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リブートライフ  作者: フロ
黒薔薇の洗礼
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第47話:中央大陸カーネギー

「まずは、腹に溜まるものから物色するとしよう。この界隈には、実に高名な麦酒とパンを商う店があるのだ。足を運んでみないか?」


ティアがいつになく弾んだ声で、私たちの顔を見回しながらそう提案した。


「行こう、今すぐに! ぐずぐずしている時間はない!」


「私も、その高名なパンというものを是非とも賞味してみたい」


アレクシアが飢えた獣のような目を輝かせ、フレルも私の袖を引っ張りながら熱心に同意した。


私たちはティアの案内に従い、東へと続く大通りを進むことにした。通りの左右には、見たこともないほど煌びやかな宝石商の店構えや、瑞々しい異国の果実が山積みにされた果物屋が隙間なく軒を連ねている。折しも街は祝祭の最中であるらしく、色とりどりの装飾が施され、行き交う人々の熱気で溢れかえっていた。

だが、そんな華やかな景色のなかで、一際異彩を放つ奇妙な光景が目に飛び込んできた。建物の壁に沿って、地平線の彼方まで続いているのではないかと思わせるほど、見事な一列の長蛇の列が形成されているのだ。


「あの列だ。私たちも並ぼう」


やはり、私の予感は確信に変わった。あの中央大陸の混沌とした人間の群れが、一筋の秩序を持って並んでいる先こそが、例の高名なパン屋だったのだ。


「『リゾート・フォーティ・エルスミア・トゥレジュール』。それが、この店の看板に掲げられた名だ」


列に加わりながら、ティアが少し得意げに解説を加えてくれた。彼女の語るところによれば、この店の初代主人であるエルスミア・レイン・クラエル・モスコン・シルフィードという、大層立派な名を持つ職人が、この地で初めて独自の製法による創作パンを焼き上げたことが、すべての伝説の始まりなのだという。

彼女の解説はそれからも長々と続いたが、大半の歴史的な蘊蓄は私の耳を素通りしていった。ただ、ひとつだけ確実に理解できたのは、普段は冷静沈着なティアが、実は大のパン好きであるという、存外に可愛らしい一面を持ち合わせているということだけだった。


そうして、私たちは気の遠くなるような混雑のなか、丸一時間ほども列に並び続ける羽目になった。足の感覚が麻痺しかけた頃、ようやく私たちの手元に、黄金色に輝く出来立てのパンが届けられた。


「あむ……うぅん!」


ティアが、まだ中心まで熱を帯びた、焼き立てのパンを贅沢に一口ちぎって口へと運んだ。

その断面を盗み見ると、内側の生地は雪のように白く、まるで極上の真綿のように信じられないほどふんわりと弾んでいる。対照的に、外側の皮は限界まで香ばしく、美しい狐色に焼き上げられていた。その視覚的な美しさだけで、この店がなぜこれほどまでに民衆を狂わせるのか、その理由が嫌というほど理解できた。


「わぐっ」


私もまた、手元に実るその塊に噛み付いた。

口内に広がったのは、厳選された乳脂肪分、すなわち牛乳の風味が絶妙な塩梅で調和した優しい味わいだった。確かに美味い。文句なしに美味いのだが、突き詰めてしまえば、やはり「よく出来た上質なパン」の領域を出るものではなかった。前世の飽食の時代を知る私からすれば、涙を流して感動するほどの代物ではない。


しかし、周囲の面々の反応は劇的だった。

アレクシアにいたっては、まるで何日も飢餓に苦しんでいた野蛮人のような猛烈な勢いで、口の周りを粉だらけにしながら貪り食っている。一方のフレルは、その小柄な身体に見合った小さな唇を健気に動かし、おむ……いや、実にもどかしいほどに、こつこつと愛らしく咀嚼を繰り返していた。


「んぅ、おいちぃ……」


「フレル、すべて咀嚼して、完全に飲み干してから言葉を発しなさい」


「はぁい……」


私の注意に対し、彼女は小さく首を傾げて素直に応じた。


さて、私たちは現在、とある盛況な食堂の店先に並べられた木製の椅子に、当然のような顔をして腰掛けている。

実を言えば、周囲に腰を下ろして休めるような手頃な広場が一切見当たらなかったため、ティアが「ここに潜り込み、あたかもこの店の品を待つ客のふりをして時間を稼ごう」という、なかなかに不敵で大胆な提案を企てたのだ。

私たちはその作戦に便乗し、他人の店の椅子を拝借しながら、泥棒猫のように静かに、しかし最高に満ち足りた心地で、中央大陸の最初の味覚を心ゆくまで貪り続けた。



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