↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/85

第七十二話 潜伏

党本部の入口の門に立てられた小さな警護所の中、一人の門番の兵士が新聞を読んでいた。


そこに一人のタートルネックのセーターとコートを着た少女が背後に3人の男を連れてやってきた。


「おーい止まれ」


門番のところに寄った少女は窓口に腕を置く。


「何?急いでいるんだけど」


「お前たち何者だ?」


「私たちはヨハンセン社の技術者よ。命令で重戦車の設計図を作図して持ってきたの。私が代表」


「ヨハンセン社?聞いたことないな。それに命令だと?誰からだ」


()からよ、一番上のね」


「…待ってろ、今確認をとる」


門番が受話器に手を伸ばした。まずいと思った少女が「う゛っ…」と心臓を抑えるようにして姿勢を下にする。


「おい大丈夫か!」


門番が受話器を置き警護所の窓から頭を出して下を見た瞬間、その隙を狙っていたかのように男たちが腕を回して門番の首をギュッと締めた。


しばらく抵抗していた門番もやがてぐったりと動かなくなったことろで少女は立ち上がった。


「…門番はクリア、これでいい?ベック」


タートルネックの首元を緩め、髪をかき上げると少女の細い首と耳に装着されている咽喉(いんこう)マイクが姿を表した。


「あぁよくやったクラウスナー。本部の構造は覚えているから私の言う通りに動いてくれ」


咽喉マイクは喉の振動で相手に声を届けるマイクだ。雑音が入りにくいこと、小声でも相手に伝わることが最大の利点だ。


「さぁ、静かに暴れてやれ」


ヘッドホンを装着していたベックはそう指示を出した。


「了解」


四人は党本部の入り口のガラス戸を押して入る。

建物内は小洒落ていてモダンな雰囲気だがどこか古臭い感じもした。


党旗がアチラコチラに飾られた政治色の強い建物の受付を通り過ぎようとしたとき、奥から警備員らしき男が数人出てきた。


「どうされましたか?」


「あの……道に迷ってしまいまして」


「あぁそうですか。どちらへ行かれますか?」


「えっと、会議室Bというところに行きたいんですけど」


「あぁそれならここ4階ですね、エレベーターがございます」


「ありがとうございます」


クラウスナーは軽く会釈をしてその場を去る。


「ベック、4階でいいのよね?」


「ああ、扉が開いたらまっすぐ進め、その右の突き当りの先が会議室だ。大事な情報は大抵そこにある」


そしてそのままエレベーターに乗り込み4階のボタンを押し扉を閉める。


目的の階に着くと、エレベーターの扉が開いた。


進むと区画を仕切る扉の両端に銃を構えた二人の兵士が立っていた。


「止まれ!どこへ行くつもりだ!」


兵士の一人が怒鳴る。


「ちょっ、ちょっと道を聞こうとしただけです。私たち何も悪いことしてませんよ!」


クラウスナーが慌てて弁解するが、兵士は引き下がらない。


「この先は関係者以外立入禁止区域だ!すぐに立ち去れ!」


「…面倒ね、コイツラから軍服奪っていいわよ」


少女の指示により三人が兵士に近づく。


「おい!何をするつもりだ!」


兵士たちが制止しようとするが遅かった。

一人の兵士の懐に入った男がその腹を思いっきり殴った。殴られた衝撃でくの字になった男の顔をもう一人の男が掴み床に押し倒す。

瞬時に二人の兵士を気絶させ軍服を奪うと残りの一人の男は半裸の兵士をズルズルと引っ張ってトイレへと運んだ。


「着替えてきます、クラウスナー」


「はい、迅速に」


少女と二人がトイレに入り数分後、兵士の格好で出てきた。


「よし、行くぞ」


クラウスナーが先頭になり、通路を進んでいく。

突き当たりの角を曲がるとそこには複数の兵士がいて、警戒態勢に入っていた。


「おいお前ら、そこで止まれ!」


「はい」


4人は直立不動の姿勢になる。


「ここは関係者以外立ち入り禁止区域である、即刻立ち去れ!」


「私はヨハンセン社の代表です!設計図を届けにやってきました」


少女が返答すると、クラウスナーの背後の兵士に変装した男たちも擁護する。


「彼女は我々が連れてきた技術者です」


「この者たちは私の護衛であり案内役なの、驚かせて悪かったわ」


「なっ、なんと!」


「失礼しました!」


兵士が一斉に敬礼をする。


「いえ、こちらこそ紛らわしくてすいませんでしたっと。ではこれで」


クラウスナーがそう言った瞬間、兵士は口を開いた。


「会議室にはベッケンバウアー総司令官がおられますが…」


「…そう」


クラウスナーは無視に近い形でそのまま会議室へと向かった。しばらく歩くと、大きな扉の前で止まった。


「ベック、想定外の事態よ。総司令官がいる」


マイク越しに聞こえてくる声は不安そうだった。ベックはクラウスナーを落ち着かせる。


「安心しろ、なんのための部下だ。男たちを使って総司令官を会議室の外に追い出せ」


少女は扉をノックする。


「誰だ」


不機嫌そうな声が聞こえてくる。クラウスナーは3人の仲間に本番を告げるアイコンタクトを送った。


