第21話:きゅうせいのきびょう
「うーん! 美味しい!」
私はついさっき、ただ顔が可愛いという理由だけで、焼き鳥の串をタダで貰ってしまった。
私の現在の目的は、市場の調査だ。そうして市場をあちこち見て回る最中、棚ぼたで焼き鳥を恵んでもらったというわけである。
「ユウカワは元気にしているかな……?」
ふと、近くからユウカワという名前が聞こえてきた。……ユウカワを知っている人?
「あの、もしかしてユウカワをご存知なのですか?」
この幼い女の子が、まさかユウカワを狙っているはずはない。そう思いつつも、念のために声をかけてみた。
「はい……。あなたは?」
私は自分でも気づかないうちに、わずかながら警戒の視線を向けていた。
「私の弟子です」
「弟子ですか?!」
幼い少女の目が、驚いたように丸くなった。
「差し支えなければ、あなたとユウカワさんの関係を伺っても?」
少女に問いかける。
「幼馴染です。へへっ。ユウカワが昔、私を助けてくれたんです」
幼馴染だって……?
「分かりました。ひとまず、私の名前はティアです」
「そうなんですね。私の名前はアイナと言います」
アイナ? ユウカワがたまにアイナの話を口にしていたが、もしかしてあの人のことだろうか。……なんだか気まずい。それにしても、なんという奇妙な偶然だろう。
「少し急いでいますので、私はこれで」
「はい。お気をつけて」
互いに挨拶を交わし、それぞれの道へと歩き出す。もしかして、彼女もユウカワを探しているのだろうか。ユウカワなら、ここから西の方角に向っているはずだけれど。
「ティア!」
聞き覚えのあるアレクシアの声がした。しかし、人が多すぎて姿が見当たらない。
「こっちですよ!」
声がした方向へ目を凝らすと、アレクシアが私に向かって大きく手を振っていた。
「見つけましたよ!」
見つかった? もう?
「見せてください」
混雑する路地をすり抜け、アレクシアの前へと歩み寄った。
「これです!」
……なんだ。シムストンの薬草じゃないじゃないか。
「それはシムストンの薬草ではありませんよ」
「えっ?! お金を払って買ったのに?!」
「はぁ。イントゥーラスには詐欺師が多いですから、注意してください」
アレクシアはあからさまに不満そうな顔をして、引き返していった。
「ソーンガードとシルフィードはイントゥーラスの端。バーツとラノスはカーネギー……。行く場所がないですね」
私は次の市場へと向かうことにした。
「アレクシア、少しは手伝ってくれ!」
昨日はあまりにも疲れて2時間しか働けなかった。そのため、今日は2時間の残業だ。
「やってるわよ!」
いっそのこと、もう辞めてしまおうか? 飯を食う分のお金は十分にあるし、床で寝ればいいだけだし……いや、ダメだ。この最低限の生活ができるだけでも、ありがたいと思わなければ。すべてはプラェルのためだ。
ようやく午後1時になり、本日の勤務が終了した. 合計で8時間労働をした計算になる。かいた汗は『水弾』の魔法で洗い流したから問題ない。
「アレクシア、次は別の市場に行くぞ」
「ちょっとだけ休ませて……」
アレクシアは疲れると途端に大人しくなる。この隙を狙って連れ出すに限る。
「ダメだ。プラェルを救いたくないのか?」
「……救いたいわよ」
意外な反応だ。こいつ、もしかしてプラェルのことが好きなのか? ロリコンめ。あんな可愛い子を、絶対にこんな奴には渡してなるものか。
「なら、行くぞ」
アレクシアは今度は何も言い返さず、大人しく私の後ろをついてきた。




