第9話:魔大陸イントゥーラス
母シルフィアの死はひとまず脇に置いておき、俺たちはイントゥーラスの「未知の洞窟」へと向かうことにした。洞窟での狩りに挑むためには、まずギルドの受付で正式にパーティーの評価を受けなければならない。ここ魔大陸イントゥーラスには、特別に「パーティーシステム」というものが存在している。しかし、神大陸アスランではこのシステムはまだ広く知られていない。それもそのはず、神大陸はあの恐るべき三大強者であるオジスチール、バグロール、ヒザミルなどが支配しているため、近づくことさえ困難なのだ。
オジスチールは力を失ったが、その魂は今もこの世界のどこかに残っているという。噂によれば、今の時代に「茨の力」を抑え込める人間を探しているらしい。ソルンガードの悪の組織はその事実を非常によく知っている。もしその人間を見つけたとしても、自分たちの組織以外には絶対にその力を使わせないよう、あらゆる手段で阻むつもりだろう。
「あの...ティア、怖いです」
アレクシアの震える声だった。前方は薄暗くてよく見えない。俺たちはギルドでのパーティー結成を終え、まさに今、不気味な魔力が漂う洞窟の内部へと進入している最中だ。パーティーは最低でも4人以上でなければ組めないシステムだったため、人数を合わせるために仕方がなくあの馬頭男もついてきた。あいつ、さっきから目が怪しいぞ。後ろからニヤニヤしながら俺の背後を狙っている。襲いかかってきたりしたら、その時はタコ殴りにしてやるからな。
クオオオオオオッ──!
突如、鼓膜を破らんばかりの恐ろしい怪音が、静まり返った洞窟の中に響き渡った。
「ネメシスウルフです。みんな緊張しないで、静かに」
ティアが俺たちを安心させるように、落ち着いた声で言った。
「はい...」
アレクシアが小さく返事をした。普段は俺の言うことなんて聞きもしないくせに。
その瞬間、ネメシスウルフの子供がアレクシアのすぐ背後の岩陰から激しく飛び出してきた。小柄なその魔獣の頭には、妖しく光る赤い宝石が埋め込まれていた。あの魔獣は成長して成体になると、その宝石が禍々しい紫色に変わるのだ。
「ハロー、おチビちゃん」
アレクシアが、あろうことかネメシスウルフに向かって警戒もせずに手を伸ばした。どうやら無邪気に触ってみようとしたらしい。
バキキッ──!
「うわああああっ!」
どうやら、完全にやらかしたようだ。怒り狂った魔獣の鋭い爪が空を裂いた。
「逃げろっ!!!」
馬頭男が情けない悲鳴を上げた。俺たちは全速力で洞窟の奥へと走り込んだ。しかし上空の暗闇からは、音を立ててネメシスウルフの群れが容赦なく襲いかかってくる。
「はぁ...はぁ...!」
行き止まりに追い詰められ、俺たちは荒い息を吐き出した。敵の数が多すぎて、正面から完全に脱出するのは不可能だった。
「緊急脱出の水晶を割ってください、アレクシア! さっき私が渡したやつです!」
ティアが必死の形相で叫んだ。
「あっ」
嘘だろ? おい? まさか忘れてきたのか? マジで言ってるのか?
***
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...」
なんとか生き延びた。テレポートストーンは見つけたものの、あの馬頭男がパニックになってそれを地面に落とし、床で暴発させたせいで、俺たちは目的地ではなく元いた宿の部屋にそのままテレポートして戻ってきてしまったのだ。マジでぶっ飛ばしたい。パーティーを組んだ仲間は、同じ宿で最低1回は泊まらなければならないというシステム上の絶対ルールがあるらしい。あの馬頭男のバカと同じ空間に一晩中いるなんて、本当に御免被りたい。
***
隣の部屋にいるティアのことが心配だ。あの馬頭男が不穏な動きを見せたり、襲いかかったりしたらどうする? 一晩一緒に過ごさなきゃいけないなんて、気が狂いそうだ。胸騒ぎがしてじっとしていられなくなった、その時だった。
「ひっひっひ、いくら暴れたって無駄だぜ?」
隣の部屋の扉の向こうから、おぞましい下卑た男の声が聞こえてきた。俺は逆上し、勢いよく扉を蹴り開けた。その瞬間、俺の目に飛び込んできた最悪の光景──。
涙に濡れたティアの可憐な瞳、氷魔法で強制的に閉ざされた口、そして上着が乱暴に剥ぎ取られて露わになった、白く滑らかな肌だった。
馬頭男のやつは、ティアの細い腕を無理やり床に押さえつけていた。殺す。絶対に生かしてはおかない。
俺は完全にブチギレて、眠っていた「茨の能力」を爆発的に発動させた。床から無数の黒い茨が植物のように急成長し、馬頭男の体を締め上げるようにぐるぐると縛り上げてやった。茨の鋭い刺が、やつの肉に深く食い込んでいく。
「ぎゃあああっ! 刺さる! 痛てえ! おい、これ今すぐ解けよ!」
誰が解くかよ、このクソ野郎が! 地獄の底で後悔しやがれ!
「アレクシア!!」
その時、異変を察知したアレクシアが部屋へと激しく駆け込んできた。黒い茨に無残に縛られ、床を惨めに転がっている馬頭男を見たアレクシアの瞳は、まるで新しいおもちゃを見つけたかのように、不気味で妖しい光を放っていた。




