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24:渡り翼竜(ワイバーン)群は西方領の風物詩にて

短い春休みは少し寂しい

 帝国西方領と南方領の境目には大空大連山と呼ばれる山脈がある。

 そこには古くから温厚な翼竜ワイバーン…帝国では「紅玉翼竜」と呼ばれる

翼竜の群れが暮らしている。かつてはその温厚さに漬け込んで

ドブガエル野郎共が狩ったり捕らえて無理矢理使役したりという事もあったが、

先々代皇帝が彼らと「帝国ある限り、永久とこしえの同盟」を結んだので

彼らの安住は保障された。そのため、春になると婚礼のために

帝都の近くにある皇帝天領とされる地にある霊山に向かうのだが、

これが「紅竜飛翔霊山婚儀」という風物詩として西方では人気を博している。


「जल्दी करो! महिलाओं और बच्चों को पहले!(急げ! 女子供を先に!)」

「क्यों! क्यों वे यहाँ करने के लिए?!(何故だ! 何故奴らが此処まで?!)」

「मैं भी मेरे लिए नहीं पता है! लेकिन इसे दूर चलने से बात करेंगे!

(そんな事は知らん! 今は逃げるのが先だ!)」


 いつもならば昼下がりに彼らは霊山に出立するのだが、彼らが飛んでいるのは

未だ宵闇の時分である。


―ドゥノラナエッ! リズンツワツヤーセッ!

―ハスル! カツアウェフロンジメン!

―ドゥイト! ドゥイト!

―ファスツジェノサドメヌ!


 紅玉翼竜達は追われていた、彼らを追うのは良く似た体色の赤いデミドラゴン…

赤亜竜の群れである。赤亜竜は次々に火炎弾を口から連発していく。

狙うのは紅玉翼竜の立派な角を生やした雄…いや男達である。


「बर्बर! शब्द भी माध्यम से हमें मूर्ख नहीं है!(蛮族め! 話にならん!)」

「बड़ों! मैं कैसे करते हैं?!(長老! どうすれば?!)」

「『無駄に応戦はするな! 奴らは先行隊だ! 霊山に誘いこんで撃滅する!!

防御に徹しろ! 牽制ならばある程度は仕方ない! やれ!』」


 紅玉翼竜たちはシッカリした言語を持つため、魔術の行使も出来る。

その為、基本は防御障壁を張りつつ逃げながら煽りもかねて

時折牽制での反撃を食らわせる。


―オヴェェエァァァァァァァ…ッ!?

―ワツァプ?! ナメーィク! イティスウィク、ワイバン!

―ナメーィク! キリューユゥ!

―ドゥイト! ドゥイト!

―メルメール! メルハック! ハックハックハック!

―ジェノサドメヌ! メルハック! ジェノサドメヌ! メルハック!

プレガハランミガクィ! ヴェーハハハハ!

―ワイバンメルプレガハランミガクィ! ドゥイト! プレガハランミガクィ!

ヴェーハハハハ! ヴェーハハハハ! ヴェーハハハハ!


 一体は不意打ちで撃墜したが、それが余計に赤亜竜の癪に障ったようで

彼らは背中を赤く輝かせて火炎弾の猛攻を仕掛けてくる。しかも笑いながらだ。


「『クソ竜どもが!! 仲間が撃墜されたのに笑ってやがる!』」

「『その笑いも霊山で肉片に変えてやる!!』」

「『耐えよ! 霊山はもうすぐだ!! …ええい調子に乗るなぁ!!!』」


 もっとも大きな翼竜…おそらくは群れの長と思われる紅玉翼竜が

宙返りしつつ半端ではない規模の竜巻ブレスを赤亜竜たちに食らわせる。


―オヴェ!?

―ハックハックハック! ハックィンワイバン!

ーキリューユゥ! キリューユゥ! キリューユゥ!


