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リブートライフ  作者: フロ
黒薔薇の洗礼
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第41話:中央大陸カーネギー


現在、私たちはイントゥーラスの地を発ち、次なる目的地である『中央大陸カーネギー』へと向かっている。

もちろん家財の荷造りは全て滞りなく終えており、ジープへの惜別の挨拶も交わし、実に和やかな雰囲気の中で出発の途についた。

当初は同行する予定のなかったフレルだったが、どうしても一緒に行きたいと駄々をこねるように懇願してきたため、根負けした私たちが連れて行くことに決めたのだ。

しかし、その身を案じたティアが「道中は危険が伴いますから、くれぐれも警戒を怠らないでくださいね」と、フレルに対して念を押し、厳しく注意を促していた。


「馬車を利用します。ユウカワ、路銀をいただけますか」


今回の旅における資金の管理は、全て私が一任されている。

当初、ティアはアレクシアに財布を預けようとしていたのだが、アレクシア自身が「自分の手元に置くのは安全ではない」と極めて現実的な判断を下し、結果として私に委ねられる形となったのだ。


「ああ、これを使ってくれ」


一般的な乗合馬車の運賃は一人あたり石版貨一文が相場であるため、私は懐から石版貨四文を取り出して彼女に手渡した。


「ありがとうございます」


路銀を受け取ったティアは、馬車が往来する街道へと僅かに身体を乗り出し、すっと右手を高く掲げた。

その慣れた仕草は、前世の記憶にある辻馬車(タクシー)を呼び止める光景を彷彿とさせる。


やがて、純白の毛並みを持った見事な白馬がこちらへと駆けてきた。

その背後に大きな客車が連結されていたのだが、角度のせいで馬車本体が隠れて見えず、一瞬、暴走した軍馬がティアに向かって突進してきたのかと錯覚してしまった。

私は咄嗟に身構え、あらゆる事態に対応できるよう迎撃の防御体勢を取る。


「乗客は三名様ですか?」


御者が客車から顔を覗かせ、こちらを値踏みするように問いかけた。

ティアは静かに首を横に振る。

フレルは非常に小柄であるため、私の背後にすっぽりと隠れてしまい、御者の位置からはその姿が視界に入らなかったのだろう。


「いえ、四名です」


ティアが先ほど手渡した石版貨を差し出すと、御者はそれを手際よく受け取りながら、親愛の情を示すようにティアへ握手を求めた。

しかし、ティアは表情を崩さぬまま、その差し出された手を無言で、しかし明確に拒絶した。

たまにはそのような社交辞令に応じてやるのも悪くないと思うのだが、いささか生真面目が過ぎるというか、他者に対して些か冷淡に振る舞いすぎではないだろうか。


「さあ、お乗りください!」


拒絶された御者は一瞬だけ顔をしかめたものの、すぐに愛想の良い営業スマイルを浮かべ、努めて快活な声を張り上げた。

旅の始まりにおける気まずい沈黙を破り、車内の雰囲気を壊さないための、彼なりのプロとしての配慮なのだろう。

私たちが客車へと乗り込むと、馬車は大きな音を立てて激しく揺れながら発車した。

内臓が揺さぶられるような特有の振動に、私は早くも軽い目眩と吐き気を覚え始める。

今通過している一帯は岩石の多い荒れた地域らしく、車体は容赦なく上下左右へと激しく揺れ動いていた。

ほんの数分も辛抱すれば、この揺れにも身体が順応してくれるだろうと、私は目を閉じて己の感覚を宥めることに集中した。


***


「お客様、目的地に到着いたしました!」


御者の威勢の良い声で、私は深い微睡みから意識を浮上させた。

どうやら眠っている間に、あの不快な馬車の揺れにも完全に適応できたようだ。

そう確信し、私はすっきりと覚醒した心持ちで客車の扉を開けた。


「さて、ここからどちらの方向へ進めばいいものか……うっ、うぇっ……」


前言撤回である。私の身体は、微塵もあの過酷な揺れに適応などしていなかった。

地面に足をついた瞬間、限界を迎えた胃袋が激しく自己主張を始め、私はその場に四つん這いになって無様に嘔吐感を催してしまった。


「……治癒魔法(ヒーリング)を、おかけしましょうか?」


無残な姿を晒す私を、ティアが心底同情するような、あるいは少し呆れたような眼差しで見下ろしながら問いかけてきた。


「……ああ、頼む」


辛うじてそれだけの言葉を絞り出す。


「では、少々失礼しますね」


ティアは静かに両目を閉じた。

この世界における基礎的な治癒魔法には、大仰な詠唱の儀式などは必要とされない。

術者の体内に宿る魔力を練り上げ、対象へと指向させるだけで発動が可能となるのだ。


「――治癒」


彼女の凛とした声と共に、私の身体を心地よい魔力の波動が包み込んだ。


「お、おお……!」


次の瞬間、私を苛んでいた絶望的な吐き気と目眩が、まるで嘘のように綺麗さっぱりと霧散していった。

前世の医薬品など比較にならないほど、その効能は凄まじく、劇的なものであった。


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