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第六十六話 売国奴の見る夢

どちらの覚悟が上か、それを決めるシュヴァルツとバウムガルトナーとの戦いが今始まった。バウムガルトナー側にはリーブフントも加わって2対1という少し不利な決闘だ。


「どっちかが地面に伏したほうが負け、銃器と刃物は使用禁止、危うくお前たちを殺しちまうからな」


先行を仕掛けてきたのはリーブフントだった。拳を構えたまま待機していたシュヴァルツに向かって突っ込んでくる。

固く握った拳を突き出すとそれを難なく避けたシュヴァルツに反撃される前にリーブフントは後ろに飛び退いた。そして着地と同時に地面を蹴り再び襲い掛かる。

右から左から次々と繰り出される攻撃を前腕で捌きながら前へ、そして隙を見て腹に拳を入れた。


「ぐっ…!」


痛みに耐えながら何とか間合いを取り直すリーブフントを援護するためにシュヴァルツの背後に回り込んだバウムガルトナーは、その実力差に舌を巻いていた。


「(やはり怪物ッ!ずっと見ていたい、那由多の果てまで……。でも…!今はッ!!)」


後ろに目があるかのようにこちらの動きを読んでいるのか、バウムガルトナーの打撃は全て防がれてしまう。しかしそれでいいのだ。バウムガルトナーの目的はシュヴァルツを釘付けにしてリーブフントを回復させ自由にさせることだからだ。

バウムガルトナーがニヤッと笑ったのを見てようやくそのことに気がついた。


「な!?」


リーブフントがシュヴァルツの後ろに現れていた。一瞬反応が遅れたシュヴァルツ、それを狙って二人同時攻撃を放つ。

だがそれすらも瞬時に判断し、裏拳を繰り出して二人の連携を崩した。


そしてすぐさま体勢を整えようとするバウムガルトナーに肉薄して顔面を鷲掴みにするとリーブフントはおもむろにナイフを取り出した。


「はい、反則負け」


大尉の指摘にリーブフントはハッと気がついたように

慌ててナイフを捨てる。


「俺の勝ちだな、リーブフント、そしてバウムガルトナー。二人は俺たちの夢には付き合ってもらうぜ」


二人は疲れからかゼェゼェと息を吐きながら地面に座り込んで額の汗を拭う。


「…はい、分かりました。終わり方は不本意ですがこうなることはわかっていましたし…私は貴方について行きます。准尉もいいよね…?」


リーブフントもコクリとうなずいた。シュヴァルツは二人に対して手を伸ばす。


「改めてよろしくな」


差し伸べた手を二人はぎゅと握りしめる。四人は絆で結ばれたのだ。地獄の戦禍の中で目的が一致した売国奴たちがシュヴァルツの助力を借りて立ち上がった。


四人は兵舎へと向かうとそこで大量の手紙が入った木箱が置かれている部屋の扉を開けた。


「これは…」


「野戦郵便に届けられる手紙たちだ。俺たち四人は戦場からなかなか動けない、帝都で自由に行動できる協力者が必要だ。反結束党グループのリーダーたちとコンタクトを取るために手紙を書く」


シュヴァルツは机に座ると万年筆と縦に長い手紙を一枚手に取った。


「二人は部屋の外で見張りを頼む」


バウムガルトナーとリーブフントは素直に退出し、大尉は執筆しようとペン先で机をつつく。


「なぁ少佐、この手紙って誰かに見られたりするのか?」


「当然だ、現場の将校と軍部を通して検閲される。そぐわないと判断された単語は黒塗りにされるぞ」


「へぇ…なるほど、少佐はどの単語が黒塗りにされるかとかわかるのか?」


「あぁ、君がいない間ちょうど検閲の仕事をしていたからな、どの単語を消せばいいかの指南書がある、その写し書きがこれだ」


「すごいな!流石だ!」


「(まさか検閲の仕事を部下に押し付けられてたなんて言えない…)」


しかしいくら検閲される単語がわかったところでそれを回避するすべはない。そこで大尉はあることを思いついた。


「う〜ん、検閲されちゃうんじゃ素直に手紙はかけないなぁ…。あ、そうだ、じゃあ()()()黒塗りにさせちまえばいいんだ」


「どういうことだ?」


「わざと検閲される単語を使って()()を表現する。たとえ検閲されたとしても相手に伝わるようにな」


大尉は筆が乗ったのかスラスラと異世界の言語を書き連ねていく。


「(すごいな、書きたい言葉が知らない文字として出力される…こいつの体が異世界の文字を覚えているんだな)」


日本人の宅郎には理解できないが体が異世界の言語を覚えている。お陰で筆はつまずくことなく自分の言葉を記し終えた。


「あとはこれを軍部が検閲してくれりゃぁ完成だ」


したり顔で笑みを浮かべる大尉。少佐はその意図を理解できなかった。


「…ちなみに誰に宛てたんだ?総統は全官庁、党機関、交通通信機関、放送局、軍法会議の全てを掌握しているんだ。それに対抗できる程の人間なんだろうな」


「もちろん。俺が宛てた相手、それはベッケンバウアー総司令官によって退役させられた元参謀総長だ。そいつは反ヘルダーリングループを結成して帝都を拠点に活動しているらしい。その名も『黒い聖歌隊』だ。彼らこそが俺たちの協力だ」