 長の怒りの攻撃で何体かは撃墜したが、赤亜竜は追撃を止めるそぶりも無い。

それどころか猛攻がさらに激しくなる。


「『単細胞が! だがそれも今は重畳! さあお前達! 霊山は間近だ!』」

「『うおおおおおおおお! 飛ばせええええええええ!!』」

「『目一杯飛ばせえええええええええ!!!』」

「『この身に代えても神子様をお守りするのだぁあああああ!!』」


 攻防を繰り広げながら赤い亜竜と翼竜の群れは

帝国の霊山の方であろう夜闇へ消えていった。


> > >


 西方領首都シャーモルヴォディーシィ…または風谷と呼ばれる首都は

若干曇りがちではあったが晴れに恵まれた。


「本日はお日柄も良く…はないか」

「兄上。間違っては無いですよ」

「弐の兄さん。お兄様が良くないと言えば良くないのです」


 トマ達は朝からテュポエウフォン公爵邸の庭で

軽い鍛錬を始めようとしていた。今回の鍛錬はエンリルエリシュの自制心を

鍛えるのがメインである。なのでテュポエウフォン公爵と

ハルマローシュ伯も鍛錬に参加している。ちなみにライラは

エンリルエリシュの自制心鍛錬にはまだ邪魔なので例によって

「Geh schlafen!(眠れ!)」である。


「私の知らないうちにトマは…武術さえも…うぃっく…」

「父上…その、何か申し訳ありません(何か酒臭いな父上…?)」

「謝るでないトマよ。却って光大伯グァンダーブォの名誉が傷つく」

「あ…」

「良いんだよ我が小公子シャオコンツゥ…武に秀でることばかりが

貴族ではないのだ…うん…っくぇい…!」

「やれやれ…伯爵の…どれ、今朝は自分がお前を鍛えてやろう。

何、ほんの沢山痛いだけだ。自分の技を魂に叩き込んで鍛え直してやる」

「…ひゃっく…本気で、やって良いのですか西方公?」

「手を抜いてお前が自分に勝てると思っておるのか? 見くびられたものよ」

「…言質は…とりましたよ?」


 ハルマローシュ伯は目の焦点が合ってない。そしてトマは今まで

ハルマローシュ伯からは気になるほどの殺気を感じたことが無かったので

思わず身構えた。


「カーッカッカッカ…! 陛下を狙った不届き者相手にすら見せなかったな!

良かろう! 殺す気でかかって来いやぁ!」

シャアアアアアアアアッ!」


 テュポエウフォン公爵が言い終わる前に襲い掛かるハルマローシュ伯の様に

エアメルドゥクもエンリルエリシュも固まり、近くで眠たそうにしていた

スノリフレキも飛び起きて全身の毛を逆立てて思わず唸り声を上げる。


「父、上…?」

「おとーさま…?」

「…おぉ(エルムートゥスに匹敵するやもしれぬ魔力…!?

父上…本気を出せば威厳は守れるではないか!!)」


 ハルマローシュ伯は手に持った木刀を三本装備で木刀なのに金属音を

響かせながらテュポエウフォン公爵と激しく打ち合う。打ち合っている

範囲では先日のエルムートゥス戦を髣髴とさせる現象もちらほら。

しかしながらテュポエウフォン公爵は本気のハルマローシュ伯の猛攻を

多少顔を顰める程度の体で受け流してはカウンターを決めていく。


「キシャアアアアアアアアッ!!」

「カカカカカッ! 流石は金龍ジンロンの字を賜りし勇者! 二十年前の

第三十四次大王国攻略作戦を思い出すわ!! それでこそ血神王マグナの子!

