第13話:魔大陸イントゥーラス
朝が来た。
ティアは今日もギルドの依頼があると言っていた。
そんなわけで、俺は朝早くから外に出ていた。
自分の持つ『茨の能力』を意のままに制御するための訓練をするためだ。
ちなみに今回の依頼は、ダンジョンに出没するゴブリンの討伐だ。
訓練を始めて30分ほど経った頃、目の前の扉が勢いよく開いた。
そこに現れたのはアレクシアだった。
「おい! 避けるんだ!!!」
俺のコントロールを離れた茨が、まっすぐアレクシアの身体へと襲いかかる。
幸いにもアレクシアは即座に身をかわした。
おかげで大きな被害は出ずに済んだ。
「な、何するんだよ! 離せ! 離せってば!」
俺は朝の訓練の成果を活かし、制御能力を発揮する。
「デ、デウス・チェイン!!!」
危ういところで、なんとか茨の暴走を止めることができた。
「何なんだ?」
というか。
なんでティアが俺の後ろから現れたんだ?
「あ、ちょっと杖を眺めていただけです。」
本当にこの人は杖がお好きなようだ。
「さて、もうすぐゴブリン討伐の依頼に向かいます。準備はいいですか?」
「はいっ!!!」
アレクシアが元気よく返事をした。
まさかティアがゴブリンごときに遅れをとることはないだろう。
捕まるわけにはいかない。
特にティアは。
***
薄暗いダンジョンの中。
「うぅ、なんだか薄気味悪いなぁ。」
「ユウカワ、もっと怖くなるようなことは言わないでください。」
さっきまで、ダンジョンなら自分に任せてくださいと自信満々に豪語していたあの人物は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「キャァァァァァッ!!!」
アレクシアの悲鳴が、俺の意図とは裏腹にダンジョン内へと激しく響き渡る。
しかし、悲鳴はそれだけにとどまらなかった。
「ギャァ、ギャァ!?」
ゴブリンだ。
「大樹の茨!!」
「炎魔法、地獄の業火!!」
そんなこんなで散々ドタバタしながらも、なんとか迫りくるゴブリン20匹をすべて討伐することに成功した。
その報酬として、俺たちは金貨1銭を手に入れた。
***
「ティア先生、この世界は三角形なのに、なぜ4面じゃなくて3面なんですか?」
ふと、そんな根本的な疑問が頭に浮かんだ。
なぜなのだろうか。
「片方の面は、暗黒の世界なのです。そこには何もありません。ただ、暗黒そのものが存在する、そういう世界です。」
なるほど。
そう説明されると、なんとなくではあるが理解できた気がする。
「あ、言い忘れていましたが、明日は別の場所へと移動します。」
いきなり!?
心の準備すら全くできていないのだが。
「急ですね?」
「ええ、実は家賃が払えなくて。」
「……あれ? ティア先生、その手に持っているのって、新しく買ったクリスタルの杖ですか? しかも青じゃなくて赤色の……。」
俺の指摘に、ティアは気まずそうにパッと顔を背けて、必死に知らないふりを決め込んだ。
家賃が払えないという割に、ちゃっかり新しい杖を買っていたらしい。
というか、そのせいで家賃が払えなくなったんじゃないか?
「申し訳ありません。」
ティアはガクッと力なく項垂れた。
可愛いロリっ娘のミスなら、一度くらいは許してあげられる。
可愛いロリっ娘なら、一度くらいは目をつぶってあげられる。
いや、違う。
理由はどうあれ、ただ許してあげよう。
「どうして、そんなにジッと私のことを見てくるんですか? もしかして、怒ってます?」
「いえ、滅相もないです。」
「怒らなきゃいけないのはあなたじゃなくて、私の方なんですけど。」
これで無事に一件落着、か?
バタンッ!
そんなわけ、ないよな。
「よくも、うちの先生を困らせてくれたなっ!?」
「」
こういう時は、完全に無視するに限る。
アレクシアの怒声を引き留めることもなくスルーして、俺はそのままティアの部屋へと足を踏み入れた。
今日は俺の当番なのだから、これでいいんだ。
「おい、人の話を聞けよ! それに、お前はティアと今日一緒に寝ちゃダメな状況だろ!」
バタンッ!
俺はドアを閉めた。
しばらくして、ティアが部屋に入ってきた。
「あ、あの、もう寝てますか?」
子供っぽい、どこかぎこちない敬語だ。
相手が子供なのだから、まぁ気にはならないが。
「はい。おやすみなさい。」
「ありがとうございます。それでは。」
ティアは俺のすぐ隣に横たわった。
そして、俺たちは静かに眠りについた。
***
預けていた荷物をまとめて、俺たちは街を出た。
どこへ行っても、一人で泊まろうとすると何かと周囲から指摘されてしまう。
まったく、このギルドは世知辛い世の中だ。
なぁ?
『サラダ無料配布』
大きな看板が見えた。
その先には、数多くのインパチェンスの花が綺麗に咲き誇っている。
ここで一大決心をした俺は、賑わう人混みの中へと入っていく前に、ティアとアレクシアの方を振り返って告げた。
「──I'll be back.」




