表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/59

25:赤亜竜と紅玉翼竜

 赤き竜達は次から次へと火炎弾を吐き出して風谷フェングウの街を焼いていく。


―逃げろっ!!

―憲兵はまだかっ?!

―魔術障壁が使えるものはいるか!?


 逃げ惑う人々。憲兵たちは市民の避難や防御障壁の展開を急ぐ。


「オイオイどうなってんだよぉ!? これが風物詩なのか!?」

「そんなわけないだろう…」


 魔物は散々見慣れたエルマヴィも流石にドラゴンの群れには驚きを隠せず、

口から皮肉を飛ばす。対してトマは逆に冷静すぎる。気づけば両脇の

拘束も解かれていた、無理もないだろう。両隣のエンリルエリシュとライラは

呆然としていたからだ。


―イキャンノウェイ! イキャンノウェイ!


 紅玉翼竜と思われた竜の群れは別の竜らしく、何かを叫びながら

八つ当たりのような体で火炎弾を街に吐き出していく。


―ワイ!? ワイアノッツァメンベルスカミンバック?!

―フューカイ! アナイソーレニムゲ!

―バーニット! バーニット! ドゥイトバーニット!


 赤い竜達は集中的に狙っているわけではない、言ってみれば素行の悪い

不良の類が道端に唾や痰を吐くような感覚で街に火炎弾を落とし、

東北方面…帝都の方へ飛び去ろうとしているようだ。


「おいトマ氏!? 急いで避難を!!」

「そうだな…おっと」


 トマは頭上に落ちてきそうだった火炎弾を条件反射で弾き返す。

弾き返された火炎弾は一体の赤い竜に命中した。


「オヴェァ!?」


「うん…? 火炎耐性はそれほどじゃないのか?」


 火炎弾を跳ね返されてぶち当てられた赤い竜の一体が

こちらへ降り立ってきた。


「ハックハックハック!! ニムゲ! ナメーィク! キリューユ!」

「やかましいな」


 赤い竜はトマに特大の火炎弾を撃とうとして、自分の視線が地面に落ちた。

何故と思う間もなく、赤い竜の意識はグチャリと鈍い音とともに闇に落ちた。


「あー…驚かねぇ…俺はもう驚かねぇ…!」


 トマに明確な殺意を向けた赤い竜は、火炎弾を食らわせようとして

頭からトマに地面に叩き付けられ、次の一撃で潰されたのだ。

それがほんの数秒の出来事である。エルマヴィは必死に目の前の現実を

受け入れようとしていた。


―ワツ?!

―ワツデファトニムゲ?!


