第37話:何一つ変わらない日常
これからはフィギュアを、いくら面倒でも見つかりにくい場所に隠さなければ——。
「あ、」
パキッ——!
「わ、私の……私のフィギュアがぁあ!!!」
……どうにか心を落ち着かせた。こんな理不尽で望まない現実が起きるなんて思いもしなかった。大声を上げてしまったせいで、ティアが「一体何事ですか」と血相を変えて部屋に飛び込んできたが、前世の引きこもり時代に培った驚異的な反射神経(순발력)で、間一髪のところでフィギュアを椅子の下に蹴り込んで隠すことに成功した。危うく一巻の終わりになるところだった。本当に命拾いしたぞ。
ベッドの傍らに腰掛け、それからゆっくりと横になった。今日一日の間に私が味わった災難といえば、フィギュアの御開帳、妹からの脅迫、そして今しがたの社会的抹殺の危機。本当に心臓がバクバクと音を立てて縮み上がるような思いだった。少し仮眠を取って、この精神的な大ダメージを癒やすとしよう。
再び目を覚ました時には、すっかり夜になっていた。
やれやれ、こんな時間に起きてしまうとは、今日の夜は完全に寝付けそうにないな。だが大丈夫だ、こういう時こそ本を読めばいい。そうすれば知識も蓄えられるし、退屈でそのうち眠くなる。まさに一挙両得、一石二鳥ではないか!
私はさっそく、机の上に置いてあった本を開いて読み始めた。
「ふ、ふふん〜♪」
鼻歌をフンフンとフンゴロがしながら読み進めていたのだが、大体5分が経過した頃、猛烈な睡魔が津波のように押し寄せてきた。
「ふぁあ〜あ。やっぱり本なんてつまんねえな」
だが、この睡眠のゴールデンタイムを逃すわけにはいかない。私は布団をほどよく冷ますために床へ敷いておいたのだが、それを勢いよく引っ張り上げて身体に巻き付け、ぎゅっと目を閉じた。
まさに極限の快適さだった。やはりベッド(寝具)はNit○riに限るな。おねだん以上だ。
私の意識は、心地よさの中にじわじわと沈んでいった。……あ、ちなみに死ぬ方ではなくて、普通に眠る方の意味だからな。
いくら寝心地の良い最高のベッドだったとはいえ、やはりさっきまで爆睡していたせいだろうか、朝の5時にはパチリと目が冴えてしまった。大人しく読書でもして過ごすか。
ギィィ……。
静まり返った家に、不穏な足音が響く。
侵入者(不審者)だ! 咄嗟に身構え、いつでも茨の能力で縛り上げられるよう魔力を練り上げる。
「おい! ジフ、いるか? ドーラだ!」
何だって、海賊(ドーラ一家)か?! 早くあいつらを駆逐しなければ、この家全体が壊滅の危機に瀕してしまう!
……いや、待て。ドーラというのは単なる名前だろう。前世のアニメじゃあるまいし、異世界に天空の城なんてあるわけがない。変にオーバーに警戒するのはやめよう。
「うーん……おぉ! ドーラ、来たのか?」
扉の向こうから、地響きのようにうるさいジフの声が聞こえてきた。やれやれ、どうして中年のオッサンどもというのは、どいつもこいつも無駄に声がデカいのだろうか。まだ早朝の5時だぞ、少しはボリュームを絞って静かにしてくれ。
「お静かになさりませ。中には他の方々もいらっしゃると伺っておりますぞ」
なんだ、その無駄に格式張ったオツにすました喋り方は。私の手足が中二病的な意味で痒くなってくるような、ライトノベルに出てくる鼻持ちならない貴族(お高くとまったやつ)の口調ではないか。まさか西洋のどこかの国から来た人間か?
「ハハハ、大丈夫だ。ティアとアレクシアはこれくらいの物音じゃ絶対に起きねえってのは確認済みだからな。プラェルは……ちょっと分からんが」
おいおい、ちょっと待て。私はどうなんだよ。なぜ私の安眠(確認)はスルーされているんだ。
「ユウカワ殿は……部屋のランタンが灯っているのを見るに、すでに目覚めていらっしゃるようですな」
……何だと? なぜ私が起きているってことがバレているんだ?!




