第10話:魔大陸イントゥーラス
バキッ! ぼかっ! ズドンッ!
三分間も続いていた鈍い打撃音が終わるよりも前に、アレクシアに後ろを任せた。
まあ、大丈夫だ。どうせあいつのことだからな、自業自得だ。
「……ひっく、うぅ……」
すすり泣くティアの身体を優しく叩きながら宥めた。九歳が一体何をして、十七歳にそんな目をされなきゃいけないんだ。
「ありがとうございます……」
ティアはそう言いながら、涙に濡れた目を拭った。酷く怖かったのだろう。もう少し早く来ればよかった。
私はティアを抱きしめて部屋を出た。さらに幼い体だが、どうしても慰めてあげたかった。
ボロ雑巾のようになって気を失った馬面の男の身体を、アレクシアが窓の外へと蹴り飛ばした。
正直に言って、同情の余地など微塵もない。それでも、自業自得なのだからかわいそうだとも思わない。
***
私たちは、失踪したペットを探してほしいという依頼を引き受けている。しかし、そのペットの正体は他ならぬ魔物、トバーロンだ。四つ葉のクローバーのような形態を模している小さくて愛らしい生物だが、その内に秘められた威力は決して可愛らしくない。
「トバーロンを探す依頼を受けました。確認しましたよね?」
ティアは一人で部屋に残されることを酷く怖がっていた。その気持ちは私にも十分に理解できる。私自身、そのようなトラウマを経験したことがあるからだ。
何よりも最高なのは、そのおかげでティアと一緒に眠れるということだ。一日ずつアレクシアと交代で眠る方式ではあるが。翌朝に起きるとアレクシアに叩かれたりするが、それでもやはりこれが最高だ。ある夜には、ティアが寝言を言いながら私の手を握ったことがあったのだが、何か柔らかくて平らな物体が指先に触れた記憶がある。
「トバーロンとは正確にはどのような魔物なのですか?」
ここ最近、アレクシアが魔物や魔獣にやたらと関心を示している。隙さえあれば地団駄を踏みながら、魔物や魔獣に関する書籍をこっそり読もうという気配だ。だが、それも結局ティアに見つかって、これ以上はできなくなっているのだが。ともかく、再び依頼に集中しよう。
「トバーロンはスライム形態の魔物です。見た目は可愛いですが、力がとてつもなく強いので、絶対にむやみに触ってはいけません。もし触ったら……あの女のように、手を丸ごと噛みちぎられることもありますよ?」
「ヒイッ……!」
私の言葉に、ティアが短い悲鳴を上げた。未だにネメシスウルフに噛まれた記憶がトラウマとして残っているようだ。もう三週間も過ぎているのに、夜になると未だに怯えている姿が酷く不憫でありながらも愛らしい。
「ユウカワさん、茨のトゲを安全に抜く方法を教えて差し上げます」
「え? なぜですか?」
ティアは最初、私がまた茨の能力を持つプリンという魔物だと思ったようだ。しかし、オジスチールが茨を悪として使用する者たちは、結局苦しみながら『死ぬ』という事実を知ってからは安心したようだった。
ティアは私に教えるために、過去の四つの家系の間で繰り広げられた戦争、いわゆる『ラグラス戦争』について熱心に勉強したという。異世界の歴史はかなり複雑で難しいはずなのに、私に教えたいという一念だけでそこまで努力してくれるとは。なんだか少し感動してしまった。
「アレクシア、家系の名前を教えてください」
「え? ……ラノス、です」
初めて聞く名前だった。アレクシアが私にだけ教えてくれない秘密なのかと思ったら、案の定ティアもグルだったようだ。
「依頼にはこのように必ず必要です」
なるほど、そうか。
「それでは、そろそろ出発しましょうか?」




