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第六十八話 戦火燎原

シュヴァルツたちが帝都に滞在している間、戦争は粛々と進められていた。

高地の塹壕の周りでは部下たちが整列し、アーデルハイトの命令を待つ。


「諸君、私はこれから師団長の命令により別の前線を叩きに行くことになった。私が留守の間、この陣地を任せるぞ」


アーデルハイトの言葉を聞いて部下たちは敬礼をする。


「了解です、少佐もお気をつけて」


部下たちの言葉を聞いたアーデルハイトはニコッと笑うと踵を返して軍用車に乗り込む。そしてそのまま軍用車は出発し、工兵によって整備された山道をたどるように下っていった。

軍用車の後部座席にはアーデルハイトの他にもうひとり、少尉のバウムガルトナーの姿があった。


「少佐、今回の作戦について詳しく説明していただけますか?」


バウムガルトナーはアーデルハイトに尋ねる。


「ああ、もちろんだ」


アーデルハイトは笑顔を浮かべながら答えた。


「今回我々は総統の侵攻作戦を実行する前の準備をしなければならない。まず最初に、我々は帝国軍が誇る最新兵器『80cm列車砲』と重砲部隊の自走砲を使って敵の前線拠点を攻撃する。その後、その敵拠点を壊滅させるために機械化歩兵部隊を投入して旧国境まで攻め入るという流れになっている」


「なるほど……しかしそんなことをすれば味方にも被害が出てしまうのではないですか?いくら相手を倒すためとはいえ、あまりにも犠牲が大きくなってしまうと思いますが……」


バウムガルトナーは少し不安げな表情を浮かべる。


「確かに君の言う通りだ。だが、我々に与えられた任務はあくまで敵を押し戻すのであって敵軍の殲滅ではない。我々の攻撃によって生じた損害についてはこちら側で責任を取るつもりだ」


アーデルハイトの言葉に対してバウムガルトナーはまだ納得がいっていない様子だった。


「それならいいのですが……それで、もし仮に敵を押すことに成功したらどうするんですか?その後は?」


バウムガルトナーは尋ねる。


「そうだな、おそらく敵の補給線は完全に断たれることになるだろうからしばらくは撤退を余儀なくされるはずだ。国境まで領土を取り返すだけでいいんだ、敵国に侵入してしまえばシュヴァルツの計画が破綻する、大事なのは旧国境での停止だ」


アーデルハイトの説明に対してバウムガルトナーはようやく納得したような顔を見せる。


「そういうことですか……やっと理解できました」


「よし、そろそろ着く頃かな」


軍用車を止め外に出ると丘へと登るそこから見えた光景に思わず少尉は息を呑む。


「あれが…列車砲…!」


「そう、グスタフ、ドーラの2基だ。3基目はまだ建造中らしいが…」


そこには巨大な鋼鉄の塊が存在していた。

総重量約1350トン、全長47.3m、砲身長32.48m、射程は最大48km。

装填に数十分間の時間がかかり一日で14発程度しか発射できないがそれでも陸上史上最大の陸戦兵器であることには変わらない。


2基の列車砲の周りには戦車や兵員を運ぶ装甲車が配備されていつでも攻撃できるようになっている。

さらに周囲には自走砲部隊が配置されており、列車砲が装填準備をしている間は彼らが野戦砲としての役割を果たすようになっている。また、後方では兵站部隊が物資の補給を行っており、万全の状態で砲撃を行えるようになっていた。


「これが我が軍の誇る最新最強最大の火力だ!これさえあればどんな敵も根負けして退散するだろう!」


アーデルハイトは高笑いしながら叫ぶ。

それから数時間後、ついに砲撃が開始される。


「総員退避ィーーっ!!」


足早に列車砲から離脱していく兵士たち。

砲身は空を仰ぐように向いている。


「撃てェッ!!」


轟音と共に放たれた砲弾は凄まじい速度で飛んでいき目標地点で炸裂した。落雷のような砲声、後退した列車砲が定位置に戻ろうとする時の振動、それらは遠く離れたこの場所でも感じられた。


「すごい……」


「列車砲が敵陣を更地にするんだ、そこで私の第一装甲師団の大隊が突撃し、敵の拠点を潰す」


アーデルハイトは得意げに語る。


「残してきた守備隊の分も頑張ろうな」


V号戦車パンターやVI号戦車ティーガーI。駆逐戦車のヤークトパンターやヘッツァー、その他にも高射砲アハトアハトを牽引しながら兵員を運んでいる半装軌車などが指揮官車に導かれるように侵攻を始めていく。