黒い聖歌隊、その組織こそが総統暗殺の足がかりになると彼女は言う。少佐は目を見開いて記憶を遡る。


「元参謀総長…私は覚えている…たしか、名前は…」


黒逸第三帝国帝都ハイフェンブルグの中心部から少し外れたアパートに手紙が届いた。時刻は真夜中、すでに街は眠っていた。


「ベック。我々に宛てた手紙が届いたわ。仲間の軍人が気づいてくれたみたいでくすねてきてくれた。最悪なのは検閲済みだってこと」


外ハネヘアの女の子が茶封筒をもってドアを開けながら話す。カーテンを締め切った暗室でランプの明かりをつけると椅子に座っている丈の長い黒いコートを着た人影が浮かび上がる。


「おおクラウスナー、感謝するぞ」


二人共少女だった。清潔感のないボサボサの濁った水色の髪を見た少女は封筒を渡しながら指摘する。


「もう、相変わらず髪型乱れてんだから、軍人時代を忘れたの?言われるはずよ」


「うるさいなぁ、私が参謀総長だったのは過去の話だ、人生最大の汚点である隷属の時代だ、これはその反逆だ」


「わぁ言い訳だ」


蝋封を切って手紙を引き出すと分厚くたたまれていた手紙がひとりでに机の上で展開した。想像以上に縦に長い手紙に二人共何が書かれているのかと気になって覗き込んだ。


肝心の手紙の内容だったがほとんど黒塗りにされた文が続くだけで元の文が予測できないほどの検閲済みの手紙に二人はため息をついた。


「何だこれ、長文の上にほとんど軍部に検閲されていて読めないじゃないか。嫌がらせか?」


「封にも検閲済みの印鑑が押されている。誰からかな…差出人の名前はも書いていないしやはりいたずら……」


「いやまて、この手紙おかしいぞ」


ベックという少女は手紙に顔を近づけて目を動かす。


「この手紙、長文のくせに中身がない」


「…嫌味?」


「違う、変なところで改行してるんだ。それを繰り返しているせいで本来もっと短くまとめられる内容なのにこんなに長くなっている。何か意図があるのかもしれん。わざわざ文を区切って増やしてるってことは何か……」


眉をひそめて熟読していると、背後にいたクラウスナーがようやく法則に気がついた。


よく見てみると黒塗りされた箇所が一つの行につき3つか4つあった。それが同じように続いている。

検閲された単語の長さによって黒塗りの長さは変わる。長い棒のように黒く消されていたり、短い単語の場合はチョンと短く消されている。


その指摘を聞いたベックはようやく理解した。その大系の暗号を知っている。


「これ…モールス信号だ」


二人は目を丸くした。


「モールス信号?」


長点(ながてん)短点(みじかてん)の符号を組み合わせて文字を表現するアレだ。なんでこんなに不自然に改行されているのかがわかった。一つの行に一つの符号が隠れていると読み手に気づきやすくするためだ」


「あのトン・トン・ツーって指で打つと鳴るやつよね、それを検閲部分で表現したってこと?」


「あぁ驚いた。この手紙、黒塗りの長さでモールス符号を形成しているんだ。あらかじめ軍部に黒く塗られることを予測して単語を配置して書かれたものだ。

…欧文モールスに直してみよう、文ができるはずだ」


手紙を見ながら白紙に解読した暗号を記していく。


「ええっと、最初の文での黒塗りは『○○○███○○█○○████○○○○』だから直すと『-・-(ツー トン ツー)』、だから…『K』だ」 


「読めるんだ」


「腐っても元軍人だ、打電のために覚えている」


その調子で解読した文字を連ねる。


「(文は十三行、だから十三文字の文が出来上がるはずだ…なんだ…ここまでして私達に伝えたいこととは…!)」


解読を終えたベックは出来上がった文字を見つめた。

出来上がった文、それは…。


「Kill the Führer」


総統を殺す。出来上がった言葉に二人は背筋を凍らせた。


「検閲されて消された部分をモールス符号に見立てて送られてきた手紙、そこからこんな文字が浮かび上がったってきたってことは送り主は私たちと手を組もうとしているのかな?それに相手は軍人の可能性が高い、消される単語を全て把握していないとこんな込み入ったことできないし」


「…恐ろしく頭が回るやつだ。たしかに私たちの目的は総統を殺して臨時政府を樹立させ北ナ連に講和を持ちかけようというのはたしかだが罠かもしれん」


「…地図も入ってたわ、一箇所に赤く印が…日にちと席も指定されてる」


「話がしたければそこに来いと言うことか…いいだろう、一度顔を見てやろう」


ベックとクラウスナーのもとに届いた黒塗りの手紙。それはまさしくシュヴァルツから彼女たちへとつながるための架け橋だった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯




【補足】


この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。


登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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