 たった二撃で仕留められた仲間の様子を見た他の赤い竜達の何体かが

次々と降り立ってくる。


「いかんな。つい余計なことをやってしまった…」


「ユオ! ユオキリニグバイデン!?」

「イティズチキーファニムゲハビツ!」

「何を言っているのかさっぱりわからん」


 怒り狂う赤い竜はトマに襲いかかろうとしたが、


「このッ!!」

「ボゲァァ!?」


 一体はエアメルドゥクの紫電が剣状に固まった竜剣の一撃で首を飛ばされ、


「よくも!!」


 もう一体は飛びついたライラの暗器の一撃で目から脳髄を貫通されて斃され、


「折角の雰囲気が何もかも台無しなのですッ!!」


 最後の数体はエンリルエリシュのワンパンで上半身を吹き飛ばされた。


「うをええええ!?」

「ふむ…こいつらはドラゴンと言っても亜竜だったようだな」


 流石にこれは動揺せざるを得ないエルマヴィを尻目に

エアメルドゥクにギロチンされた赤亜竜の頭部から記憶を読み取ったトマが

至極単調に呟く。


「他の奴らは…ふむ、ここを攻撃することが主目的では無いようだな」

「兄上…あのクs…赤トカゲどもは帝都方面に向かうみたいですね」

「そのようだ」

「トマ様、追いましょうそして皆殺しにしましょう」

「エニも一緒に行くですよ」

「え、ちょ、え!?」

「マヴィ。西方公の所へ行ってろ。僕らの事なら西方公もわかってるから」

「いや、あのだからs」


 トマは口笛を吹く。するとものの数秒でスノリフレキが参上する。


「うひぇ!?」

「ウォフ!」


 出番か? 我が明王!? とかそんな感じのワクワクしてるっぽい

マーナガルムのスノリフレキの頭を一撫でし、エンリルエリシュと

エアメルドゥクにライラを背中に乗せるトマ。


「では行くぞ、帝都方面となれば流石に無視もできん」


 トマは空を、エアメルドゥク達を乗せたスノリフレキは建物の屋根を

半端ない速度で飛び去っていった他の赤亜竜達を追っていった。


「……どうしろってんだ」


 当然だが街はかなりの惨状だ。そんな中にポツンと残されれば

エルマヴィみたいな言葉は出てしまうのも仕方ない。

そして何だかんだでハッキリとトマ達の実力を知らないハルマローシュ伯に

何て言えばいいのか困り果てるのはどうしようもない。


> > >


 風谷から大分離れ、本来なら馬車で一日掛かる距離まで

赤亜竜の群れが飛んでいるのを発見したトマは、とりあえず光の第一層魔術

「光雨撃」で漏れなく撃墜することにした。

赤亜竜達は何が起きたかも分からないまま光の槍の雨に打ち落とされていく。

仮にも討伐に帝国軍一個中隊が必要とされる亜竜がゴミのように

次々と斃されていく様は、この場に帝国魔術師がいたらその状況を

第一層魔術で引き起こしたのだと知ったら現実逃避したくなるだろうが

この場にはトマ以外突っ込む者は誰もいない。


「やはり陸路では時間が掛かるか」


 いかにマーナガルムといえども空を飛べるわけではないので

トマに追いつくまではあと15分は掛かるだろう。そういうことなので

トマは赤亜竜の遺体から記憶を読めるだけ読んでいく事にした。


「しかしこいつらの喋る言葉は如何せん原始的…

というか卑罵語ばかり豊富だな」


 どうも赤亜竜の言語は汚い言葉だらけらしく、記憶を読む度に

トマは眉根を寄せてばかりだった。


「ふむ……成程…今のこいつ等の群れのボスが代替わりしたのか」


 本来赤亜竜は帝国南方領の未開発地域の山を根城にしているらしく、

彼らがここまでやって来たのは紅玉翼竜を追ってのことらしい、

らしいというのも汚い言葉だらけでそれがほぼ慣用句扱いなので

多くの物事が何を指すのかイマイチわからないせいだ。


サンギャボンゲ王爵領の諺並みにひどいな…」


 とりあえずトマは記憶を読み終わった赤亜竜の遺体を

次々と亜空間に収納していった。腐ってもドラゴンである