いや、今の貴様はまがうことなきマグナの化身よ!」

「貴様ノ血ヲ啜ラセロォォオォォォオ! 肉ヲ喰ワセロォォオオォオ!!」


 何だか色々突っ込みたいことを口走っているテュポエウフォン公爵だが、

ここで突っ込んだら面倒くさそうな気がしたのでトマは黙る。


「…エンリルエリシュが強大強靭になれたのは血筋なのか…?」

「…にゃ? 何の話ですかお兄様?」

「父上…凄い…ボクにも同じ血が流れている…

それが今日ほど誇らしいなんて!! 頑張れ父上!」


 なまじ強靭でいて真の強者を知らぬ為か、今のハルマローシュ伯の強さに

興味すら沸かないようでトマの呟きに反応するエンリルエリシュ。

しかしエアメルドゥクはトマを見るような顔で

本気すぎて人格もおかしくなってるハルマローシュ伯を応援している。


「ハアアアアアアアアッ!」

「ぬっ!? 受け流しきれなんだ!!」


 ハルマローシュ伯の一撃がテュポエウフォン公爵を掠る。

掠っただけだが皮膚を切り裂いたようで、テュポエウフォン公爵の

傷口には血が滲み、ハルマローシュ伯の木刀にも付着した。


「ハァァァァ…ッハハハハハハハァ!!」


 間合いを取ったハルマローシュ伯は木刀についた僅かな血を

一舐めで綺麗に舐め取っていく。舐め取った途端、ハルマローシュ伯の

肉体が二回りも膨れ上がる。それは幻覚ではなかった。

膨れ上がった肉体は動きを損ねぬ程度に引き締まる。

それでも一回り程度には筋肉が隆々に膨れ上がったままだ。


「不覚…! 強化させてしまったか!」


「大丈夫なのですかテュポエウフォン先生!」


 嫌な予感がしたのでトマはテュポエウフォン公爵に声を掛ける。


「問題は無い!! 先代のオストルチ大王に比べれば三回は殺せるわ!」


「いや、殺すって!?」


「言葉のアヤだトマよ! だが…もしもの時は助太刀を頼む!」


「えッ!?」


 テュポエウフォン公爵の台詞にフラウロティ北方公爵同様の

不穏なものを感じたトマ。


「やはりか! 魔力そのものの偽装くらいしておけ義侠の魔術師!」


「ぐはっ!?」


 その一言でトマはテュポエウフォン公爵を危険人物認定した。

というかこの感じだと四方公爵と創輝帝も超大クロである可能性が高い。

帝国大図書院は百年弱先まで諦めるべきかと思索したくなったトマ。


「余所見か、貴方も余裕だな」

「ちぃッ!」


 先ほどとは打って変わって表面上は元のハルマローシュ伯である。

しかし魔力はエルムートゥスに匹敵いや互角級に増大しつつあり、

速さだけならエルムートゥスを超える百烈突きを繰り出しては

テュポエウフォン公爵に小さな傷を与えていく。何より目を疑うのは

テュポエウフォン公爵の傷口から滲み出た血が雫状になって

ハルマローシュ伯の口に吸い込まれていくのだ。


「…自在吸血ヴァンプオートマ…?!(血神王マグナ……よもやわしが知る

自在星海吸血種グラーティシュテラオケアノスラミアではあるまいな…!?)」


 もしもそれかそれに相当する存在であれば、

トマはそれを生かしておくわけにはいかなかった。

かつての前世でトマが全滅させるのに一、弐を争うほど手間取った生命体が

グラーティシュテラオケアノスラミアなのだ。アレは一体でも残せば

どこぞの惑星に流れてものの数年でその惑星を眷属と子供で満たし、

百年も放置すれば同族をも量産し、トマの心情に反して飽き足らず

醜悪憎悪無情極まりない滅びを銀河中に振りまくのだ。


「いや…(儂が知るものであればこの地は地獄絵図である…

嘗ての儂に賛同した同族喰いの吸血絶滅鬼ダイシーダンノスフェラトゥさえ居れば…!)」


 アレを見敵必殺するに特化した能力を持つ彼らを求めてしまうが

それは無理な話であるのは万も承知、何せ最後は彼らも前世でトマが

望むままに穏やかなる滅びを与えたのだ。この世界には居るはずも無い。


「…くぬぬ…!」

「お兄様? さっきからどうしたのです?」

「Geh schlafen!―「にゃ?」―Holen Sie schlafen tief!

(深き眠りを与えん!)―「ひにゃ…?」―

Geben Sie einen tiefen Schlaf als das Meer!

(汝に深淵より深き眠りを与えん!)」

「はれれ…?」


 トマの必殺導眠魔術もエンリルエリシュには普通なら永眠する威力、

普通なら永眠どころではすまない威力のモノをぶつけて漸く普通に眠った。


「エア」

「何ですか兄う―「Geh schlafen!」―え、ちょ兄うえ―

「Geh schlafen!」―さっきからな―「Geh schlafen!」―はえ…?

ふぁわ…?」


 試したことが無かったので一度で眠るのか不明だったと思えば予想通りで

ただ念のため重ねがけで試せばエアは三度で普通に眠った。


「スノリフレキ! 儂らの周囲に全力で認識阻害と結界を張れ!!」

「ヴォン! ウォォォフッ! ウォオオオオオオオオン!」


 心得たぜ我が明王! うおおおおおおおおおらぁ! とでも言っているだろう

スノリフレキはトマの注文どおりにトマ達の周囲に認識阻害と

結界を張り巡らせて伏せ、全力集中する。


「ッ!?」


 トマが気づいたとき、眼前に明らかに真紅の凶器に変異している

元は木刀だったであろうモノの刃が迫る。一瞬焦るも超魔力極強化した腕で

弾いて距離をとるトマ。


「あぁぁぁ! 父の威厳が砕けそうじゃないかぁ我小公子ウォーシャオコンツゥ!」

「何のつもりですか父上!!」

「父の威厳のため、そして娘を眠らせていかがわしい事をせんと企む…?

うむ、企んでしまった不肖の息子にお仕置き意外何があるのかね!?」

「ぐっ!? 血どころか酒にすら酔っておられるのですね父上!?」


 無論トマに凶器を振るったのはハルマローシュ伯の姿をした

超魔人吸血鬼(W酩酊)である。彼の白目の部分は真っ赤に染まり、

瞳は金色だ。そして現在進行形で血どころか

周囲の生命エネルギーすらをも吸い続けて

その肉体を強靭強大だがしなやかに引き締めて変異している。

その影響は着ている衣服にさえ及んでおり、背中には真っ赤な翼も生えていた。

内包魔力に至っては既にエルムートゥスも超えていた。


「ぐぬ…! 朝から呑んでおったがまぁ大丈夫かと思ったが…

自分も随分鈍ったようだ!」


 背後を見ることなく飛んできた、聊か血塗れな

テュポエウフォン公爵の攻撃を軽く弾くW酩酊中の超狂鬼ハルマローシュ伯。


「西方公閣下! 親子の邪魔とは無粋ですよ!? 少々お休みください!!」

「ぐおおおっ!?」


 幾千にも見える斬撃と衝撃波に変異した自らの血液の刃で

防戦一方のテュポエウフォン公爵を一瞥することなく

後ろ手だけで弾き飛ばしてしまうハルマローシュ伯。

テュポエウフォン公爵は結界にぶつかったため、結界認識阻害維持に

伏せているスノリフレキが「うをっ?! ちょ!?

普通に壊れそうなんだけど?!」と言っててもおかしくない悲鳴を上げた。


「うんんん…? トマ…凄い生命力だね? エアメルドゥクなら

干上がってしまう規模で一点集中して吸ってみてるのだが、いやはや…

どうしてお前は私の威厳をヒビだらけにしてしまうのだろうかなあ?」

「……くぬ…父上…そこまで思いつめておられたのですね…」

「べべべ別に?! しょこまでじゃにゃい、よッ!!

