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第十七話 少女兵の休息

ケッテンクラートの後部座席の足場に立つシュヴァルツ大尉と運転するバウムガルトナー少尉が耕地のあぜ道を走っていると大尉が何かを見つけた。


「おい、誰かいるぞ」


「友軍の検問ですね」


同じくケッテンクラートと短機関銃のMP40をもつ黒逸兵が道に止まって彼女たちを呼び止める。


「手帳を」


二人は胸のポケットから黒い手帳を取り出して手渡すと、通行の許可が降りた。


「検問があるってことはもうすぐですね」


しばらく走らせていると、アハトアハトを先行していったSdKfz7と(から)の牽引台車が丁寧に駐車しており、いくつかのテントも張られた仲間の野営地に到着した。

森の中の野営地は森林が伐採されて多少(ひら)けていて、地理的には丘の上らしい。


半装軌車から降りると丘の下に展開された対空砲陣が見える。

砲架を伸ばし施設されたアハトアハトの砲身は斜め上の空を見つめまばらに並んでいる。


「準備は万全ってとこっスかねぇ」


二人が砲陣を見つめていると背後からやってきたハーン曹長に声をかけられた。


「おお、ハーン。久しぶりだな」


「移動ご苦労っス。どうっスか?(ねぎら)いましょうか?」


「ほう、大口叩くじゃないか?何してくれるんだ?」


「そうっスねぇ…肩もみとか…」


「…老人じゃないんだから…まぁでも、せっかくやってくれるんだったら甘えようかな。

少尉も疲れたろ、休んでていいぞ」


そう言い残すと大尉はハーンにつれられてどこかへと消えていってしまった。


少尉を残してテントの中に入った大尉は木の椅子に座り込んで背もたれに寄りかかると、ハーンが手揉みと肘を駆使して彼女の肩をほぐし始めた。


「おぉ〜…なかなか気持ちがいい、うまいもんだな」


「硬いっスね」


「重労働が重なってまともに息抜きもできなやしないしな、正直ありがたいよ」


大尉は完全に気が緩み、ハーンに背中を預けていた。


「…記憶喪失って話、本当みたいっスね…」


「あぁ、でも嫌じゃないさ、いいことだってある」


「…自分は嫌っスけど…。まるで…別の人格が入り込んだみたいで…全くの別人になってしったのは悲しいっス」


「お、おう…(本当は日本から転生してきたミリヲタだなんて言っても信じてもらえないだろうしな…)」


するとハーンは二人きりの状況で何を思ったのか、前触れもなく大尉の背中に腕を回して抱きついてきた。


「そうっスか…じゃああの日のことも覚えていないんスね…」


「あ、あの日?」


顔が近い。

ハーンの少し恥じらって頬をピンクに染めながら小さく耳元で熱い吐息と共に囁いた。


「忘れちゃったんスか…?あの日…身体を重ね合った日のことを…♡」


突然のハーンの告白にシュヴァルツはたじろぐ。


「な…!何を言ってるんだ!?」


「パイセンが思い出すまで待つって決めたんで、気長に待ってるッス。

あの日、約束したんスからね、『必ずハーン、お前を幸せにしてやる』って」


「俺…お、女同士でそんなことを…!?」


恥ずかしくて顔から火が出る。

突然転生してきた宅郎にとってはなんの関係もなかったが、ハーンにそう言われるとほんのり少しだけ嬉しくなってしまった。


「ふーん……まぁいいッスけど……。一応、裸の逢瀬(おうせ)を重ねた仲っスからね、それ以前にも大尉が困っていたときに色々と援助してあげたのも自分スから、少しぐらい恩は返してほしいっス」


