第30話:何一つ変わらない日常
「うへへ……」
ティアがようやく目を覚ました。かれこれ15時間ほど眠り続けていた。
「うぅ……頭が痛いです。ユウカワ、ヒーリングをお願いします……」
「魔法を教えてくれるならいいですよ」
私はすかさず自分に利益のある条件を提示した。これぞ等価交換という名の、魔法習得への近道だ。
「もちろんです。ほら、早く……」
「ヒーリング!」
私の魔力が一気に吸い取られていく感覚がした。二日酔いを解消するには、それ相応の魔力を激しく消費するらしい。
「ふはぁ……っ! ありがとうございます」
ティアはヒーリングを受けると、気持ちよさそうに背中を丸めて伸びをした。さて、いよいよ教わるとしよう。
「教えてください」
「……うぅ。もうちょっとだけ、後で……」
二日酔いのダルさは尋常ではない。ここは大人しく、もう少し眠らせてあげることにした。
「ユウカワ! 始めましょう!」
アレクシアは今、ぐっすりと眠っている。起こそうかとも思ったが、そのまま寝かせておくことにした。
「はい! 今、下に降りています!」
ドレインタッチのような吸魔技術なのだろうか。早く学びたくて仕方がない。興奮が止まらない。
「今日は初級を学びます。調子が良ければ中級まで進みましょう」
おおおっ! もしかして無詠唱ができるのだろうか。私はこの異世界の主人公ポジションなのだから、それくらい出来て当然ではないか? ふぅ、緊張してきたな。大したことではないはずなのに。
「ひとまず、初級には5つの魔法があります。アクア、アイスランス、バーストフレア、ストーンレイン、ウィンドブレストです」
風属性もあったのか。
「詠唱は必要ですか?」
「……もちろん必要ですよ。最上級になれば省略することはできますが。それに、自分だけのオリジナル魔法を作ることも可能です」
私も早く最上級になりたい。それにしても、グランド級には代表的な人物として誰がいるのだろう。
「グランド級には誰がいるのですか?」
「ラグラス、オージスティール、ヒザミル、バグロール。その4人だけです」
「……」
「サクサク進みましょう。青き波紋と輝かしき小川の流れを注ぎたまえ、アクア! ……さあ、やってみてください」
ティアが杖を虚空へと掲げると、そこから水球が放たれた。いや、アクアなのか? 普通のライトノベルではウォーターボールと称されるようなものだが。
ティアが私に杖を手渡してきた。
「お、おっと……青き、波紋と……輝かしき小川の流れを注ぎたまえ、アクア!」
いささか拙い詠唱だったが、発動するだろうか。
その瞬間、杖の水晶からではなく、私の義手から水が激しく噴き出した。
「うわっ!」
びしゃあああ! と激しい水飛沫が上がり、私は思いっきり水を被ってしまった。
「義手から茨だけじゃなくて、魔法も出るんですか?」
「ジフさんが作ったものですから、私にもよく分かりません」
あのオッサン、意外と能力が高かったのだな。
「ジフさんは何級なんですか?」
「最上級です」
「ひぇっ」
てっきりティアよりも下の階級だと思っていた。あの太った体型とは裏腹に、相当な実力者だったらしい。本当に有能なオッサンだ。
「次はアイスランスを学びましょう。これは比較的短いです」
「はい」
「波紋を凍結させ、氷の美しさを誇れ! アイスランス!」
ヒュシュシュシュッ!
空から鋭い氷の礫が次々と降り注いだ。私が想像していたような純粋な魔法ではなく、物理的な攻撃魔法のようだ。
「少し難しいかもしれません。それに魔力量が不足しているなら無理はしないでください。この技術は魔力をかなり多く使いますから」
「波紋を凍結させ、氷の……美しさを誇れ! アイスランス!」
ドバババババッ——!
私の放った魔法は、ティアのものよりも少し威力の強い氷の雨だった。これに茨の能力を上手く応用すれば、なかなか面白い戦い方ができそうだ。