ってぃぇいうきゃ思いちゅめてにゃんかにゃいんだからにゃあッ!」

「ぬ!? ぐっ?!(冷静に見えて我を忘れている七面倒くさいというか

悪質極まりない酔い方をしておる!!)」


 超カミカミで言っていることとやっている事がチグハグである。

誰が得するのか可愛く動揺するハルマローシュ伯はトマの足が地面に

めり込んでいくのも構わず超剛猛烈絶壊連撃を叩き込む。

叩き込みつつもすやすや眠るエアメルドゥクとエンリルエリシュには一ミリも

余波が飛ばないようにする器用さが却って恐ろしい。魔術が効いてるとはいえ

一応普通に近い状態で寝ているのに起きる気配の無いこの兄妹も違う意味で

恐ろしさを感じてしまったトマ。


「この程度で…(この程度で恐怖だと!? この儂が?! 

…ぬううううううううあああああああ!!)」


 トマの頭の奥で何かが切れた音がした時、恐怖は

屈辱感からくる猛烈な憤怒に変わった。


「あああああああああッ!!(今でも星の一つは容易く砕ける自分が!

精々星を傷つける程度しかないたかが酒乱吸血鬼ごときに?!

恐怖だと? 新たな肉体に引きずられた愚かな今の儂も許せぬが!

