第二章:いいな、と思った
数日後。
湿った冷房の風が、満員電車の車両を通り抜ける。
会社員は、つり革に掴まりながらスマホの画面を指で弾いていた。
お気に入りの猫画像の投稿。それらに混じって、ふと綺麗な浜辺の画像が流れてきた。
画面の主は「bike_chika_masato」というアカウントだった。
画面に映し出されたのは、カメラは少し低い視点から、青く澄み渡った空と、透き通るほどの青い海と白い砂浜が映っていた。
その眩しい白波の合間で、二人の子供が転げ回るように遊んでいた。
「見て、まさちゃん! あっちに大きな貝殻があるよ!」
子供の弾むような声。
カメラの後ろから、母親の穏やかな笑い声が聞こえる。
風景を撮ることにこだわっていた主の、どこか不器用なカメラアングル。
その素人っぽさが、かえってこの家族の「飾り気のない日常」をリアルに際立たせていた。
過度な演出はない。
画面の中の少女が、波打ち際で転びそうになり、主が慌ててカメラを置いて駆け寄る。
「大丈夫か?」という父の安心感に満ちた声と、それに続く家族全員の笑い声。
その動画は、投稿から数時間で信じられないほどの拡散を見せていた。
タイムラインを埋め尽くすコメントの数々。
どれもが、この温かな「家族の光」を称賛し、羨望の眼差しを向けている。
会社員は、満員電車の息苦しい空気の中で、その画面を食い入るように見つめた。
「……いいな」
思わず、独り言をつぶやいた。
その画面に表示されたハートマークを指で押した。