後でエルマヴィに見せてどれくらいで捌けるのか見積もらせるつもりだ。


「……紅玉翼竜達はもう霊山まで逃げ延びた…と思われるが…」


 いかんせん赤亜竜の言葉は下品な表現だらけで近い語族がトマの

知っている言語には無いし、こいつらの言葉を

ちゃんと覚えるのも何だか嫌なので解読には苦労が絶えない。


「そろそろエア達も追いつくはずなんだが…」


 自分の体内時計を信じるならまだあと五分はある。とりあえずトマは

感知能力を発動させてエア達の魔力反応が引っかかるまで

進んでやりたくはないが赤亜竜からさらなる手がかりを読み取ろうとしていたが


「ん?」


 霊山があるとされる方向から数体の大きな魔力反応を感じたので

そちらを確認すると、文字通り紅玉のような体色の翼竜数体が

こちらへと飛んでくるのが確認できた。


「ほう…確かに美しい…」


 翼竜たちはトマのいる地点を何度か旋回して降り立ってきた。


「…ニンゲン? イヤ、ワンメイの子。コレはオ前がヤッタノカ?」

「む…紅玉翼竜は独自の言語を持っていると聞いたが、央国語も解するのか」

「オ前達の"ファンディー"と呼バレル代々の長トノ盟約がアル。

言葉が通ジナイでは余リにも御粗末だからナ。

マァ私ハ余リ上手な方では無イガ」

「いや、翼竜の喉を考えればそれでも十分だ」

「ヤハリ礼儀を知ル者とは素敵ダナ。ソコニ転ガル糞ドモとは雲泥の差ダ」

「然しそれでは不便だろう。少し触れても良いか?」

「ム…」

「安心してくれ、少しお前達の言葉を知りたいのだ」

「ソンナ能力ガ有ルのカ……………………………分カッタ。

糞ドモを始末シテくれたオ前を信ジヨウ」


 トマは頭を近づけてきた翼竜に触れる。


「यह करना होगा? चूंकि अभिव्यक्ति प्रचुर मात्रा में है, यह चिंता या गलत नहीं है।

(これで合っているかな? 中々に語彙が豊富なので不安なんだけど)」

「मैं आश्चर्यचकित था। लेकिन, ठीक है। यह आप बहुत अच्छा है।

(驚きましたね。ですが大丈夫ですよ。とてもお上手です)」

「『というか、貴女は女性だったのですね。失礼しました』」


 トマは記憶を読んだ翼竜が雌…女性であったと分かって申し訳なさそうだ。


「『気にしないでください。私だって一目で貴方達の性別はわかりませんよ』」

「『ひゃー、すごい能力だな。ってことはあんた言葉に不自由しないのか?』」

「『いいなー、それいいなー。オイラもほしいー。そしたら西北の

緑大竜の女の子もナンパできるってことじゃんよー』」

「『サーハス! あなたって子は…!』」


 最初にトマと言葉を交わした翼竜は、後ろから出てきた若い…?

立派な三本の角を持った男性の翼竜が調子に乗った事を言うので怒ろうとする。


「『ベティねぇは堅いなー。そんなだから行きおk』」


 サーハスと呼ばれた翼竜はベティと呼ばれた翼竜に噛み付かれた。


「『ふぁれ行き遅れひひほふれだって?』」

「『痛だだだだだだ! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!』」


 噛み付かれたままなので涙目なサーハスは必死に謝る。


「『パハトゥキベティ。サーハスの矯正は後にしよう』」

「『あむ……失礼しました、第三戦士長』」

「『死ぬかと思ったー…』」 


 翼竜たちの中ではベティことパハトゥキベティ達より一回り大きく、

彼方此方に歴戦の勲章きずあとが目立つ第三戦士長と呼ばれた翼竜が

彼女の行動を諫める。


「『話を戻すのだが、ワンメイ族の子よ。この糞どm…いや、赤亜竜を

お前一人でたおしたのは事実なのか?』」

「『僕に嘘を吐く利点は無いので、間違いないです』」


―何だと…?

―そんな馬鹿な…?

―我らでも正面から相手では無事で済まないのに…?