たかが酒乱の武士もののふ如きが!! 儂を恐怖させるなど!)」

「ト」

「図に乗るな雑魚がァ!!」

「マごふぉっ?!」


 トマは、怒りに任せてハルマローシュ伯の変異が児戯に思えるほど

遥か涅槃寂静の深淵に鎮座する邪神が如き恐ろしい

常人なら直に見ただけで心を壊す異形に変異させた腕を以って、


 ハルマローシュ伯の胴体を、マニプーラ(臍)、その上にあるスールヤ、

チャンドラのチャクラ目掛け三力点突破絶滅撃トリーニチャクラガハータクで不気味なほど美しく精巧な風穴を空けてしまった。


 この世界でも体内の魔力は6大チャクラを基点に収束していることを

トマは確かめていたので、やってしまった。それでも吸血鬼にとって

弱点である心臓狙いのアナーハタ諸共粉砕を含めた神討ちの滅殺神技、

六大力点突破神滅撃シャットマハーチャクラディーサイダは自重したのだ。


「うごぁ…威厳どころか…腹までも…」

「………何と言えば良いのか…貴方が尚生きておられることが、

七割嬉しく三割悲しいです」

「ははは…意味がわからんぞ…我が小、公…子」


 驚嘆すべきはトマの開放すれば星をも砕きかねない収束攻撃で

チャクラもろともに風穴を開けられたかと思えば、それを本能的に

全ての力を回復に回して風穴に消えた服の部分以外をチャクラごと

完全に復元して、元のハルマローシュ伯に戻り気絶したことだ。


「……遥か彼方の因子の記憶から辿る…!」


 倒れたハルマローシュ伯の状態を調べつつ、

彼が無事であることを確認した後…遺伝子と魂の奥底に眠る彼の先祖たる

ハルマローシュの古き名も知らぬ一族から始祖とされる血神王マグナの記憶を

今出せる全力を以って読み取るトマ。


「………は…ハハハ…馬鹿が…滅びたくないならそう言え愚か者め…」


 読み取った記憶が何なのかは定かではないが、トマが先に述べた

自在星海吸血種では無いことは彼の微笑みながら零した

ここにはいない誰かへの叱責で判断できそうである。


「……若干七歳の子にしてはと思って常に探りを入れていたが…

あの魔力すら表面に過ぎなかったのだな、トマ殿」

「……テュポエウフォン公爵。ご無事でしたか」


 トマは無表情で近くに立っていたテュポエウフォン公爵を

何の感情も篭っていない眼で見る。ふと、足元にモサリと毛配を感じたので

そこを見れば、震えながらも腹を見せて体を預けているスノリフレキがいた。

まったく感情に反応は無いが、「我が明王、俺は万死を受け入れるぜ」と

眼で語っているであろうスノリフレキを軽くモフってやった。


「そう、怖い顔をするなトマ殿。自分の身の程は理解している」

「呼称を改めたのはそういうことですか」

「流石に様は陛下を初め、忠誠する者に捧げる言葉なのでな…すまぬ」

「気にしないでください。向けられる敵意も殺意も害意も熱意も僕には

基本空気みたいなものですから。いつだったかメイユィンシン殿下に

向けられた戦意すら毛ほども気にしなかったくらいです」

「学院での噂か…小耳には挟んでいる」


 その場に座ってテュポエウフォン公爵は傷の治療を始める。

彼の顔はスノリフレキ同様に達観していた。


「……」


 トマは両頬を引っぱたいた。


 スノリフレキは凍ったかのように固まり、テュポエウフォン公爵は

何故か眼を閉じた。


「……ふふっ…僕としたことが…だらしのない」


 トマの顔には楽の感情が小さく波打っていた。


 その様に思わず胸を撫で下ろすテュポエウフォン公爵。

スノリフレキは伏せの姿勢になって尻尾をゆっくり振って

トマを喜色の眼で見つめている。


「つかぬ事を聞くがトマ殿」

「止めてください先生。トマか伯庶子のとでも呼んでくださいよ」

「私の時だ…最低限の敬意は示させてくれ」

「はぁ…まぁそれなら先生のお好きにどうぞ」

「この場で先生というのは勘弁してくれ、引退後の夢を諦めたくなる」

「…では、何とお呼びすれば?」

「シャクモク無いしヤークモで良い」

「ではヤークモ殿。つかぬ事とは?」


 トマの返しに少しだけ間を置くテュポエウフォン改めヤークモ公爵。


「おぬしは…帝国に」

「帝国と帝国民は総合的には唾棄したいほど不愉快な存在と思っておりますが、

消し炭にしたいというほどではないです。程度も鬱陶しい羽虫程には、です。

陛下や殿下やヤークモ殿などの縁者には今のところ概ね良い印象ですよ。

一番好感を感じているのはハノーク殿ですね。彼には是非とも

次のセム東方公爵となっていただきたいくらいです。

百七十年後くらいまでは不可能でしょうけども」

「そうか…」


 ヤークモ公爵は帝国では珍しい葉巻に火を点ける。

折角なのでトマもスノリフレキを少し離して座り、煙管に火を点けて相伴する。


「ふぅ~~~…愚問は承知なのだが…帝国に害意を向けないと

約束してくれるだろうか?」

「創輝帝の治世が現状維持ないし向上するのであれば約束できますよ」


 煙管を吸っているが全く煙が吐き出されないトマ。

肺で紫煙が浄化されてしまうほどにはまだ何かを内に含んでいるようだ。


「そうか…ならば、その約束に対して応えられる範囲で応えたいのだが」

「ふぅ~…それは…ではお聞きします。僕に帝国大図書院への出入り許可を」


 へ? と間の抜けた顔を鼻と何故か耳から紫煙を出しながらするヤークモ公爵に

不覚にも笑ってしまったトマ。


「ブふっ…!? すみませんヤークモ殿」

「いや、良い…あまりにも容易いことだったのでつい…」

「そこまでなのですか!?」


 ずずいっと距離を詰めるトマ。思わず座ったまま飛びのくヤークモ公爵。


「そこまでも何も…ハルマローシュ伯に頼めば二つ返事で手続きしただろうに」

「なん…だと…?」


 トマもだらしなく鼻から紫煙を出しながら絶句する。

何しろ大図書院の話をそれとなく聞いたときはハルマローシュ伯の

血と汗と涙と愛と義理マシマシに人情ビタビタなサクセスストーリーを

無心で外部記憶に放り込んでしまうほどに聞かされたのだ。

その為合法的に入り込むには相当な苦労…


「…苦労を結局は無駄ムダむだMUDA霧堕に力ずくで…僕は…やはり…」


 自分が脳筋であると改めてオラオラオラと思い知らされたトマは鼻から煙管を

流石のヤークモ公爵もドン引きするレベルで吸引して、異界の漆黒怪獣竜神が如く

紫煙を天に向けて勢いよく吐くトマ。


「いや、た、容易いと言っても単なる伯爵位では出入り自由など手続きすら

出来んと言っておくぞ? おぬしの父はそれだけ努力しているのだからな?

実情は知らぬが…おぬしがしてきた努力もだな…?!」


 無駄な努力ではないと誰が得するのか

可愛く狼狽オロオロしつつ宥めてくるヤークモ公爵。


「……すぅー………………ふぅ~…」


 今度はほぼ深呼吸のために煙管を普通に喫したトマ。

どうやったのか知らないが口から出る紫煙は綺麗な輪を幾重にも描いていた。


「…まぁ、今やそれも終わりよければ全て良しということで」

「…早速使いを出そう。善は急げだ」


 こうしてトマは十四年来の大本命の目的をほぼ達成した。

後は正式な許可を貰えれば物の数ヶ月で帝国の智書を読み尽くせるだろう。

読み終えたその時は…その時考えることにしたトマ。


> > >


 一夜明けて、トマは柄にも無く上機嫌である。

 昨日のことはトマとヤークモ公爵Withスノリフレキ以外は

真実を知るものは居ないということもあって、余計に上機嫌である。


 上機嫌すぎて寝るのも忘れていたのである。


 上機嫌すぎて顔が張り付いた笑顔である。


 上機嫌すぎて朝の鍛錬もエンリルエリシュが泣いてしまうほど

何をしようがされようが張り付いた笑顔である。


 上機嫌すぎてリォリィが強烈過ぎて逆に狂いかねない気付け薬を煎じたが、

張り付いた笑顔のままほぼ水なしで飲み下して清々しいほど変化なしである。

何気なくエルマヴィに食後の茶に誘われ、いつもなら立場もあるので

数回誘われるまでは断っていたのだが今回は一回で受けた。

もちろん張り付いた笑顔のままである。何も言わずに受け入れているのは

ライラくらいだが何故か気配を常に消しているが勿論トマは感知している…

例の如く張り付いた笑顔のままで。


「トマ氏! クッソ気持ち悪いからマジで!!」

「ハハハエルマヴィ普段から僕に対して不気味だと思ってただろう何を今更」

「普段からじゃねーよ!? 時たまだから?! 普段からじゃねーから!!?」

「なら良いじゃないかハハハハハハハ・ハ・ハ・ハ・ハ…!

