第16話:魔大陸イントゥーラス
携帯電話を紛失しました...
朝が明けた。今日はプラェルと買い物に行く日だ。ティアが思いきり買ってきなさいと、金貨一枚を俺の手の中に握らせてくれた。
「わぁ! ティアちゃん最高です!!」
「いいえ、ユウカワが色々とお見長を尽くしてくれたおかげですから」
その頃、俺は部屋で自分の義手を外し、長い木の棒を見つめていた。
早く大人になりたい。早く大人になりたい。
俺の頭の中は、その考えだけで埋め尽くされていた。
昨夜のティアの一言が、俺の胸に深く刺さっていた。これがいわゆるラブ……ってやつなのだろうか。
***
俺たちはまず本屋へと向かった。青木まりこ現象だけは、どうか起きないでほしいと切に願う。トイレが遠いからだ。
「お、おにーたん。わたし、おしっこしたいなぁ…。」
まさかこのタイミングで!
「少しだけ我慢できるか?」
「うん…あんまり我慢できないかも…。」
終わった。
俺はプラェルをひょいと抱き上げると、トイレに向かって全速力で走り出した。およそ一キロほど猛ダッシュしただろうか、ようやくトイレが見えてきた。
「はぁ、はぁ……あそこだ! 早く行って済ませておいで!」
「おにーたん、ありがとう」
それから間もなくして、プラェルが中から出てきた。
「これなら、なんで漏れそうだなんて言ったんだよ…!」
挫折したように嘆くと、その声に驚いたプラェルが俺の脚に顔をすりすりと言い寄せてきた。プラェルは背伸びをして、ようやく俺の腰のあたりに届くくらいの縮尺だ。
「おにーたん、ごめんなさい…。」
「いや、俺が悪かった。ごめんな」
あぁ、興奮してしまった。妹に対して。何度も言うが、異世界でもこれは犯罪だ。
アレクシアに渡すための魔獣の本と、俺用の本を購入した。それからプラェルと一緒に市場へと向かった。
「おにーたん、キャンディ。買ってぇ」
「ああ、いいよ」
キャンディを買い、プラェルに手渡した。ティアはプレルと仲良くなりたいと言っていた。女同士には、少しそういう通じ合うものがあるのかもしれない。
色々と買い物を済めて、俺たちは家へと戻った。プラェルは小さな口をモグモグと動かしながらキャンディを食べていた。
今日の出費はおよそ銀貨一枚ほど。残った金は生活費に回すことにしよう。
「お帰りなさいませ! メイドの働く場所へようこそ!」
異世界にもメイドという概念が存在するのか。これは後で、夜中にこっそり来るしかないな。
「十歳以上からご利用いただけます!」
あ。俺はまだ九歳なんだけど。まぁ、誤魔化せるよな?
「おにーたん、何か考えてるのぉ?」
俺がその場所に視線を固定していたことに気づいたらしい。
「あはは、市場に何か買い忘れたものがないか考えてたんだよ」
「そうなの? えへへ」
しれっと嘘をついた。やっぱり鈍感な子で助かった。
***
いよいよ深夜。決戦の刻だ。
ギィィィ……
「ひゃっ!」
扉を開ける音がこんなに大きかっただろうか?
俺は扉を極限までゆっくりと、音を立てないように慎重に閉めた。見つかったら一巻の終わりだ。ティアとプラェルにどう思われるか分かったもんじゃない。プラェルは上手く誤魔化せそうだが、ティアはそれなりに歳を重ねているから鋭い。ドジを踏むことが多いのを除けば、だが。
思ったよりも早く目的地に到着した。俺にとっては、その「早く」すら途方もなく遠く感じられた。実際には一キロほどの距離なのだが、興奮度が大きすぎて百キロくらいに感じられたのだ。
看板に目をやる。
ナイト、タイム?
ナイトタイム。この店には、そんな特別な時間帯があるらしい。後から調べて分かったことだが、ナイトタイムの方がより官能的らしい。ナイス。
「なんで昼間の時間帯よりも人が多いんだよ…。」
少し入るのが躊躇われるが、ぐっと堪えて足を踏み入れた。
「いらっしゃいま……せ?」
ほら見ろ。こうなると思ってたんだ。
「はは。いい天気ですね。そう思いませんか?」
「ええ、当店はお子様も歓迎しております! ちなみに、おいくつになられますか?」
「十歳です」
俺の表情がもの凄く怒っているように見えた。そのためメイドは気まずそうにしていた。未成年がタバコを買いに来た時に、不自然に顔をしかめて大人ぶるというのは、まさにこういう気分なのだろうか。ある程度理解できた気がする。
「はい! 当店は十歳からご利用可能ですが、少々過激な内容となっております。よろしいでしょうか?」
「問題ありません」
厳格な表情と、至って真面目なトーンで言い放った。これでも中身は四十歳を超えているんだからな。
カーテンのような仕切りを捲ると、そこには天国が広がっていた。




