正義の矛盾(6)
途中からアウディーターの姿となり、空を滑空。もしかすれば立月市の空を飛びまわりながら奴らを探す必要があるかと思っていたが、そんな事は無かった。何しろ、怒涛の咆哮が街中に響き渡れば世話がないと言う物。さらにその声の方に近づいていけばどんどん逃げていく人々が視界に入り始め最早、ライオンなど探すまでもなく視界に移った。
が、辺りを見渡し空中停止、まだ周りに人がいる。このままでは他の人たちを巻き込みかねない。この姿でそんな事をしたところで誰も信じないだろうが、既に体が動いていた。
まず目に入った、逃げ遅れている人の前に行き、逃げ道を指示。
「そっちから逃げろ!」
だが、その人たちは龍巳の姿を見ると更に驚き、腰を抜かす人たちばかり。逃げ去っていく人もいるが動けなくなる人が大半だった。やはり、これではいくらやっても無駄か。
「いいから、逃げろ。そっちだぞ!」
ライオンの居る方向とは別の方向を指さし、また空へ飛んでいく。どうもこれでは逆効果。むしろ、こっちが襲っているように見えてしまうかも……。だが、それでもやめる訳にはいかない。街の人たちを戦いに巻き込むぐらいだったら、自分が化物扱いされる方がマシだ。そんな思いで他の逃げ遅れた人たちの前にも立つ。それを繰り返したがどれも同じ反応だった。いいから逃げろと念を押してまた飛び立つ。その繰り返し。
これで周りにいる人は全員消えたか、そう思って周りを見渡すとまだ一団体、逃げ遅れている者たちを見つけ、直ぐそっちに向かって飛び出す。
「おい、さっさと向こうに逃げ……警察……」
前に龍巳と、正しくはこの姿で話していた女刑事、とおまけの男刑事に機動隊。思わず動きを止めてしまうが、それに構わず女刑事が拳銃を誰よりも早く向けてくる。
「な、なにをするつもり!? さっきから他の人たちを……」
「気を付けろ、巻き込まれるな」
文句を言われる前にすぐ飛び去った。警察なら巻き込まれないように自分らで気を付けるだろう。それより、あの女刑事と対峙する暇があったらさっさとあの騒がしいライオンを倒さなければならない。人気が居なくなった今、普通なら耳を塞ぎたくなる咆哮を上げているライオンの前に降り立つ。すると、ライオンは思いのほか、直ぐに咆哮をやめた。
「結構、小賢しいことしてくれたな。さっさと現れ、殺されに来ればよかったのによ」
野獣の如く牙をむき出しにして無愛な言葉を並べるライオン。そこに共感できる言葉など無く、ただ、正義としての炎をたぎらせた。
「お前が何者で、何が目的だろうと、市民を脅かす奴はすべて倒す!」
力を集中。ドラゴンの力を感じ取ると一気に解放した。体中からあふれるように炎がともり、やがてそれは爪、一点に流れ込む。そして、炎で出来た巨大な爪を生み出した。
『前よりも随分力を大きく解放できるようになったね』
そんなドラゴンの声が聞こえてきたが、気に止めずライオンに向かって視線を飛ばし、両手にできた爪を空に斬撃。クロス字に切り込むとそれはまるで炎のカマイタチのようにX字の形を保ちながら、ライオンに向かって飛翔していく。
前回と違う攻撃に驚いたのか、避けず爪で受け止めようとする。しかし、巨大な炎のカマイタチを防ぎきれる訳無し。忽ち爪をすり抜け、ライオン本体に鋭い斬撃を走らせた。
よし、ヒット。そう思うと同時に炎が一気に広がっていきライオンを包み込んでいく。その中を迷いなく飛び込んだ。
奴は獣の皮膚、鱗の皮膚を持つこちらとでは炎の中ではさぞかし、不利だろう。炎の中からライオンがいるのであろう場所に向かって炎の爪を立て切りかかろうとした。
が、不意に炎の中から鋭い視線を感じた。首を横に動かすとそこを寸分の狂い無く銀色に煌めく爪が通り過ぎる。思わず、まさに紙一重に飛んできた爪の恐ろしさに声が漏れる。
『まだ来るよ!』
そうドラゴンの声が告げられ、意識を集中。腹辺りに空気の流れを感じ、手をそこに持って行くとほぼ同時、ライオンの蹴りがそこに見事入り込んだ。咄嗟のガード、衝撃を吸収しきれるはずも無く、ダメージが確実に蓄積する。
どうやら、炎の中だろうと、五感に関しては奴の方が上らしい。分が悪いか……。
そう確信すると受け止めていたライオンの足を振り払った。両腕を全力で周りに向かって振るうと、周りに立ち込めていた炎を一瞬の間に吹き飛ばす。と同時に空へと飛ぶ。
ライオンは空を飛べない。だとすればドラゴンの推進力を生かせばこちらに有利となるはず。幸い、ライオンは炎を消し去ると同時に消えたドラゴンの行方を追えていないらしい。ぐっと空を旋回しながら推進力を高め、ライオンの背中にロックオン。今度こそ、一撃を当てる。その意志の元、形成した炎の爪で一気に切りかかる。
あと、数メートル。いまだライオンはこちらの存在に気づいていない。当たる! そう確信したのだが、不意に視界の横に何かが微かに映る。そう感じた時には横腹に衝撃が走っていた。
前身運動に横から力を加えられてはバランスが保てるわけも無く、翼で必死に操作するも軌道はそれ、ライオンの横を無様に通り過ぎていく。だが、何とか態勢を立て直し、地面に向かって爪を突き立て突っ込んだ勢いを殺す。その残った勢いのまま再び空中に向かって翼を羽ばたかせると、何とか空中停止で臨戦態勢に戻せた。
遅れて何が起こったのか整理するようにライオンの方を見る。と、そこには驚きを隠しきれていないライオンの横に一体、別の化物が悠々と立っていた。ライオンのようなヤギのような顔、鋭い爪、ヤギのような足、うろこが纏う尻尾。まさに化物と言った姿。
「そうか……お前がキマイラエボリューターとかいう奴か」
するとキマイラはフッと笑いを込め、右手を前に差し出しながら腰を丁寧に折り曲げた。
「ええ、わたしがキマイラ。ご存知でなりより」
舐めきったこいつの態度が気に食わない。そんな意味を込めてにらみを利かせたのだが、キマイラは「しかし!」と言いながらこちらに向かって指を突き立てきた。
「ちょっと気に食わないですね。あなたはさっき、『市民を脅かすやつはすべて倒す』そう言いましたね。勘違いしないでください。彼の狙いはあなたです!」
突然のキマイラの発言に頭の中が「?」マークで埋め尽くされる。