ウゲエッホ!? ゴホァ!? オゴアァハ!?」


 盛大に咳き込み、ハッとして自分の頬を引っ叩くトマ。


「ト、トマ氏? おい今度は何だってんだ!?」


 ちなみにエルマヴィが流暢に帝国の言語を喋れるようになったのは

昨日の上機嫌が過ぎてエルマヴィが悪夢にうなされるっていうか

トマの魔術で半ば無理矢理だが発狂しない程度に帝国諸語その他を

神睡眠学習させた賜物である。なのでエルマヴィは帝国のドブガエル相手からは

巧みにボッタくれるほどに帝国諸語がペラペラのペラリンガルいや

既にトマに次ぐレベルの超多言語話者スーパーポリグロッターである。


「………リォリィが煎じてくれた特製気付け薬が今頃効いたようだ」

「お、おう…そりゃ何より…エニちゃんも泣いて喜ぶと思うぜ」

「よ…良かった…トマ様が…戻ってきた!」

「どをうぁ!? 居たのかよライラちゃん!?」


 ちなみにエルマヴィ。何がどうしてそうなのかは不明だが、

話せるようになってからはエンリルエリシュと凄く仲が良くなった。

ほんの少しだけ心の深淵の奥底がチリチリ燻ったが、冷静になってみれば

これで暴走しそうになるエンリルエリシュを止められる

高い可能性を持った人物が得られたと素直に喜べた。


「また泣かれるのは面倒だな」

「嬉し泣きは許してやれよお兄様」

「エニの真似をするな肉片にするぞ」

「…ちょ、トマ氏…感情を消すなよさっきより怖えよ」

「…む、何故僕がそんな…いや、どうでもいいかそんな事はもう」


 エルマヴィは中々に適応力があるようで、砂糖なしの日輪式(?)な

お茶にも渋面を作ることなく「お、旨みがある…当たりか?」などと

言えるまでになっていた。


「しかし央国語だと僕になっちゃうんだなトマ氏? 語調も比較的柔らかいし」

全央京チャンヤンキン語や広竜央カンロンヤン語に

海龍央ハイロンヤン語ならお馴染みの儂になるんだけどね。

耳障りが良いからかもしれない」

「トマ様ならば何を話しても素敵なお声ですよ?」


 まだ眼に涙を浮かべて嬉しそうにしているライラを

眉根を寄せつつもとりあえず撫でておくトマ。


「んじゃー日輪語ジールンユーだとどうなるんだろうな?」

「さあな。ちゃんとした発音での日輪語は知らないからな」

「んでもいつだったかエルムさんとイタタギマスした時は

割と綺麗だった気がするんだが?」

「イタタギマスじゃなくて"いただきます"だな」

「マジで? おっかしいなー…日輪語は母音五つで四声とか無いから

結構簡単に出来るはずなんだけどなぁ…」

「央国語と日輪語はそもそも文法が違うし共通で使ってる完字も

帝国は一字一音だが日輪語は一字多音だし同音異義語が半端じゃないからな。

話し言葉は兎も角、日輪語の書き言葉はかなり大変だぞ?」

「摩訶不思議だな日輪語…まぁそれも何か好きになれそうだけどよ」


 お茶を啜りながらエルマヴィはメモ用の巻物と筆記具を出して

日輪語と央国語の単語や慣用句なんかを書き比べている。


「……すごいな、書き言葉…対訳は神に呪われるレベルで間違ってるが

筆跡が半端なく綺麗じゃないか」

「一番大事なところがガッデムレベルかよ奴畜生エラーカレッツィン!」

「そんな言葉をおいそれと使うなマヴィ」

「大王国じゃないからセーフですー」


「…ッ!? 兄上!! 兄上が普通に…!! うおおおお兄上えええええ!!」


 ふと食堂に戻ってきたエアメルドゥクはトマの様子を察知し、

ほんのり涙目で、だがしかし本当に正気に戻っているのか確かめるべく

暑(苦し)い抱擁をせんと飛び掛ってくる。ちなみにさっきまでは

一切無抵抗で抱きしめられるがままに張り付いた笑顔で

ゆっくりと首を動かしてエアメルドゥクを見た以外無反応だった。


「やめろ気色悪い」

「んがぁ?!」


 飛び掛らんとしたエアメルドゥクを鼻つまみしてポイするトマ。


「は、鼻が…良かった、いつもの兄上だ! あ、ボクもご相伴良いですか?」

「好きにしろ」

「はい、好きにします! ふふふ…」


 今のエアメルドゥクの満点の笑顔は並みの女子なら

思わず「お持ち帰りィイヒャッハー!」したくなるだろうか。


「良かったなーエア坊ちゃん」

「坊ちゃんは止めてくださいエルマヴィ。竜剣で天山地海に斬断しますよ?」


 今のエアメルドゥクの満点の笑顔で四つ裂き発言はその手の女子なら

「どうぞ四つ裂きといわず挽肉にしてお召し上がりください!」だろうか?

