市民の探偵(2)
理戸市、志染探偵事務所。吹いた風が玄関に飾ってある観葉植物の葉を自然に揺らす。しかし、建物の中は当然その風など通らず、ただ、ドアだけを軽く叩いた。
そして、事務所所長、志染真は依頼人との対話席である向かい合ったソファには依頼人と向かい合って座っていた。助手の未来鈴がお茶の入っていた器二つを片付ける。それに対し依頼人は軽く会釈すると席を立ちあがった。
「今回は本当にありがとうございました」
「いえいえ、市民を脅かす謎を追いかける街探偵。わたしは市民の味方ですから、当然」
「まだ、例の迷子猫は見つかってませんけどね」
「ウグッ!?」
せっかくの決め台詞が眼鏡をかけた助手によってすべて台無しに。
「ゴホン!! また、何かあれば喜んで。どんな些細な事でも承ります」
「え、ええ……。では、失礼します」
手を振り笑顔で依頼人が去っていくのを見届ける。で、見えなくなると、事務所に戻り、
「こら、鈴! せっかく人が恰好つけている所に!」
「結果が伴わなければ恰好は付いて来ませんよ」
「おう、確かにそうだけど……、て、解決したじゃねえか!?」
「迷子猫はまだですけどね」
「……………………」
返す言葉が見つからず、黙って自分の椅子に深々と座ると一気に力を抜く。とにかく、一つ依頼を解決したことには変わりない。すべては積み重ね、地道な事が大切なのだ。
「鈴、お茶」
「さっき飲んだじゃないですか!? 後は自分で淹れてください!」
茶髪セミロングの女性、未来鈴は二十歳を越しているが随分と小柄な印象がある。鈴の探偵としてのセンスは皆無に近いが一応、探偵志染真の助手&見習い探偵として雇っている。いろいろ言いつつもお茶をもう一度淹れてくれる優しい一面も……。
「あれ、お茶は?」
「自分で淹れてくださいと言いました」
そんな事は無かった。むしろ、鈴はちゃっかり自分のお茶だけを用意すると既にパソコンの前に立って眼鏡を一回クイッと上に上げ、マウスを握り始めていた。
それを見てもう入れてくれることはないだろうと勘弁して自分が立ち上がる。どうせならお茶じゃなくコーヒーでも淹れようとインスタントコーヒーの瓶を手に取った時だった。
ドアの向こうで学生二人がうろうろしているのが目に入る。と言っても学生が依頼になど来る訳もないと瓶のふたを開けたのだが、学生は事務所のドアをゆっくり開けて来た。
恐る恐る入ってくる学生。
「あ~、そこの学生諸君? ここは探偵事務所だが?」
「知ってます」
じゃあ、何の用で来たのだろうか、と学生を見るとひとりの学生が猫を抱いていた。
「って、猫!?」
全て目覚めると学生をもう一度よく見る。その猫は間違いなく……、
「学生君、ご苦労だった。褒美を遣わそう」
「偉そうにするな!?」
恰好つけてみるがことごとく鈴に邪魔されてしまった。
「そういえば、確か君って前にお話したことありましたよね。猫見つかったんですか?」
鈴がポンと手を叩き学生に近寄っていく。
「ええ、たまたま見つけたんです」
「わざわざありがとうございます。でも、電話一本でこちらから伺いましたのに」
「まあ、俺たちも暇でしたから」
鈴が猫を受け取ると逃げないようにあらかじめ用意されていた籠に入れる。




