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第六十九話 悪魔に問答無し

黒逸軍の猛攻に対して北ナ連は徹底抗戦の姿勢を見せていた。そのため両者は睨み合いを続け武力衝突へと至っている。

目の前に広がる光景はまさに蹂躙と呼ぶに相応しいものだった。

互角の火力によって両軍の兵士は次々と倒れていく。

戦車が主砲を放ち、歩兵が持つ機関銃が火を吹き、自走砲から榴弾が放たれる。


まるで映画のワンシーンのような情景だ。


その登場人物の一人のバウムガルトナーは自動小銃を構えて障害物を乗り越えて突撃していた。


「全員死ねッ!!」


引き金を引き続け弾幕を張りながら前進していると部下の声が響く。


「少尉ッ!!隠れてッ!」


その呼び声に振り返り足を止めると轟音が差し迫っていることに気がついた。一人の部下が少尉の胴体を掴んで木陰に(かくま)うとすぐ隣に北ナ連の自走式多連装ロケット砲『カチューシャ』から放たれたロケットが次々と着弾した。


平行に並べて柵状にした鉄レールの発射機が載せられたトラックから放たれるロケット砲弾は空を流星のごとく駆け抜けて黒逸軍を容赦なく攻撃してくる。


「…あっ…」


顔についた(すす)を指で拭う。バウムガルトナーの胴体にはロケット砲弾の破片が突き刺さってズダズダになって切断された部下の腕だけが軍服を掴んでいた。


「くっ……ッ」


少尉は小銃を捨てて拳銃を取り出すと敵の陣地へ発砲し、なんとか応戦を試みる。しかし敵も精鋭揃いで銃弾を浴びながらも反撃してくる。


「このままじゃ圧される…!」


辺りには絶望感が漂い始めた。そんな惨劇から彼らを救ったのは、やはりシュヴァルツだった。


機銃掃射を放つ対空戦車ヴィルベルヴィントに乗って颯爽と現れたシュヴァルツは「俺についてこい!バウムガルトナー少尉!!」と叫んだ。

バウムガルトナーはその言葉を聞いてニヤリと笑うと「了解です大尉!!」と叫びながら降りてきた大尉と共に再び進軍を開始した。


「敵の武力は人だ。重戦車で押しつぶせ」


そう言い放ったのは指揮官であるアーデルハイトであった。


虎戦車(ティーガー)ッ!前へッ!!」


そう叫ぶと重戦車が背後から銃撃をもろともせずに敵陣へ向かって前進していく。

その様子を見た北ナ連の兵士たちは思わず銃器を捨てて持ち場を離れていく。


「よし、リーブフント、この指揮官車の運転を引き続き頼むぞ」


少佐が乗る対空戦車は再び重戦車を追いかけるように走り出した。


敵兵を蹂躙し屍山血河を築き上げるシュヴァルツ。撃破され残骸となった敵戦車の上に立つ彼女は背景の紅蓮の戦火と相まってさながら地獄の獄卒と見紛うほどの形相の人影として君臨した。


その姿を見た兵士は恐怖に(おのの)き武器を捨て投降し始めた。


「いっ、命だけは……ッ」


笑顔で承諾するシュヴァルツ。それを好機と捉えたバウムガルトナーはさらに進撃を命じる。


一方、北ナ連側では混乱が続いていた。

突如として現れた死の軍隊によって指揮系統は崩壊し統制が取れなくなっていたのだ。悲鳴を上げて逃げ惑い次々と白旗を上げて投降してくる敵兵たちは口々に叫んだ。


「早く捕虜にしてくれ!督戦隊が俺たちを殺しに来る前に早くッ!!」


その光景を目の当たりにしたアーデルハイトは微笑むと通信機を手に取った。


「こちら第20歩兵大隊アーデルハイト少佐、敵指揮官を拘束」


アーデルハイトの言葉にバウムガルトナーは目を丸くする。


「これでこの戦争は我々の勝利だな」


彼女の言葉にバウムガルトナーは「えぇ、全くその通りですね」と答えた。


こうしてシュヴァルツの部隊は敵部隊の無力化に成功したのだ。


同時刻、同じ前線の別の戦場ではチェルニチェンコ兵長とアバカロヴァ、そしてクチンスカヤが応戦をしていた。


「応援はまだかなのか!?」


「兵長!避難経路の確保ができました!」


「そうか。ならばいい。おじさんがここで敵を食い止める。時間を稼ぐからその間にお前たち後方へ下がれ」


「しかし兵長…!」


「あの進撃を食い止めるのは不可能だ、じきにここも奪われる。だが少しだけでも打撃を与えることはできるんだ。だがお前たちには死んでほしくない。下がってくれ、最後かもしれない軍令だ。言う通りにしろ」


