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第七十三話 快速の銃撃戦

黒逸軍は次の戦場へ向け進軍していた。


ポロポロの舞い落ちる雪の中、兵士たちの口からは白い吐息混じりに『ジングルベル』を歌っている。


シュヴァルツとバウムガルトナーは隊列を離れ移動式の鳩舎(きゅうしゃ)の前で待機していた。


「大尉、何してるんですか?」


「伝書鳩を待っている、この小屋の鳩は帝都と原隊をつなぐ新聞社の報道用のやつなんだが今は使われてないみたいだったから勝手に使わしてもらってるんだ。これがあれば軍部の検閲を受けずにベックたちとやり取りができる。だから来ないかなぁ〜と待っているところだ」


「最近梨の(つぶて)ですしどうでしょうか。軍事に関係ない鳩小屋をずっと運ぶっていうのも兵士から反感買ってるのでそろそろ放棄しないとだめですよ」


「わかってるさ、これで来なかったら諦める。

鳩ちゃんどこいったのかなぁ、迷ったか、猛禽(もうきん)類に食われたか」


しばらく遠方の空を見上げていると一羽の小鳩がパタパタと飛んできた。


「おっ?帰ってきたか!」


足には小さな筒が備わっている。鳩が小屋の中へと帰還するとシュヴァルツ大尉は筒から通信文を取り出した。


「無事に帰って来られてよかったですね、大尉」


「ああ、党に叩き潰された新聞社に感謝だぜ」


通信文は手紙と何やら地図が描かれた紙が一枚ずつ入っていた。


「え〜と何々…?


『親愛なるSへ。1月14日、ヘルダーリン総統は休暇をとり自身が所有する邸宅である山荘へと赴く。場所は同封した地図を参照されたし。作戦完了後、我々が大尉のために確保した逃走経路にて帝都を離れる。経路も地図を参照されたし。以上、Bより』」


その手紙を呼んでシュヴァルツはほくそ笑んだ。帝都の二人も順調に事を進めていた。


「大尉、この『S』と『B』っていうのは…」


「シュヴァルツのSとベックのBだ。万が一紛失して他の連中に拾われた時のことも考えて匿名にしておいた。この地図に描かれた経路も実はフェイクだ、党の連中に待ち伏せされたら困るからな。火がつかない程度に熱してやるとミカンの搾り汁で描かれた本当の経路が焦げて炙り出てくる。あらかじめ決めていたことだ」


大尉の用意周到ぶりにバウムガルトナーは改めて実感する。シュヴァルツは本気なのだということを。


「さ、行こうか。隊列からはぐれたらまずい」


受け取った通信文をポケットにねじ込むと二人は鳩小屋を放棄して立ち去った。


部隊はとある場所に到着した。そこは工兵によって線路が敷設された駅舎だった。


「ここは……」


「軍需品や兵士を輸送するための駅だよ。ここから列車に乗って国境へと向かう。そこで他の部隊と合流予定だ」


二人が不思議そうにボロ臭い駅舎を見ていると上官のアーデルハイト少佐が歩いてきて説明した。


「少佐、目的地は?」


「ヴェールカナン地方だ。そこに敵軍が大攻勢を仕掛けてくるとの情報があった。私達も他の部隊と合流して迎え撃つ」


まもなく駅に装甲列車が到着した。


「装甲列車の搭載能力を活かして歩兵工兵、砲兵通信兵衛生兵。戦車なんかも運べる。諸兵科をいっぺんに運べるのが魅力だよな、部隊移動には欠かせん。本来の装甲列車は線路の防衛が任務だが、ちょうどヴェールカナンの方に移動すると聞いて私が頼み込んだんだ」