 翼竜たちはどよめくが、第三戦士長が一喝して諫める。


「『見た目だけで判断するのは愚かだ。この者が

内包魔力を偽装していることくらい直ぐ分かるだろう』」

「『流石は竜の一族…まぁ僕は余り偽装も上手じゃないですが』」

「『そのようだな、手加減が不得手そうなのは赤亜竜の遺体を見れば分かる』」


 第三戦士長はトマが収納しきれなかった赤亜竜の遺体が

無残な蜂の巣状態になっている様を一瞥する。


「『まぁ、腐っても竜が相手なので…』」

「『それもそうか』」


 グルグルと喉を鳴らして笑う第三戦士長。そのままお互い軽く

自己紹介を交わす。第三戦士長はペヘリティマーティカマヒーナという

名前だそうだ。呼びにくいようであればマーティで良いとのことだった。


「『おい! 南からヤバそうなのが来るぞ!!』」


 周りの様子を伺っていた翼竜の一体が全員に危険を知らせる。


「む…? …っと、そうだったな」


 トマは感知にエアメルドゥク達の魔力反応を確認したので

その方向を見れば、土煙をあげて疾走してくるスノリフレキが見えた。


「お兄様!」

「兄上、ご無事…ですよね…何かそれだけじゃなさそうですけど」

「やはりトマ様にとっては造作も無い事でしたか」

「やあお前達、待っていたぞ」


 トマは合流したエアメルドゥク達に若干気の抜けた返事をする。


「『トマ殿、彼らは…?』」


 トマが親しげに接しているとはいえ、やはり警戒はするマーティ達に

トマはエアメルドゥク達を紹介する。


「『失礼。彼らは僕の家族だ、あれが弟のエアメルドゥクで

黒亜神族ダークエルフの娘が奴r…傍仕えのライラ、

エアメルドゥクに似ているのが妹のエンリルエリシュ、

彼らが乗ってきたのが僕のペットのマーナガルムのスノリフレキだ』」


「兄上…翼竜の方々の言葉すら話せるのですね!」

「弐の兄さん。お兄様ですからそれくらい何も不思議じゃないでしょう?」

「エア様、トマ様ですよ? トマ様に不可能などあるはずがないのです」

「やめろ、無駄に持ち上げるな」


 とりあえずトマからざっくり翼竜達を紹介されたので、

エアメルドゥク達は帝国式の礼をとる。ただスノリフレキは

亜竜、翼竜共通の天敵種マーナガルムなので挨拶のつもりで

軽く吠えたのにビビられてしまってしょぼくれていた。

「そんなに怖がるない…俺だって傷つくんだぞ」と言いたそうな

顔をしていたのでトマはスノリフレキを軽くモフって宥めた。


「『はて…兄弟にしてはあまり似てない気がするのだが』」

「『エアメルドゥクとエンリルエリシュは異母兄妹なので』」

「『あぁ、母親が違うのならそれもそうですね』」

「『ふーん…? んじゃートマもそんな感じなのかー?』」

「『そんなところだ』」


 きちんと義理だと言おうかと思ったが、

面倒くさいのでそういうことにしたトマ。


「『聞きそびれたのですが、マーティ殿達は何故ここに?』」

「『うむ…本来であれば我々は今日儀式をする予定だったのだが…』」


 二日ほど前に赤亜竜達に襲われ、どうにか先遣隊を誘い込んで

撃破したものの、少なくない犠牲もあったので懇意にしている

他の竜族に応援を要請しようと危険を承知で大空大連山の

他部族の所まで行こうとしていたら、近くに感知した赤亜竜達の

魔力反応がいきなり消えたので不可解に思って様子を見に来たとの事だった。


「『なるほど…だから僕らのいた街が襲われたのですね』」

「『何と……まさかシャーモルヴォディーシィ(風谷)か?』」

「『そうですね、僕らはそこに滞在していたので』」

「『すまなかったな…奴等がそこまで短慮だとは思わなんだ…』」

「『いや、奴等も恐らく貴方方を追う片手間だったようですから、

そこまでの被害にはなってないと思いますよ』」


 腐っても魔人族である。亜竜相手でもそう簡単には殺されまい、

とトマは思っていたので実際はどうだか知らないが

マーティ達が謝るのは筋違いだと応える。


「『風谷の者達は毎年親しげに見送ってくれるからな…』」

「『去年は美味い肉を投げてくれたなー』」

「『落ち着いたら慰問も検討するべきでしょう』」


 赤亜竜に比べて紅玉翼竜達は途轍もなく律儀であるとトマは思った。


「『と、なるとあまり引き止めてるのも悪いですね』」

「『む、そうであった。では我々はそろそろ行こう…トマ殿。

憎き赤亜竜を斃してくれたこと、感謝する』」

「『マーティ殿達も道中気を付けて』」

「『落ち着いたら礼をしにいこうと思うのだが、良いだろうか?』」

「『それは…』」

「『そーいやートマは風谷には旅行で来てたんだっけー?』」

「『そうなのですね。ではトマさん、貴方はどちらに本拠を?』」

「『帝都なのですが…』」

「『ほう! では儀式が終わった後でどの道ワンメイの長には

挨拶をする決まりが有るからちょうど良いな!』」

「え」


 それはそれで七面倒くさ嫌な予感がするのだが…彼らの人…

いや竜の良さを思うと断るのもどうかと思い悩むトマ。


「『よし、なれば善は急げだ。早々に紫水晶翼竜のフルオネンア族に

協力の要請をしに行かねばな。では、これにて失礼する!』」


 マーティ達は挨拶も早々にして足早に大空大連山方面へ飛び去っていった。


「………帝国から出るのが面倒になりそうだ…参ったのう…」


「兄上、どうかしましたか? というか彼らと何を話したのですか?」

「お兄様ぁ、赤糞トカゲは皆殺しにしたのですよね?

であればそろそろ帰りましょう? 遅くなったらお母様たちも心配するです」

「トマ様。帰りは私もトマ様と一緒に空を飛んで帰りとうございます」

「あ! ずるい! エニもそっちが良いです!」

「待てエニ! 今こそさっきの借りを返せ!」


 懊悩するトマそっちのけで誰がトマと一緒に帰るか揉め出す。

寄り添って唯一慰めようとしてくれたスノリフレキには

後で沢山おやつをあげようと思ったトマだった。


26:に続く

キャラが勝手に動き出した…! 予定してた展開と違う!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