 まぁエンリルエリシュと仲が良くなれた性分なのか、何だかんだで

彼女とは決定的に対と思われる属性持ちである

エアメルドゥクはエルマヴィと絶妙に波長が合うようで合わない。

しかもエルマヴィはエルマヴィで嫌われているとはこれっぽっちも

思っちゃいないので、いつか凄惨な結末を迎えるかもしれないと

少しだけトマは心配している。


「エア様…流石にそれはあんまりでは…?」

「ハハハ。嫌だなぁライラ。冗談だから、ね?」

「…!? そ、そうですよね…」


 ちなみにライラとエアメルドゥクは波長の相対に

クッキリとメリハリがある仲だ。なので意気投合するときは

百倍以上に膨れ上がって果てしなく鬱陶しいし、その逆に

意見対立するときは世界が明確に次元すら断絶して七面倒くさいと思うほどだ。


「そういえば兄上。そろそろ紅竜飛翔霊山婚儀が始まるそうですよ?」

「西方領の春の風物詩ですねエア様」

「そう! 心を通わせた紅玉翼竜たちが仲睦まじく霊山へ親愛を深める

家族になるための旅行だよ! 良いよね、そういうの!」

「ええ!」


 そら来た。この暑(苦し)いW視線が百烈光線である。


「兄上!」「トマ様!」

「「楽しみですね!!」」


 トマは軽く微笑みだけを返して、目線を湯飲みで隠す。

空になった湯飲みにサッとエルマヴィは程よい温度の茶を注いでやる。


「悪いな」

「良いって事よ。これも仕事のうちだからな?」

「そういえば日当がまだだったな」

「おう、んじゃ30帝元な」

「また値下げしたのか?」

「帝国でガツンと稼がせてもらってるからな、もう定期契約更新だろこんなの」

「ならばまとめた方が良くないか?」

「それも悪くねえけど、俺さ、シャインユキッドさんとも個人的に商談あるから

あんたを山車だしにさせてもらいたいのよ? 今は兎も角、

帝都に帰ったら次何時会えるかわからんくなるし?」

「そうだな。一商人が頻繁に理由なしに通うのはクソどもが

余計に下種の勘繰りをしてくるだろうしな」

「そういうわけよ」

「難儀だな」

「そりゃーお互い様だろ」


 鼻で蔑むように笑いあうトマとエルマヴィ。何気にW氷点下視線が刺さるが

前世の最期は零下234度の世界に居たのでたかが氷点下で

どうにかなるトマではない。それが物理的な氷点下で無くともだ。

例え異界の八寒地獄にグレードアップしようとも

「はいはいマカハドマ~★ マカハドマ~★ 大紅蓮~大紅蓮~

寒いよ~☆ 寒いよ~☆ 死んじゃ魚っ★ おっおっおっ☆」である。


「…いかんな…まだ喜び病の後遺症がある気がする…」

「あの張り付いた笑顔状態を命名しちゃったのかよトマ氏…」


 額を押さえるトマに刺さるW視線が光った気がする。


「おっと、そろそろ頃合じゃないですかね兄上?」

「流石ですねエア様。体内時計は抜群の精度です」

「褒めたって今日はお菓子くらいしかあげないよ?」

「というわけですのでトマ様」「兄上」


「「一 緒 に 紅竜飛翔霊山婚儀を見に行きましょう?」」

「………」


 額を押さえるトマの眉間の皺が増える。


「……しょーがねーなートマs」


 エルマヴィは口を閉じた。閉じないと本当に死ぬ気がしたのだ。

実際文句の付け所が無い満点の笑みを浮かべるエアメルドゥクと

ライラは、各々竜剣術発動の構えに懐の暗器に手を掛けているのだ。


「俺、オ茶トカ片付ケトクカラ先行ケヨ」

「………あぁ、後でなマヴィ」


 トマの両脇は固められた。


「あれ…まだ皆残って…にゃ…? はにゃ!? はにゃあああああ!?

おおおおお兄様おかえりなさいですうううううううううううう!!!」


 多分おやつでも失敬しようとしたのであろうエンリルエリシュが現出し、

トマ以外はぶつかられたら余波でも死ぬ体当たりをしてくる。


「「…チィッ!(肝心なところでェッ!!)」」


 不穏な気配の舌打ち二つが重なって聞こえ、トマの両脇が緩み、

みぞおちに衝撃が走った。勿論トマには他愛ないものだ。

今回に限っては心地よさすら感じてしまう。


「うん………ッ? ああ? ただいま?」

「お兄様お兄様お兄様ぁ!! いつもの"くーるあんどどらい"なお兄様ぁ!!

はぁぁぁいつものお兄様の匂いですううう!!」

「おいおい…落ち着けよエニちゃん」

「マヴィ…? …っと、そうなのです。おやつは晩御飯の後でもいいのです。

というわけでお兄様! 日が暮れるまでエニとお外へ遊びに行きましょう?

あ、マヴィも来るですか?」

「え、いや俺は片付けて」

「そんなものはリォリィ達に任せればよいのです!

