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リブートライフ  作者: フロ
黒薔薇の洗礼
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第46話:中央大陸カーネギー


「次回もまた、作っていただけると嬉しいです」


ティアがこれほどまでに深く望むのであれば、断る理由などどこにもない。再び彼女から請われれば、喜んで至高のひと皿を振る舞うとしよう。自分の料理が誰かをこれほどまでに満たし、笑顔にできるというのは、存外に悪くない気分だった。


***


船旅もいよいよ終わりを告げようとしていた。客船の速度が目に見えて落ち、周囲の景色がゆっくりと変化していく中、ティアが私の元へと歩み寄ってきた。


「ユウカワ、間もなく船が港へ停泊します。荷物の準備はよろしいですか?」


彼女の言葉に、私は静かに頷いた。いよいよこの住み慣れた船室を降り、活気あふれる港の喧騒を抜ければ、そこには私たちが目指してきた本物のカーネギーの地が広がっているのだ。

未知の土地への純粋な胸の高鳴りを覚える一方で、私の胸の奥底には、別の重苦しい感情が澱のように沈んでいた。かつて理不尽に命を落としたシルフィア。彼女の死の真相をこの手で必ずや暴き出すという、悲壮にして冷徹な決意が、私の魂の芯で静かに、しかし消えることのない熱を伴って燃え上がっていた。

前世の記憶を持ったままこの異世界に生を受け、早くも十年近くの歳月が流れた。これまではどこか一歩引いた視線で、まるで他人事のように世界を眺めていた自負があった。しかし、失われた大切な命の灯火、そして目の前に残された数々の謎を前にしては、私の魂もまた一人の人間として、深くその因縁に絡め取られずにはいられないのだ。


「到着しましたね。これからは大勢の旅人で港が混雑しますから、決してはぐれて迷子にならないよう、周囲の状況に細心の注意を払ってください」


ティアは真剣な眼差しで、私たち全員を見渡しながら告げた。


「そんなに大袈裟に言わなくたって、大したことはないでしょう? たかが港の混雑くらいで、私たちが不覚を取るはずがないわ」


アレクシアが不敵な笑みを浮かべ、いつものように高慢な調子で言い放った。

だが、かつて中央大陸の過酷な環境を知り、イントゥーラスとカーネギーを幾度となく渡り歩いてきたティアが、根拠のない無意味な警告を発するはずがなかった。彼女がわざわざ口にするということは、それだけの理由があるのだ。ここは彼女の言葉を真摯に受け止め、各自が警戒を強めるのが賢明というものだ。


「いいえ、アレクシア。あなたの想像を遥かに絶する混雑ですよ。ここは他ならぬ、世界中の富と、欲望と、ありとあらゆる人々が集う場所――『中央大陸』なのですから」


なるほど、中央大陸か。あらゆる種族や人間が最も過密に蠢き、混沌が支配する大国であることは間違いない。私は衣服の乱れを正し、気を引き締め直して不測の事態に備えることにした。

その時、船体が地響きのような腹に響く重低音を立てて大きく振動した。木製の壁がきしみ、波を割る音が止む。どうやら無事に接岸し、船が完全に停止した合図のようだ。この異世界では、前世にあるような近代的な機関(エンジン)ではなく、未知の魔力かそれに類する何らかの神秘的な動力源を用いて巨船を動かしているに違いない。その得体の知れない膨大なエネルギーの波動が、床を通じて私の足の裏から神経へと伝わり、奇妙な高揚感を運んできた。


「着きましたね。さあ、遅れないように下船しましょう」


ティアの促す声が終わるや否や、頭上から軽い衣擦れの音が響いた。フレルが二段寝台の上段から、驚くほど軽やかな身のこなしで飛び降りてきたのだ。そして、私の胸へとまっすぐに飛び込んできた。

腕の中に収まるその温もりと、狂おしいほどの愛らしさは、理屈抜きで私の庇護欲を激しく掻き立てるものがあった。この小さな命を、これから待ち受けるであろうどんな混沌や悪意からも守り抜かなければならないという、奇妙な義務感が私の胸を支配していく。


客車から一歩外へと足を踏み出す。その瞬間、私の目に飛び込んできたのは、ティアの警告が寸分の狂いもない圧倒的な現実となって広がっている光景だった。

見渡す限りの人の海。地平線まで続いているか錯覚するほどの人だかりがそこにあった。ある者は露店の林檎を少しでも安く買い求めようと凄まじい怒号を上げて競り合い、またある者は他人の懐から路銀を鮮やかな手つきで掠め取り、雑踏の彼方へと一瞬で疾走していく。怒号と歓声、物売りの声が入り混じり、耳元で絶え間なく爆音が鳴り響いているかのようだ。その混沌とした光景は、前世の記憶にある、朝の通勤ラッシュに文字通り押し潰されそうになる主要駅のホームを彷彿とさせた。あるいは、それ以上の狂気がここには満ちている。


「ほら、ご覧なさい。私の言った通りでしょう?」


ティアが少しだけ得意げな、しかし困ったような表情でこちらを振り返った。


「……ええ、認めざるを得ないな。これは確かに凄まじい人の数だ。私の想像を遥かに超えていたよ」


私は素直に敗北を認め、腕の中の存在へ視線を落とした。小さなフレルが、この奔流のような人混みに呑まれ、一瞬にしてどこかへ流されてしまわないよう、私は彼女に向けて厳しく、しかし優しく注意を促した。


「フレル、私の背中にしっかりと掴まって、決して手を離さないようにね。いいかい?」


フレルは言葉を返す代わりに、小さく、しかし力強く頷いた。その瞳には、私の存在を絶対に離すまいとする、子供ながらの確固たる、そしてどこか厳かなまでの強い意志が宿っていた。彼女の手が私の衣服をぎゅっと掴む感覚が、何よりも愛おしく思えた。


「それで、ティア。人混みを抜けるのはいいですが、今夜の宿の当てはあるのですか?」


私は歩みを進めながら問いかけた。何はともあれ、旅の拠点を早急に確保せねばならない。最悪の事態になれば、見知らぬ土地の泥にまみれて路頭に迷う羽目になりかねないからだ。特に、これほど治安の悪そうな場所ではなおさらだ。


「ふふ、心配御無用です。もちろん、事前にすべての手配を完璧に済ませてありますよ。宿代の支払いに関しても、ゴスオスが私たちの代わりに全て裏で工面してくれることになっていますから」


ティアの口から出た名前に、私は一瞬だけ思考を止めた。かつて私たちの家を文字通り徹底的に荒らし尽くしていった、あの憎むべき男。よもや彼が、これほど殊勝な、そして善意に満ちた配慮を見せるとは思いもしなかった。人間というものは一筋縄ではいかない。存外に、この世界もまだ捨てたものではないらしい。私たちはそれぞれの思いを胸に、混沌の街へと一歩を踏み出した。


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