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第十六話 夜明けの黒い怪物

野営地に夜がやってきた。


濃紺の夜空に無数の星々と地上をほのかに照らす月が浮かび上がり燦々(さんさん)ときらめいている。


シュヴァルツやバウムガルトナーは野営地の兵舎と称して張られたテントの中、二対(につい)のマットレスと掛毛布だけの簡素なベッドに横たわっていた。


するとバウムガルトナーはかまぼこ型の立体の網をベッドの下から取り出した。


「ん?何だそれ」


「これで身体を覆って寝るんですよ。

夜になるとネズミが耳を噛むので」


どうやら防鼠金網のようだった。


彼女はヘルメットを置き、首元の筒型マフラーで顔の縁を覆って就寝の準備をする。


テントの中を小さな灯油ランタンの淡い暖色の光が包み、壁に二人の影を揺らす。

大尉もその光源を消して月明かりの中、横になって天井を仰ぐ。


日が沈む。夜が来る。

それだけのことが、こんなにも恐ろしいとは。

夜の怖さとは、このようなものだったとは。


敵がいつ奇襲を仕掛けてくるかわからない。

風で揺れる草木の音でさえ、敵の歩く音に聞こえる。

月が俺たちの居場所をこっそり教えているようにさえ見える。


この静寂を打ち砕く銃声が聞こえるかもしれない、そのときは立ち上がって暗闇に潜む数もわからぬ敵を殺さなければならない。


「…こんなにも…眠くならない夜が来るなんてな」


身体を横にして枕を抱きしめると、そのうち安堵(あんど)からか、落ち着いた眠りに就けた。


召集は太陽が丘陵(きゅうりょう)から昇る前に出された。


まだ紫色した雲がたなびく下でアーデルハイト少佐直々の笛によって叩き起こされた兵士達がきれいに整列して少佐の前に立つ。

その中に、寝ぼけ(まなこ)を擦る大尉と少尉もいた。


「よく聞け、早朝前、総司令官より電報があった。

それは占拠された都市の奪還を命じるものだ。


先程師団長と協議し私率いる第20歩兵大隊がその()えある軍務に就くこととなった。

すなわち、君たち任務とは、軍隊の総力を挙げて行われる作戦において、最前線に立ち、自らの生命を投げ出してでも祖国のために戦うことである。

都市奪還の為、我が軍は全力を尽くすであろう。

諸君らもその一翼を担うことを誇りに思い全力を尽くしてくれ。

出発は今日の7時頃とする。

それまで各員休養に努めてくれ。以上だ」


息継ぎなしに語られた内容に兵士達は馴れたもんだとでも言うように「はいッ!」と答えた。


その都市は軍事都市として栄え、軍需工場や軍の施設が立ち並ぶ、まさにこの国の心臓部と言っても過言ではない場所らしい。


その都市の郊外には開けた草原があり、そこが今回の作戦における前線基地となる予定となっていた。

そして、戦車連隊から戦車約100両、装甲車等各種車両約50両が出撃する手筈(ではず)となっている。

おまけに空軍の航空支援という手厚いサポート付きだ、前回の功績のおかげか、少しは期待されているみたいだ。

また、後方では補給部隊が待機している。戦う準備は万全らしい。


「都市の状況はどうなんだ?」


「あぁ、敵軍が包囲しているな。推測だが敵兵数は2万人ほど。それと、都市の周辺にある森だが、あれは全て敵の所有地になっているようだ。

そのため、我々の部隊はそこに展開できないだろう。

だから、あの辺りの森林一帯が我々にとって不利な地形になる。


まぁ、だからこそ敵の方にも攻め込みやすいんだろうけどね。

だからといって何もしない訳にはいかない。

そこで我々は森の南側に位置する平地で戦闘準備することにしたよ。

だから森からは遠い位置に陣取ることになると思う。

もちろん、敵との距離は十分に離してるさ。

しかし、それでも気をつけてくれ。いつどこから攻撃されるか分からない状況だ、油断はできない」


「了解した。ありがとう」


日が昇ると辺り一帯は黄金色に包まれる、

なびく草木が燃えるように照らされて夜明けを告げた。


「さぁ、君も準備をしておくんだ、誰も君を待ってはくれないよ」


キューベルワーゲンとケッテンクラートなどの兵員を乗せる装甲車、アハトアハトを台車に載せ牽引するSdKfz7と呼ばれる半装軌車、そしてIII(さん)号戦車、IV(よん)号戦車、VI(ろく)号戦車ティーガーIなどの中戦車から重戦車まで勢ぞろい。

戦車隊列が徒歩で移動する歩兵に合わせて走行していく。


その隊列がケッテンクラートの後ろの席に乗る大尉の横を通ると彼女は目を輝かせて見渡している。


「す、すごい…ッ!まさかこの目で戦中のドイツ戦車を拝めるとは…ッ!!」


側面に鉄十字ではなく、黒逸帝国の識別マークである銀のSでルーン文字であることが少し残念だ。


「忘れないでくださいね!私達の役割は戦車の護衛ですからね!まぁ楽しそうなのでいいですけど……」


運転席でハンドルを握る少尉は少し呆れつつも、浮足立っている大尉を見て微笑んだ。


牽引車両は速度をあげて見えなくなる、残されたのは戦車隊列と装甲車と共に移動する歩兵だけだ。


機械化歩兵の大隊が進軍していると、突如大尉は()()を探知した。


「プロペラのエンジン音…偵察機かもしれないぞ」


「えっ…!?まずいです…!早く隊列を隠さなければ!!」


他の兵士たちもその音に気がついたのか、上空を見渡して左往右往していると、空の果てから数機の機影が見えてきた。


「アレは…ッ!!La(ラーヴォチキン)-5ッ!?北ナ連の単座戦闘機です!!」


「何だとッ!?クソっ!対空砲のアハトアハトは行っちまったし…!見つかる事だけは避けたい!!」


しかし大尉の心配通り、二本の麦穂が側面に描かれた二十機ほどの敵機は降下を始めると速度を上げ、機体の下に装備したロケット弾を一機一発ずつ発射してきた。


白い尾を引く火薬の流星は戦車隊列に向かってやってきて着弾すると兵士たちは慌てふためき、動き遅れた戦車は爆破炎上、その衝撃が兵士たちを襲う。


「あれは…RS-82!!ソ連の対地無誘導ロケットまでこの異世界にあるのか…!