さぁ、三人でお外へ行きましょう?」


 ここからエンリルエリシュの発言が聞き捨てならなかった不穏同士二人が

十分ほど不毛な舌戦をエンリルエリシュと繰り広げるので割愛する。


> > >


 風谷の広場でトマ達は紅玉翼竜群の婚前飛行を今か今かと待っていた。

現在トマの両脇は義妹と奴隷娘に固められ、やや背面に若干不穏を感じるが

信頼は出来る義弟が控えている。ちなみに懇意にしているというか

半ば専属と化している中身は老練な商人は一歩下がってトマ達を見守っていた。

ちなみにスノリフレキは留守番である。マーナガルムは翼竜と亜竜の

天敵なので万が一にも怯えさせるわけにはいかないからだ。

鳴く事すら禁じられているが「俺も行きたいよ我が明王ぉぉぉ!!」と

言っている様な表情を浮かべていると思われる。


「はいはい騒ぐのも程ほどにね!」

「紅玉翼竜さん達は人の言葉も分かるから変な言葉は厳禁だよ!!」

「さぁさぁお煎餅に焦糖ジォタン(キャラメル)買うなら今のうちだよ~」

「麦茶~麦茶はいらんかね~? 麦酒は酔っ払ってダメだから麦茶だよ~。

冷やしも熱いのもぬるいのもあるよ~?」


 エルマヴィは「隙間商業か…」とか言いつつこの時限定の行商を見ている。


「お前達は何か買いたいものはあるか? 買って来るぞ?」

「大丈夫です」


 ギュギギギギギリと片脇が締まる。


「不要ですトマ様」


 クキキキキキキリともう片脇が締まり、爪も立つ。


「さっきまでお茶とお菓子飲み食いしてるじゃないですか兄上」


 グワシガシリと両肩を掴まれる。


「そうだったな…(ぬ、通常の力では抜けられん…!?)」

「お前ら、お手洗いとか大丈夫なん?」

「「「大丈夫です」から」だから」

「お、おう…」

「(これだ!!)…僕は大丈夫じゃないんだが」


 トマの体は動かない、通常の力では動かせない。


「う…ぬ…?!」

「兄上、我慢してください。大丈夫ですよ…すぐ、終わりますから」

「ぐわーッ!? 耳元で喋るな!!(この儂がまたしても?!

たかが小僧に…いや、待て…これは本当に恐怖なのか!?

何だ…!? 今は菊●に極限の力を込めたほうが良い気がするぅ?!)」

「弐の兄さん。ちょっと離れてください。何か暑苦しいです」

「何を言っているんだエニ? それを言うならお前のほうが…!」

「………うふふ…至福です…」


 ふわりと涼しい風が頬を撫でるので、ふと風の方に視線を送れば

エルマヴィが精霊に頼んでそよ風を送ってくれたようだ。

何故かエルマヴィは大王国式の敬礼をする。


「マヴィ。流石なのです。まぁそんなわけなので弐の兄さん。

大 き く 一歩だけ離れるです。お兄様に風が淀みなく

当たらないのは宜しくないですからね?」

「…仕方ないな。兄上に無理強いは程ほどにするよ。

だが、一つ貸しだぞエニ」

「じゃあそれは夜ご飯に返すですよ」

「こらエニ! そこは…」

「エア様、そろそろ翼竜群が通る時間だそうです」

「……くっ…」


―来たぞ! 皆! 静かに! 

―手を振ったり笑顔を向けるのは良いぞ!! 簡単な挨拶も可だ!!!

―うるせぇなもうお前も黙れよ!!


「む…」


 トマは超感知能力を発動する。あまり感じたことのない魔力の波長を

追って来ると言われた方向へ意識を向ける。すると確かに

大空大連山と呼ばれた翼竜たちの普段のねぐらから、

まぁ割と悪くない赤い体色をした…


「ん…? エア、紅玉翼竜は一対の大きな翼と名通りに紅玉ルビー

輝いているように見える翼竜なんだよな?」

「はい。それはもう陽光に煌く様は聖地もかくやと言うほどに幻想的な…」

「…では人型種族に近い腕も持っていて単純に赤い体色をしたモノは何だ?」

「それは…確か…」


―んんん!? おい待てアレは…!

―違う!! あれは紅玉翼竜じゃない!!


「あれは…」


 肉眼でも確認できる距離に見えた紅玉翼竜(?)の群はこちらへ飛んでくる。

その様相は整然さの欠片もなく各々が飛びたいように飛んでいる風だ。

だから時々ぶつかりそうになったりで喧々諤々している。


「はー…紅玉っていうより赤熱溶岩色だなありゃ」

「えっ!?」

「アレらが紅玉翼竜なのか?」

「違いますトマ様! 紅玉翼竜はちゃんと美しい編隊飛行を…」


―皆逃げろぉ!!! アレは紅玉翼竜じゃない!! アレは…!!!


 誰かの叫びは、先頭を飛んでいた赤熱溶岩色の竜が口から発射した

火炎弾が建物に着弾した爆音と剛炎の音でかき消された。


25:に続く

どうもNAGAIですた

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