BP42装甲列車はBR57装甲機関車を先頭に戦車運搬車、榴弾砲車、兵員輸送車が連結していた。

統一感のある美しい列車にシュヴァルツは目を輝かせながら乗車した。

車列の中に38軽戦車が運搬車の上にちょこんとそのまま載せられて砲として流用されている光景は面白かった。


そうこうしているうちに列車はゆっくりと動き出す。

兵員輸送車の中は椅子などという高等なものは何もなく、板材の床と分厚い走行に覆われてるであろう壁が床に寝っ転がったり座ったりしている兵士たちを囲んでいた。


兵士たちは車体の入り口を開放し二人は流れ行く景色を風に吹かれながら眺めていた。


「おい!あれがグスタフじゃないか!?」


兵士の一人が声を大きくして喋る。反対側にぞろぞろと集まる兵士たち。シュヴァルツも例外ではない。


グスタフと冠した陸戦最大の列車砲の名前を聞いて腰をあげないミリオタなどいないのだ。

なだらかな田園風景の先に天に伸びる巨大な砲身の側面が見える。


その巨大兵器を見た兵士たちは一様に歓声をあげた。


「すげぇ〜ッ!!本物だ!本物の列車砲だ!カッコいいなぁもっと近くでみたいなぁ、撃って都市区画ごとふっとばしてはくれないかなぁ!」


バウムガルトナーが引くほどシュヴァルツは興奮している。顔を赤らめて両拳を上下に振っていた。


「あ、あのぉ、大尉……」


「なんだ、今忙しいんだよ」


シュヴァルツは興奮気味に答える。


「いえ、お客さんです。多分敵だと思うんですけど」


バウムガルトナーは車両の外を指差した。


「はぁ?こんなところにか?」


シュヴァルツは首を傾げる。

バウムガルトナーの指先は地平を指していた。よく見るといくつかの車両が並走しながらこちらに近づいてきていた。


「あれは…北ナ連の軍用車だ!11台こちらに向かってくる!」


DShK38重機関銃を車載したGAZ-67が装甲列車に近づいてくるのが見える。


「ええっと、確かあの車両の要員は4名だから多く見積もって40…敵数40ッ!!今すぐ迎撃するぞ!」


「はいッ!」


バウムガルトナーの返事が響くと他の兵士たちも木箱から武器を取り出して車外に構える。


敵襲の情報は指揮官車で昼寝をしていたアーデルハイト少佐にも届いた。


「なに!敵襲だと?」


「はい!見(はか)られました!おそらくあの駅舎からついて来ていたと…敵は軍用車に乗っています。車載機関銃も確認できます」


「クソ、軍用車か…速度ではこちらが劣るが奴らに装甲はぶち抜けまいッ!今すぐ砲塔を向けて奴らを撃滅せよ!」


「はっ!」


分厚い装甲と鋼鉄の荷物を載せた列車はどう見積もっても60キロ以上の速度は出せない。対して相手の車両は90キロを出せる。雪が積もっているという不整地の悪路であっても速度は敵のほうが上なのだ。


即座に榴弾砲車と運搬車両に鎮座した軽戦車の回転砲塔が敵へと向けられる。


一斉に射撃が開始された。

しかし敵の車両を捉えることはできずに榴弾は虚しく外れて炸裂する。


「くそ、当てられないのか!」


「向こうが速いんですよ、さしずめ北ナ連版ジープといったところですね」


「むぅ……」


アーデルハイトは悔しそうに唇を噛んだ。

敵兵たちは車載機関銃で装甲列車を攻撃しながら兵士を牽制している。すると数台の車両が前へ出始めた。


その車両に乗る兵士はテープで包まれた箱型の何かを取り出した。少佐はすぐに気づく。


「まずい!奴ら梱包爆薬を持っている!路線を爆発させて脱線させる気だ!」


少佐が冷や汗をかいた瞬間、その不安は一つの爆発と共に吹き飛んだ。

先行しようとしていた車両の一台に兵員輸送車から飛んできた弾頭が直撃しそのまま大爆発を起こしたのだ。


「…なるほど、杞憂と言うわけか」


少佐はいらぬ心配をしたと胸を撫で下ろして微笑んだ。


そう、この列車には怪物が同乗していたのだから。


「もっと弾頭もってこいッ!間に合わんぞ!!」


声を荒らげていたのは片膝立ちでパンツァーシュレックを肩に載せているシュヴァルツ大尉だった。

困惑し(おのの)いていた兵士たちをまとめ上げてテキパキと指示を出していた。敵兵はその脅威に気づき声を荒げる。


「兵員輸送車からだッ!あの射手を黙らせろ!!」


銃撃の矛先はシュヴァルツへと向けられた。しかし放たれた弾丸は発射器の防盾に弾かれる。


「そんな鉛玉にビビるとでも思ってんのかァ!!」


「はい大尉!追加の弾頭です!」


バウムガルトナーが装填手となりシュヴァルツがレバーを引きコッキング、引き金を引くと点火され発射した。


「あっちぃッ!」


射出後推進剤が燃焼しつつける影響で大尉の手元に弾頭の燃えカスが地肌に吹き付ける。防盾のお陰で顔は一応守られるが手だけは避けられなかった。


「大尉、手袋を!」


「んぁ!?今手ぇ離せねぇんだ!!火傷なんか死に比べりゃ軽いだろッ!それより手を動かしてくれ!」


バウムガルトナーはそれを渋々受け入れて兵士たちを動かす。


「大尉を援護しよう、こんなに命中率の高い射手を失うわけにはいかないからね」


兵士たちは次々と敵へ向け銃撃を繰り出していく。

対する敵兵はぎりぎりまで列車に近づいて手榴弾を投げ込むなどして兵士を殺傷していった。


「5号車がやられました!」


「俺たちで仇を撃つぞ!」


燃え盛る車両を引き連れて装甲列車は突き進む。


「この先は鉄橋だ、奴らも追っては来れんだろう」


少佐は額の汗を拭き取って安堵した。


「大尉、あと少しですよ」


バウムガルトナーの言葉を聞いてもシュヴァルツは険しい表情のままだ。


「……あ〜あカッコつけ過ぎちまった、やっぱりこういうことはやるもんじゃないな」


大尉の手の皮膚がただれ深層の真皮まで見えてしまっていた。バウムガルトナーは眉をひそめて「大尉、すぐに手当てしますから……!」と心配そうにつぶやく。


「いらんいらん、俺はここにいなきゃ…」


「大尉!」


バウムガルトナーの真剣な表情で大尉を叱責した。その顔つきに圧倒されて「お……おう……」と情けない返事をする。


「大尉がいないと私は困るんです!だから怪我なんてしないでくださいよ!」


「……わかったよ、善処する」


「仲間を信じましょう。何でも一人で背負ってはいけませんよ」


大尉はあたりを見渡す。すると兵士たちが大尉に向かっていた親指を立てたり、笑って応えてくれた。


「…そうだな、仲間を信用しすぎないのもだめだな」


パンツァーシュレックを放棄すると大尉は後ずさった。


「安心してくださいよ、パンツァーシュレックの射手の代わりはいますから」


大尉の頭上にはてなが浮かぶ。すると厚手の手袋とガスマスクを装備した一人の軍人がやってきた。


「うわっ!誰だよお前!」


「リーブフントですよ大尉」


「…そうか!なら安心だ」


リーブフントは代わりにパンツァーシュレックを装備して敵へと発射し始めた。シュヴァルツはその場を離れて軍医がいる車両へと向かっていった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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