第29話:何一つ変わらない日常
何はともあれ、再び平穏な日常が戻ってきた。
ティア、私、アレクシアの三人でギルドの依頼をこなし、日銭をちびちびと稼ぐ日々。その間、ジフはプラェルのことを甲斐甲斐しく看病してくれた。
「アレクシア、ユウカワさんと一緒に市場へ行って、お酒を買ってきてください」
今日はジフのお祝いの日だ。ジフが初めてパーティーを結成した記念日が今日なのだと、事前にティアから聞かされていた。
「はーい」
アレクシアと外出用の服に着替え、市場へと向かう。
道中、露店で鋼鉄の義手を見かけたが、前世の漫画を思い出したので購入は見送ることにした。
ごく普通にお酒を購入した。いや、普通ではないな。子供がこんなに堂々とお酒を買えていいのだろうか。年齢確認すらされず、あっさりと渡された。この世界では、お酒は大人が飲むものだという意識がそれだけ強いからだろうか。
ガシャーン!
「おい、前をよく見て歩きやがれ!」
現れた男のせいで、せっかく買ったお酒の瓶が割れてしまった。
「銀貨3枚の品です。弁償してください」
私は淡々と言い放った。ふぅ、よく我慢したぞ、私。
「俺が? ぶつかってきたのはお前だろうが。子供の分際で舐めた口を叩きやがって」
ぶっ殺してやろうか。いや、もう少しだけ耐えよう。
「恐れ入りますが、ぶつかってきたのはそちらです。弁償してください」
「ユウカワ……もういいよ、買い直そう……」
「ダメだ。さっき使ったお金が全財産んだよ」
ドカッ!
殴られた。拳が私の顔面に突き刺さる。
「この野郎が!!!」
もう我慢の限界だ。私は容赦なく、その男の懐から銀貨7枚を掠め取ってやった。まさか本当に殴ってくるとは思わなかったのだろう。手を出せば話が拗れて面倒なことになるというのに、愚かな奴だ。
「返せ!」
男が怒り狂って追いかけてくる。
悪いが、もう言い訳のしようもない。男の姿はまるで、尻尾の先が蛇で、顔はライオン、耳は猫という、わけのわからないキメラのように見えた。
結局、市場をぐるりと丸々一周走り回って男を撒き、別のお店で再びお酒を買い直した。
「ユウカワ、アレクシア。なぜこんなに遅かったのですか」
「あー……もう一周、散歩がてら歩いてきたもので」
「そうですか。では、テーブルを片付けるのを手伝ってください」
そうこうしているうちに、主役であるジフが帰ってくる時間になった。私たちはあらかじめ、ジフの昔のパーティーメンバーたちを呼び集めておいたのだ。
「よぉ、ただいま戻ったぞぉ!」
ジフがこれ以上ないほど上機嫌で扉を開けて入ってきた。
「ジフ!」
真っ先にジフを出迎えたのはオスゴス。なんとも適当極まりない名前の男だ。
「おお! 久しぶりだな!」
二人は力強く抱き合い、男らしい挨拶を交わした。
「お前、いつの間に娘なんてできたんだ?」
女戦士のゴスオスが尋ねてきた。これまた安直な名前だ。
「違う。カーナマンの娘だ」
「てっきり、ティアとそういう関係になったのかと思ったよ」
下品な冗談である。これがジフの元パーティーのノリなのか。
「ぶふぉっ。俺はもう50を超えているし、ティアはまだ17だぞ」
「……ゴスオス。本当に面白い冗談ですね」
ティアがそれ以上言ったら承知しないと言わんばかりの冷たい視線を向けて釘を刺した。
「ハハハ! 久しぶりに再会したんだ、そのくらいの手向けはいいじゃないか」
「それなら、私も少しお話を盛り上げてみましょうか」
翌朝、リビングには5人の大人が無残に泥酔して転がっていた。
ティアはソファに、ジフは椅子に。オスゴスはお酒をぶちまけたまま床の上に倒れ、ゴスオスはテーブルの上。そして名前も知らない獣人の一人が、オスゴスの上に乗っかるようにして潰れている。本当に目も当てられない地獄絵図だ。
私は大人たちを叩き起こしてそれぞれの家へと追い返し、ティアだけはそのまま眠らせておくことにした。
意外なことに、うちの先生はかなりお酒が強いらしい。




