛けながら、今日の出来事を深く考えていた。
勿論、警察の事も気になっている。もしかすれば、百々宮と言う刑事はこの龍巳に何かしら近づき学校にまで情報をあさりに来たのかもしれない。だが、今の自分にはどうしようもない。
だからこそ、特に考えているのは担任、獅蛇とのやり取り。善、悪、正義、不正。実際、獅蛇の話を聞くまでこんな事、深く考えた事も無かった。ただ、テレビで活躍するヒーローばかり憧れる像として映し出し、それが正義、悪だと狭い視野でしか思っていなかった。
実際力を手に入れて、目の前で対峙したのは、悪なのか善なのかもわからない敵。そこにはテレビに映る明確な悪などない。いや、画面越しだから勝手に相手を悪と決めつけていただけなのかもしれない。しかも所詮、戦うのも画面の中のヒーロー。主人公が善で戦う敵が悪。それが画面の外では当たり前で、それが違うのかどうかも分からなかった。
だが、今は現実にいる。そうなれば否応なく違いを突きつけられるのだ。自ら戦う立場になる事で、本来画面の中でしか分からない本当の善悪の姿を見せつけられている。
誰が主人公なのかもわからない。誰が敵なのかもわからない。いや、まず、敵が悪とも限らないのだ。少なくとも、今、敵となるのは、デビルにキマイラ、そして警察に……探偵も危険視されている以上、敵と言える。だが、警察も探偵も悪ではないのは確かだ。
「確かに分かったよ。テレビと現実は違うって事ぐらい。なら、どうすればいい!?」
思わず風呂場の壁に拳を叩きつける。
「でも、確かにあの先生の言う通りじゃない? まずはもっとエボリューターの事を知るところから始めるべきじゃないの?」
「ああ、そうだろうけど……そうだろうけど!」
ドラゴンの言葉は正論だ。獅蛇の言葉も正論だ。だけれども、それを踏まえていざ実行するとなればどうすればいいのか分かった物じゃない。
叫んだ後、なにも出来ず沈黙。チャポンとドラゴンの手が湯船と接触する音が響く。
エボリューター……アウディートの力を使って新たな力を持った人間。キマイラの目的は人類の進化。ライオンの目的は自分、ドラゴンアウディーター。今の自分にできる精一杯の分析がこれだ。なら必然的に奴らは悪では無いと結論づけてしまう事になる。
「じゃあ、エボリューターは善なのかよ!」
シャワーを一旦止め、シャンプーで頭を洗い始める。頭を洗う音と混ざり、横からドラゴンの言葉が聞こえてくる。
「龍巳、まだ落ち着いてないんじゃない? エボリューターだって百パーセント善とは限らないって事じゃないの? 確かに、ほとんど奴らの情報はないけどさ。大体、ライオンの正体は立神の可能性があるんでしょ? じゃあ、彼自身は間違いなく大半が悪だろうし、悪に力を貸したキマイラも悪。ほらぁ、龍巳はこれでも彼らを善と言い切るの?」
ドラゴンの言葉をかみしめながら、頭をこするのを続ける。確かに、ドラゴンの言う通り、そこを見れば確かに悪そのものだ。むしろ、イライラするほどの悪党どもだ。でも、エボリューターとして立ち向かってくる彼らは、悪と言い切れない。
獅蛇の言った通りだ。人は善と悪の混合。エボリューターには確かに善と悪がある。善と悪が合わさっている。じゃあ、どうすればいい? そんな相手に正義として戦うと言うのは正しいのか? 正義として奴らを倒すことは正しいのか? 間違っているのか?
思考ばかりが頭を支配し、泡を洗い流そうとシャワーの取手を握りたいが、空ぶり。
「はいはい、シャワー流すよ~」
「あ、わりいな、ドラゴン」
ドラゴンが代わりに取手を回してくれたのだろう、お湯が頭に掛かり、泡を洗い落とし始める。だが、泡がいくら流れ落ちても頭のもやもやは何一つとして流れない。
「いやまて、エボリューターどもに善の部分あるのか?」
「ん? どういう事よ?」
「エボリューターは例え、悪とは言い切れないにしても、少なくとも善であるわけない」
「善でも悪でもない存在って事?」
「善か悪かって言えば悪って言いたい。でもいざ、どこが悪かと言えば分からない」
「それって、結局、相手を悪だと決めつけているだけじゃないの?」
「あ……そうか……ああ! 訳分からねえ!!」