兵長の部下たちは涙を拭い嗚咽を我慢しながら敬礼すると名残惜しそうにその場をゆっくりと離れた。


「アバカロヴァ、クチンスカヤ。お前たちには…まぁ言っても無駄だろうがここを離れる気はあるか?」


「そんなものないです、3人でここまで来たから終わるときも3人じゃなきゃ…そうだよねクチンスカヤ」


「うん…」


「そうか。ありがとう。なら一緒に行こうか」


3人は互いに背中合わせになると迫り来る敵兵の群れを睨みつけた。


「全弾撃ち終わるまでに生きている兵士はいない!残弾は気にせず撃ち続けろ!!」


兵長は雄叫びを上げると拾った短機関銃をガチャリとリロードした。


「兵長!残敵を掃討したら先に撤退した部隊と合流するために旧国境を目指しましょう!」


「なんだってッ!?」


「旧国境まで!撤退しましょうッ!!」


激しい銃撃のなが二人の怒号のキャッチボールが始まる。


「馬鹿言うな!敵を連れて行く気か!!」


「安心してくださいッ!敵は旧国境を超えれば来ませんよ!」


「なんの保証だぁッ!?敵兵がそう言ってたのか!?」


「はいッ!!」


兵長の頭には疑問が残るもその疑問の冷静な分析を脳からとめどなく溢れ出るドーパミンが邪魔をする。


「どうせジリ貧だ!よくわからんがそうしようッ!!」


あらかた敵兵を片付けた三人は銃撃を加えながら後退していく。敵から逃げ切った三人は歩いて撤退しながら道中を進んでいた。


「よかった、全員無事に生き延びられたね」


安堵したように微笑むクチンスカヤ。しかし反対にアバカロヴァとチェルニチェンコ兵長は少し不審そうな目つきを彼女に向けた。


「ねぇ…クチンスカヤ、少しいい?」


三人は歩みを止めた。


「…なに…?」


「…クチンスカヤ…やっぱり私達に何か隠してない?」


その一言にクチンスカヤの顔からは汗がにじみ出た。


「おじさんもなんか変だと思ってたぞ。まるで敵側の動きを知っているような言動や行動ばっかりだ。どこかで情報を入手しているのか?」


「あっ…いやぁ…その…」


思わずたじろいでしまい言葉がスムーズに出てこない。


「やっぱり、クチンスカヤの言葉が私達が一番よくわかる。あんたは正直で嘘をうまくつけないし、隠し事なんて突き通せない。ずっと一緒にいたんだからあんたの事は何でもわかるんだよ?ねぇ、何を隠してるの?」


「それは…ごめん、言えない」


「言って」


アバカロヴァは縮こまる彼女の両肩をがっしりと掴んで詰め寄ってくる。


「大丈夫、私と兵長はどんな内容だろうと否定しない。ただ私達に対して何か隠し事をし続けているっていう事実が嫌なの。だからちゃんと話して?それが仲間でしょ?ですよね?兵長」


「ん?んぁ、そうだな…。クチンスカヤ、お前の隠し事、話してくれ」


「…誰にも…言いませんか?」


「あったりまえだ!」


「実は…」


クチンスカヤはその後二人に総統の暗殺と総書記の暗殺のことも話した。二人は彼女の話を真剣な表情で聞き入っていた。


「…なるほど、おじいさんの知らないところでそんなことが…」


「お願いします兵長、もう計画は着々と進んでいるんです。黙殺してくれませんか?」


「黙殺?」


「はい…両国の平和のためなんです。こんなに多くの犠牲者を出しておいて引き分けっていうのも納得がいかないでしょうけど…それでも…この戦争を終わらせられる潮時は…この計画でしか作れないんです。ことが終わったら私を軍部に突き出してもらっても構いません…!だけど…終戦だけは…私に…!!」


クチンスカヤの必死の懇願にアバカロヴァとチェルニチェンコは顔を合わせた。そして笑った。


「黙殺なんかするわけないだろう?」


「えっ?」


「このまま黙って見過ごすわけにはいかないよね」


二人はクチンスカヤに近づく。彼女は覚悟を決めて目をギュッと瞑った。だが彼女の肩にチェルニチェンコの腕がドサッと掛けられた。


「お前一人でできるわけないだろ?おじさんも混ぜろよ」


「そうそう、敵国と祖国に楯突くなんてすごくかっこいいよ!ちょうど現実世界から逃避するのにちょうどいい娯楽になりそう!」


二人の予想外の反応にクチンスカヤは戸惑うも、協力的な態度の仲間に挟まれて安心したのか熱い涙が頬を伝った。


「あっ…ありがとう…、みんな…ッ!」


三人は肩を組み合って結束していたのだ。


「本当にいいの…私に協力するってことは…」


「言わなくていいぜ。それにほら、どうせもとよりこれ以上の階級昇進なんてないし。祖国にも軍にも思い入れなんてないしむしろ嫌いだ。だったら」


「何で昇進できないんでしたっけ?」


「売国奴ちゃんに協力する横紙破りの性格のせいで〜す!」


朗らかに笑う合う。そのまま「急ごう」という兵長の掛け声で三人は旧国境へと走って向かった。


だが木の影から一人の人物が姿を表した。


「おっ…お前…!」


三人は思わず足を止める。メガネの鼻掛けの部分を指で直しながら現れたのはコチェグラ総司令官だった。


「総司令官が前線になんのようだ?お前の仕事は哀れな青年少女を電話一本で捨て駒みたいに地獄に駆り出させることだろ?」


「そうですね、それと同時にもう一つ仕事があるのですよ。

君たちはなぜ前線から走って来たのでしょうか?」


「…はい?」


コチェグラの冷血かつ張り付いたように変わらない表情にクチンスカヤはかつてされた彼女の尋問を思い出し身震いしてしまった。


「前線からの逃亡、という認識でよろしいでしょうか?」


「いやいや待て、これは敗走じゃないぞ、部隊で決めた戦略的撤た……」


「問答無用」


懐からスパっと抜かれた()()に三人は誰ひとりとして反応できなかった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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