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リブートライフ  作者: フロ
黒薔薇の洗礼
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第49話:中央大陸カーネギー


「まずは泥のように眠り、ややこしいことを考えるのはその後にしよう。とにかく体が疲れきっているんだ」


そう心の中で呟きながら、私はベッドに勢いよく横たわった。

目を閉じて意識を暗闇に委ねようとしたその時、静まり返った部屋の扉が静かに開いた。入ってきたのはフレルだ。普段、彼女が自分から私の部屋にやってくることなんて滅多にない。


「フレル、どうした? 何か用事でもあるのか」


用事があるかだなんて、こんな小さな子供に向かって問いかけるのは少し無粋だったかもしれない。


「ヨウジってなぁに? よく分からない。それよりお兄ちゃん。寂しいから、一緒に寝よう?」


「私と、か? それはまた、随分と予想外の提案だな」


フレルは毎晩、決まってジープの隣で眠っていた。私の推測が正しければ、ジープはカナーマン以上にフレルに対して父親としての意識が強く、不器用ながらも可愛がっていたのだろう。彼女にとって、ジープは一番安心できる存在だったに違いない。


「うん……だって、ここ、なんだか怖いんだもん」


なるほど、ジープはもうここにはいないのだ。異国の見知らぬ土地の静寂が、彼女の小さな胸を不安にさせているのだろう。それを思えば、今夜ばかりは添い寝を引き受けてやるのが大人というものだ。


「いいだろう。その代わり、ベッドに入ったら一切おしゃべりは禁止だ。今夜だけだぞ。お兄ちゃんは少々疲れ果てているんだ」


「うう……ん、分かった。静かにする」


フレルは寝る時になると、ひどくおしゃべりになる悪癖があると以前ジープから聞かされていた。本来、幼い子供というものは誰もがそういうものだろうが、今の私にはそれに付き合う体力は残されていない。

私は再びふかふかのベッドへと身体を投げ出した。私が横たわるのを見るや否や、フレルはトトトと軽快な足取りで駆けてきて、私の胸の中へと勢いよく飛び込んできた。その瞬間、彼女の小さな身体から、何とも香ばしく心地よい芳香がふわりと立ち上り、私の鼻腔を優しくくすぐった。

私はその馨しい香りに包まれながら、静かに瞼を閉じた。明日の朝になれば、また彼女特有の清々しい香りで目が覚めるのだろう。あのジープからは、いかにもおっさんらしい無骨な臭いしか漂ってこなかったというのに、フレルと添い寝をしていたおかげで、彼からも随分と小綺麗な、石鹸のような匂いがしていた理由が、今になってようやく得心がいった。


***


それから、私たちの前を瞬く間に一年の歳月が通り過ぎていった。

私は毎朝、非凡な才能を持つティアに師事し、この世界の根幹を成す魔導を学び続けている。日々の鍛錬の結果、私の属性適性は劇的な成長を遂げていた。水属性が『上級』、風属性も『上級』、地属性と火属性にいたっては、並の術者では一生かかっても到達できない『最上級』の階梯へと到達していたのだ。さらに、あの固有の茨の魔術も、日々の絶え間ない鍛錬の甲斐あって、実に見事な精度と威力を誇るものへと磨き上げられていた。

それだけではない。私は、自分が発動可能なすべての魔導において、呪文の詠唱を極限まで短縮することに成功した。頭のなかでイメージを構築した瞬間に、魔法が術式として成立する。どうやら私には、前世では想像もつかなかったような、存外に天賦の才が備わっていたらしい。

しかし、これほどの異常な成長速度を前にすると、ひとつの暗い疑惑が頭をもたげる。まさかとは思うが、かつて世界を震撼させた四つの大いなる存在――オーディスティル、ヒザミル、バグロール、あるいは世界を創り出し神ラグラスといった存在の因果が、私の血脈の奥底に混ざり込んでいるわけではないだろうな。もしそうなら少々困るが、おそらく違うだろう。これだけの成果を上げられたのは、私がそれ相応の、血の滲むような努力をこの一年間、一日も欠かさず積み重ねてきたからに他ならないのだ。

そもそも、魔導の格付けというものは、必ずしもすべての属性で均一である必要はない。その術者が到達し得る最高位の階梯が『最上級』であれば、その者は社会的に紛れもなく最上級魔術師として定義される。今の私は、客観的に見てもその領域に片足を突っ込んでいると言えた。


「ユウカワ、その最上級魔術の詠唱を短縮する、あるいは完全に無詠唱で行使するためのコツを、私にも教授していただけませんか」


ある日の鍛錬の最中、ティアが真剣な表情で私に問いかけてきた。


「た、確かにこれと言った絶対の秘訣があるわけではないのですが……強いて言うなら、一度の行使で自身の体内に宿る膨大な魔力を、限界まで徹底的に消費してみることですね」


私は自分の経験に基づいた感覚を言葉に選んだ。ティアは私の言葉に半信疑ながらも、意を決したように愛用の杖を高く掲げ、新たな試みに挑戦しようとした。


「くっ……集中、集中……ケラウノス・フューリー!」


彼女の悲痛な叫びが響く。だが、周囲の大気には何一つとして魔力の兆候は現れず、術式は光を放つこともなく不発に終わった。最上級魔術の壁は、それほどまでに厚い。


「やはり、私にはまだ早すぎるようですね。イメージが固定できません」


「気にする必要はありませんよ、ティア Lights。地道に修練を重ねれば、あなたの才能ならいずれ必ず到達できますから」


私は努めて穏やかに彼女を慰めた。すると、ティアは少しだけ悔しそうな表情を浮かべた後、すぐに悪戯っぽい笑みを湛えた。


「では、そのお返しというわけではありませんが、先輩として、本物の技というものをお見せしましょうか。本来の最上級魔術の威厳を、その目に焼き付けてください」


ティアは自身の魔導杖『アコースティック・ドライブ』を両手でしっかりと握り締め、その先端を、天へと向かって正確に照準した。その瞬間、彼女の全身から放たれる空気の質が狂暴に変質する。その両眸には、普段の温厚さからは想像もつかないほど、冷徹で真摯な、圧倒的な魔術師としての光が宿っていた。


「『天の眼が閃き、大気がその威厳に震える。審判の紫電よ、地上の不遜を厳罰せよ――ケラウノス・フューリー!』」


彼女が紡ぐ完全詠唱の呪文が完成した刹那、バリバリと空間そのものを力任せに切り裂くような、禍々しい轟音が辺り一帯に鳴り響いた。そして直後、天から引きずり下ろされた巨大な雷光が大地を叩き、クワアアアンという凄まじい衝撃波が炸裂した。視界が真っ白に染まり、強烈な光度と熱量が肌を焼く。

なるほど、これこそが真なる最上級魔導의 威力というわけか。これほどの規模の破壊を目の当たりにすれば、敬意を抱かざるを得ない。私とて同等の魔術を行使することは可能だが、それでも彼女が放った一撃の、あの圧倒的な魔力の練度と純度には、素直に感嘆させられるものがあった。



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