「そうなのか、すまないな、何も思い出せない。検討しておくよ」


「よろしくっス、特に金銭面は優先的に、ね」


ハーンはそのままテントから出ていってしまった。


「…クソ…!その記憶だけ今俺の中に蘇ってくれ…!!」


下心丸出しの悔しさで歯を食いしばり太ももを軽く叩いた。


それからしばらくして興奮冷めやらぬといったニヤニヤした顔でテントから出ると目の前にバウムガルトナーが突っ立っていた。


「うわっ…!?少尉…どうしてここに…」


「別にどこにいようがいいじゃないですか……それより…聞いていたんですけど…」


少尉は大尉に詰め寄ってきて睨むように尋ねる。


「な、なぁバウムガルトナー、そ、その……俺とさ…ハーン曹長って…その…そういう…え、えっちな関係だったみたいで…えへへ…」


「なにニマニマしているんですか、聞いたことをないですよそんなの。ハーンが大尉と話すようになったのって最近ですよ」


「えっ……?」


大尉の興奮が一瞬にして覚める。


「本当か…?じゃああいつ、俺の記憶にあることないことねじ込んでんのか…?」


「どうでしょう、ハーンがタバコを大尉に立て替えさせたなんてのも嘘かもしれないですね、とういうか多分嘘です、あの…言葉は悪いですけど金の亡者の大尉が部下のために立て替えなんて絶対しないですし…」


バウムガルトナーの話を聞いているうちに、さっきまで浮かれていた自分が馬鹿見たく思え、同時に、少しでも期待させるようなことを言ってきた曹長に怒りが湧いてきた。


「…やっぱりそうか、あの野郎ぉ…小癪(こしゃく)な奴だ」


「許せません、大尉の行動の一挙手一投足を常に監視…じゃなくて見てますけどそんな事していた様子なんてないですよ」


「…よし、ちょっと試してやるか」


大尉と少尉はずっしりとした足取りでハーンを目を皿にして捜索すると()を発見した。


「見つけぞ!俺の純情を弄びやがって!」


ハーンはポカーンと不思議そうな顔をしたあと、趣旨を理解したのかニヤリと笑った。


「なんスか?」


「ハーン、俺と身体を重ねたとかなんとか言ったな」


「えっ…あ、あぁ〜…言ったっスねぇ、で?それがなんです?」


すると大尉は一人ほくそ笑み、堂々と言い放つ。


「じゃあ、俺の大陰部にほくろはあるか?あるとすればいくつだ?見たんだろ?触ったんだろう?擦り合ったんだろう?答えろ」


「えッ…!?それは……」


それは身体を重ねたはずのハーンなら答えられる質問だった。


「さぁ早く!色は?大きさは?数は?薄いか濃いか!?答えろ!」


だがしかし、口をすぼめるハーンに大尉が答えを急ぐと観念したのか膝をついて頭を垂れた。


「…す、すいませんっス…実は…あの話は虚構で……ッ!大尉の威を借りることができれば…昇格できるかと少しでも思ってしまったんっス…」


「お前…!やっぱり……ッ!!」


大尉が手をあげようと振るった瞬間、ハーンからもバウムガルトナーからも短い悲鳴が上がった。

特にバウムガルトナーば怯えたような目つきで異常なほど震えている。


(…そうだ…俺は…シュヴァルツは……部下に手をあげようとしたのは…)


少し反省した大尉はハーンと目線を合わせるように片膝をついてかがむと肩に手を乗せて優しく言う。


「手ェ上げようとして悪かった、これじゃあ何も変わらないな。

だが俺を(だま)そうと、しかも際どい手法で(かた)ろうとしたことは見逃せない。

一切の所業と不敬をチャラにする代わりにハーン曹長、お前を敵陣の偵察隊長に命ずる」


その瞬間、彼女は血色を変えて懇願し始めた。


「い、嫌っス…!それは…!ちゃんと謝ったじゃないっスかッ!?じ、自分…直々の上官であるバウムガルトナー少尉の軍令しか聞きませんスから…ッ!!」


「だとよ、バウムガルトナー、どうする?」


「当然、貴方は大尉の、私の大切な大切な大尉の貞操を脅かし、上官を利用しようとした。

本来ならば軍法会議にかけらるはずですが、大尉の恩威と惻隠(そくいん)をもって恩赦してくれた尊き温情に応えるべく、軍務を果たしなさい。

ハーン曹長を偵察隊長に命じます。大丈夫、部下はつけますから」


「そ、そんなぁ〜……じゃ、じゃあ大尉!せめてほくろの数を…!!」


「バーカ、言うかそんなん。

…まぁ答え合わせは、お前の努力次第でできるかもな」


「えっ…それっt」


「俺に言わせるな!さっさと偵察してこい!!」


「はいぃぃッ!!」


ハーン曹長の子供だましな企みは一瞬にして露見し、あっけなく潰えた。

偵察という重役を任命されたハーンは渋々受け入れて、日々敵陣と自軍の往復をすることになるのであった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯


【補足】

この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。

登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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