ナースホルン、フンメル、カール自走臼砲などといった自走砲も定位置に着くと砲の斜角を上げ砲弾を射出する。


第20歩兵大隊と戦車部隊を率いるアーデルハイトは出撃を前にして兵士たちを激励していた。


「諸君、我々はこれより敵陣を攻略する!これまで幾たびもの苦難を乗り越えてきた諸君らならきっとやり遂げられるだろう!」


彼女の言葉に兵士は沸き立つ。士気は高い。これならば勝てるはずだ。彼女は確信した。


「では行こうか」


そう言って彼女が手を上げると、一斉に戦車が前進を始める。それに合わせて歩兵たちも進撃を開始した。

――蹂躙が始まったのだ。


「では少佐、私も撃ってきます」


バウムガルトナーがアーデルハイトに敬礼を済ますとGew43半自動小銃を持って出撃していった。


アーデルハイトは一人になった。


砲声も砲撃も鳴り止む気配がない。一人、列車砲と共に残された少女は後ろから声をかけられた。


「遅刻した遅刻した!野戦憲兵に捕まって手間取っちまった…!もう大隊は出撃したのか!?」


「…あぁ、遅かったなシュヴァルツ、リーブフント」


「全く総統もいきなりだな、総攻撃を仕掛ける前準備を全軍に命じるなんて…」


「戦勝続きで浮かれているのだろう、敵都シムトカフの攻略も企ててるという噂も軍部から聞いた」


「マジか?そこまでやられると俺たちの計画がパァだぜ」


「安心しろ、総統も軍部も様子見の為に旧国境手前で進軍を停止する予定だそうだ。…目論見通りだな大尉」


「あぁ、いくら調子が良くとも敵国本土に攻め入るには情報も必要だろうからなぁ。で?いつまでに到達予定なんだ?」


「…年明けだ、1月の14日までには旧国境に到着予定だ」


「じゃあ、実行はその日だな。1月14日、その日が二人の悪魔の命日だ」


具体的な作戦も決まり大尉は嬉しそうに笑った。


「じゃそれまでにちょっとでも活躍してくるかな。リーブフント、軍用車の準備を」


「…」


コクリとうなずいたリーブフントはその場を立ち去った。


アーデルハイトとシュヴァルツは二人きりになった。これから地獄になるであろう眼下の景色を味わうように見つめていた。


「もうすぐ戦争は終わるのか」


「いいや終わらんさ、少しの休戦があるだけで。その期間をちょっとでも長く楽しめるように生きるのさこれからは」


風が二人の間を通り抜ける。大尉は耳障りな機械音を感じ取った。


「…少佐!エンジン音が聞こえる!敵機かもしれない!」


大尉が指を指すと空の果てから急降下爆撃機Tu-2の群れが編隊を組んで飛んできた。


「まずい…!急降下爆撃隊だ!とにかく伏せろッ!!」


少佐は大尉の頭を抑え込み二人共地面へと伏せる。予想通り双発の機体はゆっくりと地上へと降下すると爆弾倉を開放して黒い爆弾を豪雨のごとく降り注がせた。


めくれて降り注ぐ土壌の雨。戦火は星火燎原のごとく草を伝って燃え広がる。


「退避壕はないな…どうするよ、囲まれたぜ」


「なんだ弱音か?らしくないぞ」


踊る炎が皮膚をチリチリと焦がす中、アーデルハイトは不敵に笑った。


「部下を呼べばいいじゃないか、せっかく取りに行かせたのだから」


その意味に気づき大尉も同じように笑った。


「あぁ、()()()()()


大尉が指を鳴らすと業火の中をキャタピラをぶん回して突っ切った車台がリーブフントを乗せて二人の横に登場した。


「おいおいリーブフント、俺が注文したのは軍用車であって対空戦車じゃないぞ」


リーブフントが乗ってきたのは四連装の対空砲を戦車用車台に搭載した対空戦車、ヴィルベルヴィントだった。


「何?『この対空砲で敵機を黙らせてやろう』?わかってるぜ、言われなくても」


空には攻撃を受けていない敵機が悠々と飛んでいる。

車台に登り天井の開いた九角形の砲塔の内部に乗り込むと少佐に手を伸ばした。


「いよいよだ少佐。『始まりの終わり』を始めよう」


「あぁ」


手をガッチリと掴んだ少佐。対空戦車は戦火を突っ切って突破するとそのまま味方が戦う戦場へと向かった。


黒逸の攻撃は北ナ連の首都にいたココーシナ総書記の耳にも届いた。


「も、申し上げます同志!ただいま黒逸軍と北ナ連軍で衝突が起こっています!敵国が一部の地方に軍を集中配備している模様です!大規模な攻勢の予兆かと!」


「なんじゃと!?」


党本部にいたココーシナとコチェグラ総司令官は(いぶか)しむ様子を見せた。


「徹底抗戦を命じます、奴らに我が祖国の土を踏ませぬよう」


「ま、待てコチェグラ!わしの許可なく命令を…ッ!」


「早く行ってください」


一人の青年は報告を終え、代わりに総司令官の命令を受けるとすぐに敬礼を済まして立ち去った。


コチェグラはココーシナの息遣いが荒くなっていることに触れた。


「総書記、大丈夫ですか?体調が優れないようでしたら…」


「ココーシナ、毒だ!毒を入れられたのじゃ!」


「?」


「今日の朝食に毒を入れられたのじゃ!担当した料理人すべてを放逐して殺せ!」


総書記は半ば狂乱じみた状態だった。コチェグラもあしらうように「わかりました」とうなずくと部屋を速やかに出ていった。


「(パラノイア的症状の予兆が見られます…自分が作った料理に毒が入っているはずないのに)」


コチェグラは軍服の襟を直して廊下をあるき出した。


「総書記ももう終わりかもしれませんね、狂人になりかけの人物に国務は務まりません。私が…私が率いなければ」


混沌とし始める戦場で彼女らの心境を示すように空は暗がりだした。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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