()()()()()()()()…ッ!!」


すると大尉は車両を降りて呆気にとられてハンドルを握って動かない少尉に告げる。


「あの機体は普通の戦闘機と比べて航続距離が短い、ということは近くに基地があるということだ、それは敵のある都市まで近づけたと言うことを意味する、それは小さな成功だ、ただし、都市奪還が成功するかどうかは()()()()()()()で変わってくるッ!!」


そう言って急いで近くの爆風に巻き込まれて破壊されたキューベルワーゲンに駆け寄って使えそうな兵器を探る。


「戦車が標準を合わせるまで時間がかかる、それまで時間を稼がなければ…!」


すると後部座席から一つの兵器を発見した。


「これは…パンツァーファウスト…!?

しかも安全ピンが外れている…危ねぇ……」


それは第二次世界大戦時、ドイツ軍歩兵が携帯式対戦車兵器として使った無反動砲の一つだ。


あとをつけるように走ってきた少尉は大尉を止めにかかる。


「パンツァーファウスト…!対戦車兵器ですよ!?空を飛ぶ戦闘機を撃ち落とせるわけが…」


「確かにこの兵器は弾速が遅く、弾道も落ちやすい。弾道予測と偏差射撃のスキルが要求されるが、それはすでにFPSで習得済みだ。

この兵器で敵の戦闘機をいくつキルしたことか」


「…?なんの話です…?」


「お前を守ってやるって話さ」


「…え…っ!?」


大尉の表情はいつもよりかっこよく見え少尉は思わず頬が赤らむ。


彼女は発射管の照準器を立てて幼い身体に不釣り合いな7キロ近い重さの兵器を肩に担ぎ、飛来する敵の一機を視野に入れる。


「後方爆風に気を付けろ!火傷するぞ!」


少尉が後ずさったのを確認するとトリガーを握り押しす、すると発射管内部の爆発力で弾頭がシュコン!と前方に吹っ飛んでいった。


「うわッ!?」


その威力でシュヴァルツの小さな身体はふっとばされて地面に叩きつけられたが、身体を起こす前に、視界に赤い紅蓮の閃光が一瞬見えると見事命中したことを確信できた。


「俺の女に手ェ出したからさ、だからお前は負けたんだ。

()にな闘犬、口輪(マズル)も飛んで自由だぜ。

その四つ足で、十万億土を踏みやがれ」

 

立ち上がって使い終わった発射管を捨てた瞬間、敵機の残骸が彼女の背後に墜落した。


轟々と燃える烈火と黒煙を背にして立つシュヴァルツ大尉には闘将のような威厳がすでについていた。


しかしまだ敵機は攻撃を仕掛けてくる。

ロケット弾を撃ち終わると今度はUターンしてきて機首の機銃で攻撃を仕掛けてきた。


「急げッ!!車の影に隠れろ!!」


少尉を抱きかかえて乗ってきた車両に身を潜めると同時に野ざらしの歩兵たちも戦車の影に隠れて機銃をやり過ごした。


そして戦車の上空を通過した瞬間、砲身を上げていた戦車の回転砲塔が砲声を上げた。


発射と共に車体が揺れる。

硝煙を切って飛んでいく砲弾の逆襲は空を傍若無人に飛び交っていた敵機たちを背後から襲って命中し始めると、生き延びた機は逃げるようにもと来た方向へ去っていった。


大隊は撃墜5機という突然の攻撃にしてはまずまずの戦果を叩き出したのだ。


大尉の活躍は隊員だけでなく、アーデルハイトもしっかりと見ていた。


「…とんでもない奴だ、まさか敵機に恐れずに立ち向かい、その上一人で戦闘機を撃ち落とすとは…まさに闘将、『()()()()』だ。


…はっ、つい彼女に見とれてしまっていた…!急いで被害を確認しろッ!!」


のちに確認された被害は戦車撃破3輌、死傷者20名にとどまった。


「RS-82の命中率が低いのは有名な話だ、恐れる必要なんかないぜ。さ、少尉、まだ動き出しに時間が掛かりそうだし、俺たちだけでも砲兵たちに追いつこうじゃないか」


「はいっ!」


一仕事終えた二人は停滞する大隊より先に先行していった牽引車両を追ってケッテンクラートを走らすのであった。

評価、ブクマ、感想などいただけると大変励みになります…!ぜひ…!╰(⸝⸝⸝´꒳`⸝⸝⸝)╯


【補足】

この物語は史実である第二次世界大戦時の独ソ戦(1941〜1945)辺りの時代背景を下敷きの異世界でドイツ国とソ連がモチーフの国との戦争を生き抜く物語です。

登場する兵器や軍服などは名前が出ているものは実際に大戦で使われた物であり、調べていただきながらお読みいただくとより一層楽しめるかと思います୧( ˵ ° ~ ° ˵ )୨

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