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リブートライフ  作者: フロ
黒薔薇の洗礼
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第44話:中央大陸カーネギー


身体の隅々まで念入りに洗い流し、私は脱衣所へと足を踏み出した。

備え付け의 扉を静かに開けた、その刹那――。


「ああっ……! びっくりしました」


目の前に佇んでいたのは、薄手の寝巻きに身を包んだティアだった。

その衣装は、彼女の華奢な鎖骨のラインが今にも滑り落ちそうなほど大きく開き、生地の向こう側にはうっすらと白磁のような素肌が透けて見えそうな、酷く扇情的なものだった。

男の立場からすれば、これほど理性を揺さぶる衣服もないだろう。


「申し訳ありません。もう、お身体は洗われましたか?」


「ええ、終わりましたよ」


「では、少々そこを退いていただけますか」


気がつけば、私は通路を完全に塞ぐ形で立ち往生していた。だからこそ、彼女は移動を促したのだ。

私は我に返り、大人しく一歩だけ横へと足を踏み外した。


「ありがとうございます」


ティアはそのまま、吸い込まれるように浴室の中へと消えていった。

……中を覗き見てしまおうか。

いや、よそう。思い止まるべきだ。

この期に及んで、前世における三十二歳の男の邪念が、未だに私の魂の底にへばりついているのだろうか。

だが、今の私は当時の肉体ではないのだ。それに、万が一にも不届きな真似が露見すれば、ティアから完全に嫌悪され、見限られるやもしれない。ここは自制するのが賢明だ。

ああ、前世の血気盛んな二十代の頃に、もっと良い伴侶(あの子)を見つけて幸福な生涯を掴み取っていれば。なぜ私は、あれほど敗北者のような人生を甘んじて受け入れていたのだろうか。


***


いよいよ、消灯の時間が訪れた。

約束通り、私はティアの真上にあたる二段目の寝台を占有している。

アレクシアとの熾烈な闘争に勝利した、まさに至高の報酬であった。

ふふ、上段から見下ろせば、無防備に微睡むティアの愛らしい姿を心ゆくまで堪能できるに違いない。


「ユウカワ。ひとつ、興味深い事実を教えて差し上げましょうか」


下段から、鈴を転がすようなティアの声が響いた。


「ええ、何でしょう」


「バーツ家の血を引く者は皆、生涯でただ一度だけ、誰か一人の『未来』を垣間見ることができるのです」


「……それが、何か?」


「非常に重要な、秘められたお話です。……お聞かせしてもよろしいですか?」


ティアはそう言いながら、隣의 寝台で眠るアレクシアの方へと、そっと視線を走らせた。

どうやら、彼女には聞かせるわけにいかない不都合な内容であるらしい。

アレクシアが完全に深い眠りに落ちていることを入念に確認すると、ティアは再びその視線を私へと戻した。


「視えた未来の中で……私は、将来のあなたと婚姻を結ぶことになっていました」


「……は?」


「む、もちろん未来の選択は不変ではありません。変えることは可能です……ですが、私自身の手では、その運命を覆すことができませんでした」


「あ、あらすじとしては、分かりました……」


私が、あのティアと結婚するだと?

男として、これほど歓喜すべき事実は他にない。しかし……私の本音を言えば、実はアイナの方が気にかかっていたのだ。

アイナであれば私の我儘を寛大に受け入れてくれそうだが、ティアの生真面目な性格を考えると、何かと手厳しく拒絶されそうな予感がしてならない。

いや、私は決して不誠実な男(クズ)ではない。ただ、男としての率直な懸念を抱いただけだ。


「そろそろ、眠りに就きましょうか」


私はそう言って両目を閉じた。

ティアと結ばれる未来。想像すらしていなかった、身に余るほどの吉報だ。

だが、よくよく考えてみれば、なぜ彼女は数ある選択肢の中から、わざわざ私の未来を視るに至ったのだろうか。


「先生」


「はい、お呼びですか」


「先生はなぜ、私の未来を視ようと思ったのですか」


「それは……あの時、オーディスティルに右腕を奪われ、あなたが意識を失ったでしょう。私はあなたが死んでしまったのではないかと激しい恐慌に陥り、生死を確かめたい一心で、必死に未来を手繰り寄せたのです。生きているのか、それとも息絶えたのかを。……そうして視た光景の中に、大人の姿となったあなたの姿がありました。随分と、端正な顔立ちをされていましたよ」


はは。

何とも愛らしい令嬢だ。そのような熱い告白をされては、こちらの表情の綻びを繕うことなどできはしない。

なるほど。彼女がその未来の光景を目にしていたからこそ、私のために特別な思いを込めて、この右腕の義手をあつらえてくれたのだろうか。


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