「ヨハンセン社の技術者です」


「…入れ」


少女は扉を開き中に入る。


「失礼いたします」


執務机には総司令官が鎮座していた。丸眼鏡のレンズの奥から放たれる眼光に思わずクラウスナーは身を縮める。


「なんだ貴様、ヨハンセン社だと?そんな会社は知らないね」


「落ち着いてください総司令官。実は総統が我が社に極秘で委託してくださっていた重戦車の設計図をご覧になってもらおうと訪ねてきた次第ですよ」


「総統が?そんな話は知らないな…まさかあいつ隠し事してたのか?このウチに」


クラウスナーは周りを見渡す。戸棚にはぎっちりと何らかの書籍が詰まっており、執務机の上には書類が散乱していた。


「(なんとか総司令官の目を盗んで情報を集めないと…)」


「貴様がその代表というわけだな。とりあえず座ってくれ、ここまで疲れたろう」


総司令官とクラウスナーは部屋の中央の応接ソファに対面して座った。


「どうしたんだ、早く見せろ」


「はい、これです」


少女が鞄から取り出したファイルを受け取ると総司令官はそれを流し読みしていく。


「ほぉ……これがそうなのか?」


「はい、我が社が総力を挙げて製作した傑作です」


「ふむ、戦車にも製図にも詳しくないからよくわかんないな」


「(適当にそれっぽく描いた設計図だけどちゃんと見なけりゃわかるまい。少しでも()()で総司令官を縛れれば…)」


すると総司令官はポケットからタバコを取り出した。


「あ、そういえば空だった」


一本も入っていないタバコの箱を総司令官は苛立って握り潰してポケットに戻した。


すると背後にいた軍服姿じゃない男がフォローに入る。


「私待ってますよ。よかったら一緒に吸います?」


ベッケンバウアーは口角を上げて笑みを浮かべる。


「じゃあいただこうか」


「代表は喘息(ぜんそく)でタバコの煙がだめなので外で吸いましょう」


「そうだな。ええっと代表、5分ほど席を外そう。そこの兵士!この来客をちゃんと見張っていてくれよな」


男のアシストにより彼と総司令官は部屋の外に出た。一本ずつ煙草をくわえて火をつけた。


外からは男と総司令官の楽しそうな談笑の声が聞こえる。兵士に変装した男二人とクラウスナーはすぐに行動を開始した。

まず執務机の引き出しを開けて書類を漁る。


「(これは軍略の本か。こっちは……ん?これは地図帳か。ということはこの辺にあるはずだけど……)」


クラウスナーが探しているのは総統の予定が記載された情報だ。


「(総統がいつ何をするのか把握できれば動きやすくなるはず…)」


しかしなかなか見つからない。


「クラウスナーさん、こっちにはありません」


「そっかぁ、もうちょっと探して見て」


「わかりました」


その時、クラウスナーは小さな手帳を見つけた。

パラパラとめくっているとそこには総統がいつ誰と会うのかなどが事細かに書かれているのを見た。


「これだ!これだわ!おそらくここに1月14日の予定が…」


クラウスナーは喜んだ。これで任務完了だ。手帳をポケットに突っ込んだ瞬間どうやら外が騒がしくなってきた。


廊下でタバコを吸っていた男と総司令官のもとに銃を携えた兵士が駆け寄ってきた。


「なんだ貴様ら騒がしい!廊下では静かにしろ!」


「ベッケンバウアー総司令官!トイレで半裸の状態で拘束されていた兵士を2名発見いたしました!犯人は軍服を奪って潜入していると思われます!なにか怪しい人物は見かけませんでしたか!?」


総司令官はすぐに思いついた。


「ヨハンセン社の代表とやらが設計図を持ってきていたな…二人の兵士を連れて…二人ッ!?まさかッ!」


ようやく気がついた総司令官はタバコを捨て目の前の男の捕縛を命じた。さらに会議室の中にその人物がいることも告げると兵士たちは急いで部屋へ向かった。


「外が騒がしい…。バレたかも…逃げよう!」


三人が行動する前に駆け寄ってきた兵士たちは扉を蹴破って銃を構えた。


「動くなッ!!」


クラウスナーたちは気にも止めず窓ガラスに体当たりして外へと飛び出した。そのまま下の駐車場の車のボンネットに受け身をして着地すると党本部の敷地外へ向け走り出した。


「追えっ!!逃すなァ!!!」


クラウスナーたちは柵を乗り越えて、姿をくらませた。


兵士に押さえつけられたクラウスナーの仲間の一人はベッケンバウアーに見下されていた。


「よくも騙したなぁッ!何をしにきたッ!洗いざらい喋ってもらうぞこの大罪人がッ!!」


腹部に強烈な蹴りを食らわせる。男は吐血しながらも屈強そうに笑った。


「誰が喋るかよ。いづれお前たちは痛い目を見ることになる」

 

「チッ、獣が。逃げたやつを逃すな!秘密警察も動員して見つけだせ!!」


男に唾棄して総司令官はその場を離れた。水面下で動くクラウスナーたちの行動が帝国に一石を投じ、それが良くない波紋を生んで広がっていることに軍はようやく気が付き始めたのだった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。